この記事は、2024年8月2日に発表された、APAMAN株式会社(以下、アパマン社)がマネジメント・バイアウト(MBO)を実施し、株式を非公開化することを発表したリリースについてまとめたものです。MBOとは、経営陣自らが自社の株式を取得し、非公開企業となることを指します。

アパマン社のMBOは、企業価値向上のための戦略的選択と言えます。市場環境の変化やDX化への対応といった課題に対し、非公開化によって機動的な意思決定と迅速な投資を実現し、中長期的な成長戦略を追求することを目指しています。一方で、一部事業の売却は、選択と集中を明確化し、コア事業への資源集中を図る狙いがあると考えられます。

案件概要

今回の案件は、アパマン社の株式非公開化を目的としたMBOであり、同時に子会社再編と株式譲渡を伴う複雑な構造となっています。

  • MBO(マネジメント・バイアウト)
    • 買収者:株式会社ASN(公開買付者)
    • 買収対象:アパマン社の全株式および新株予約権(一部を除く)
    • 買収価格:
      • 普通株式:1株につき729円
      • 第6回新株予約権:1個につき1円
      • 第7回新株予約権:1個につき24,200円
    • 買収資金:銀行からの借入を予定
    • 買収後の上場:アパマン社の株式は上場廃止となる予定
  • 子会社再編
    • Apaman Property株式会社の会社分割(吸収分割)を実施
    • 分割対象事業をRE-Standard株式会社に承継
  • 株式譲渡
    • 会社分割後のApaman Property社とwepark株式会社の全株式を株式会社NSSK-G1に譲渡

ポイント

  • MBOと子会社再編、株式譲渡が同時に行われる
  • 買収価格は、市場株価法、類似会社比較法、DCF法などを用いて算定
  • 少数株主の利益保護のため、特別委員会を設置し、独立した専門家からの助言も取得
  • 公開買付け後、株式等売渡請求または株式併合により、全株式の取得を目指す
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https://www.release.tdnet.info/inbs/140120240731559795.pdf
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https://www.release.tdnet.info/inbs/140120240731559795.pdf

案件目的

  • 機動的な経営体制の構築
    • アパマン社は、MBOによって株式を非公開化することで、短期的な業績に左右されない経営体制を構築し、中長期的な視点に立った戦略的意思決定を可能にしたいと考えています。
    • 上場企業である場合、四半期ごとの業績報告や株主からの短期的な利益追求圧力など、経営の自由度が制限される側面があります。非公開化によって、これらの制約から解放され、より柔軟かつ迅速な経営判断が可能になります。
    • 特に、今後の成長戦略として掲げているDX化推進には、積極的な投資と抜本的な事業改革が必要となります。これらの施策は、短期的には業績悪化リスクを伴う可能性があるため、非公開化によって株主への影響を懸念せずに、腰を据えて取り組むことができると考えています。
  • 事業の選択と集中による更なる成長と企業価値向上
    • アパマン社は、MBOと同時に子会社再編と株式譲渡を実施します。これは、事業ポートフォリオを見直し、コア事業に経営資源を集中させることを目的としています。
    • 具体的には、九州地域以外の賃貸管理・サブリース事業などをNSSK-G1社に譲渡し、一方で、九州におけるプラットフォーム事業やテクノロジー事業などを中核事業として残します。
    • これにより、譲渡対象事業はNSSKの支援の下で更なる成長を目指し、アパマン社は残された事業に経営資源を集中投下することで、「アパマンショップ」ブランドの強化やDX推進を加速させ、企業価値向上を図ります。

案件背景

業界全体の動向

  • 競争激化:賃貸不動産業界は参入障壁が低く、競争が激化しています。
  • 不動産市況の不透明感:新型コロナ、少子高齢化、金利上昇など、不動産市況の先行きは不透明です。
  • DX化の必要性:AIなどのデジタル技術を活用したサービスへの転換が急務となっています。

アパマン社自身の課題

  • 積極的な投資の必要性:DX化推進には、積極的なIT投資や事業改革が必要です。
  • 短期的な業績圧力:上場企業であるが故に、短期的な業績が重視され、中長期的な投資が難しい状況です。
  • 事業ポートフォリオの見直し:さらなる成長には、事業の選択と集中が必要です。

案件後の経営方針

MBO後の経営方針は、大村氏及び石川氏とNSSKがそれぞれ担う事業によって異なります。

大村氏及び石川氏が主導する本継続事業

本継続事業では、「アパマンショップ」ブランドを最大限に活用し、FC統括本部としての機能強化を図りつつ、以下の施策を推進する予定です。

  • 社宅管理事業の強化
    • 営業人員増強、付帯サービス開発、WEBシステム開発・更新を通じて、質の高い社宅制度運営と、借上社宅提携社数・管理戸数の増加を目指します。
  • FC加盟店向け新AIシステム・ツールの導入
    • 新AIシステム・ツールの開発と導入支援強化により、加盟店の業務効率化や新制度対応を支援します。
  • 加盟店管理戸数の増強
    • 新規フランチャイズ店舗立ち上げ支援や既存不動産事業者の加盟促進を通じて、加盟店舗数と管理戸数を増やします。
  • 人員増強・育成
    • 新卒・中途採用強化、研修プログラム見直し、評価体系導入などを通じて、人員増強と人材育成を行います。

これらの施策を通じて、顧客サービス向上業務効率化収益拡大を図り、企業価値向上を目指します。

NSSKが主導する譲渡対象事業

譲渡対象事業では、NSSKが持つ経営ノウハウやネットワークを活かし、以下の施策を展開する予定です。

  • 管理戸数の拡大
    • 積極的な業務提携、商品開発、営業体制強化などにより、管理戸数の拡大を図り、売上向上を目指します。
  • M&A及び事業提携
    • NSSKの豊富な投資実績とノウハウを活用し、M&Aや事業提携を積極的に推進し、非連続的な成長を目指します。
  • 経営の見える化、DX化
    • データ分析に基づく経営管理体制を構築し、DX推進による業務効率化と顧客満足度向上を図ります。
  • 内部管理体制の強化
    • 監査法人導入、内部規則整備、研修体制構築などにより、内部管理体制を強化します。また、NSSKの人材ネットワークを活用した専門家採用も検討します。
  • 人材育成・補強
    • 従業員定着率向上プログラム導入や外部人材補強などを通じて、人材基盤強化を図ります。

案件検討の経緯

アパマン社のMBOに関する検討経緯は、大村氏、石川氏、NSSK、そしてアパマン社自身による複数回の協議や交渉を経て進展しました。その詳細な流れは以下の通りです。

初期段階の協議(2023年8月下旬~2024年2月中旬)

  • 大村氏、石川氏、NSSKは、アパマン社の企業価値向上施策について協議を開始。
  • 当社グループの強みである独立性を活かした成長戦略や事業ポートフォリオの見直しについて議論を深めました。
  • その結果、MBOによる非公開化と一部事業の売却が有効な手段であるとの共通認識に至りました。
  • NSSKは、アパマン社の賃貸管理・サブリース事業の成長性に注目しており、自社の経営ノウハウを活用した支援が可能と判断しました。

MBO提案と特別委員会の設置(2024年5月)

  • 大村氏は、アパマン社に対してMBOと一部事業売却を提案。
  • アパマン社は、提案を検討するための特別委員会を設置。
  • 特別委員会は、独立した専門家(プルータス・コンサルティング、森・濱田松本法律事務所)を選任し、公正な手続きを確保しました。

買収価格交渉とデューデリジェンス(2024年6月~7月)

  • 特別委員会と公開買付者の間で、買収価格に関する交渉を複数回実施。
  • NSSKは、譲渡対象事業に関するデューデリジェンスを実施し、アパマン社との間で譲渡条件などを協議。
  • 特別委員会は、事業計画の妥当性や株式価値算定結果などを慎重に検討しました。

取締役会決議と合意(2024年7月~8月)

  • 特別委員会と公開買付者は、買収価格について最終合意。
  • アパマン社とNSSKは、株式譲渡契約を締結。
  • アパマン社取締役会は、MBOに賛同し、株主へ応募を推奨する決議を実施。取引スキームの特徴点
  • MBOと同時に、子会社の会社分割と株式譲渡を実施
  • 買付予定数の下限は設定されているが、上限は設定されていない
  • 公開買付け後に、株式等売渡請求または株式併合による完全子会社化を予定

取締役会の意見

アパマン社取締役会は、本公開買付けに賛同し、株主に対して応募を推奨することを決議しました。

  • 賛同理由
    • 本MBOは、企業価値向上に資すると判断
    • 買収価格や手続きは、少数株主の利益保護の観点から妥当と判断
    • 本MBO後の経営方針や戦略は、持続的な成長と企業価値向上に資すると判断
  • 応募推奨理由
    • 第7回新株予約権の買付価格は、普通株式の買付価格と新株予約権の権利行使価格の差額に基づいており、株主にとって有利と判断
    • 第6回新株予約権の買付価格は1円と低く、応募するか否かは株主の判断に委ねる

特に、取締役会は、本MBOがアパマン社の企業価値向上に資するものであることを強調しています。具体的には、非公開化による機動的な経営体制の構築、事業の選択と集中、DX化の推進といった施策を通じて、中長期的な成長と企業価値向上を図ることができると判断しています。また、買収価格や手続きについても、少数株主の利益保護の観点から妥当であることを確認しています。

価格の算出方法

買付価格は、主に以下の方法で算出されました。

  • 市場株価法:過去一定期間の市場株価を参考に算出
  • 類似会社比較法:類似企業の株価と比較して算出
  • DCF法:将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出

特に、DCF法では、以下の詳細な手順が踏まれています。

  1. 将来キャッシュフローの予測:アパマン社が作成した2024年9月期から2027年9月期までの事業計画を基に、フリーキャッシュフローを予測
  2. 割引率の決定:加重平均資本コスト(WACC)を6.0%~6.7%に設定
  3. 現在価値への割引:予測されたフリーキャッシュフローをWACCで割り引いて現在価値を算出
  4. 継続価値の算定:倍率法を用いて、EBITAマルチプル(5.1倍~7.0倍)およびEBITDAマルチプル(4.3倍~6.0倍)を参考に算出
  5. 株式価値の算出:現在価値と継続価値を合計し、有利子負債などを控除して株式価値を算出

買付価格決定までの過程

  1. 初回提案(2024年7月2日)
    • 公開買付者から、1株当たり650円、第6回新株予約権1円、第7回新株予約権16,300円の提案。
  2. 特別委員会の再考要請(2024年7月4日)
    • 特別委員会は、提示された価格が少数株主の利益に十分配慮したものとは言えず、価格の引き上げを要請。
  3. 2回目提案(2024年7月5日)
    • 公開買付者から、1株当たり700円、第6回新株予約権1円、第7回新株予約権21,300円の提案。
  4. 特別委員会の再考要請(2024年7月8日)
    • 特別委員会は、依然として少数株主の利益への配慮が不十分と判断し、再度価格の引き上げを要請。
  5. 3回目提案(2024年7月11日)
    • 公開買付者から、1株当たり720円、第6回新株予約権1円、第7回新株予約権23,300円の提案。
  6. 特別委員会の再考要請(2024年7月16日)
    • 特別委員会は、アパマン社の企業価値が適切に反映されていないと判断し、再度価格の引き上げを要請。
  7. 最終提案(2024年7月23日)
    • 公開買付者から、1株当たり729円、第6回新株予約権1円、第7回新株予約権24,200円の提案。
  8. 特別委員会の再考要請(2024年7月25日)
    • 特別委員会は、提案価格を評価しつつも、更なる価格引き上げの可能性を検討するよう要請。
  9. 公開買付者の回答(2024年7月29日)
    • 公開買付者は、これ以上の価格引き上げは困難と回答。
  10. 特別委員会の受諾(2024年7月30日)
    • 特別委員会は、公開買付者の最終提案を受諾。

公正性担保措置の内容

アパマン社のMBOにおいて、少数株主の利益を保護し、取引の公正性を確保するために、以下のような多岐にわたる措置が講じられています。

独立した特別委員会の設置

  • 目的:
    • MBOにおける構造的な利益相反の問題や情報の非対称性に対処し、取引の公正性を確保するため。
  • 構成:
    • 社外取締役2名と外部専門家1名で構成。
    • 独立性と専門性を重視した選任。
  • 役割:
    • 取引の是非、価格の妥当性、手続きの公正性などを検討・判断。
    • 買収者との価格交渉などを実施。
    • 少数株主の利益を代表し、取締役会に意見を述べる。

専門家からの助言

  • 独立した法律事務所:
    • 森・濱田松本法律事務所を選任。
    • 取引手続きや意思決定における法的助言を提供。
  • 独立した財務アドバイザー:
    • プルータス・コンサルティングを選任。
    • 株式価値算定、価格交渉に関する助言、フェアネス・オピニオンの提出などを実施。

株式価値算定とフェアネス・オピニオン

  • 株式価値算定:
    • プルータス・コンサルティングが、市場株価法、類似会社比較法、DCF法などを用いて株式価値を算定。
    • 買収価格の妥当性を客観的に評価。
  • フェアネス・オピニオン:
    • プルータス・コンサルティングが、買収価格が少数株主にとって公正であるという意見を表明。
    • 取引の透明性を高め、少数株主の理解を促進。

その他

  • 十分な公開買付期間の設定: 30営業日の公開買付期間を設定し、株主が応募の判断をするための十分な時間を確保
  • 対抗的買収提案の機会の確保: 他の買収者からの提案を制限するような合意は行わず、市場競争を促進
  • マジョリティ・オブ・マイノリティ条件: 設定せず、少数株主の応募機会を最大限確保
  • 情報開示の徹底: プレスリリースなどで詳細な情報開示を行い、株主が適切な判断を下せるよう配慮
  • 応募しない株主への配慮: 株式買取請求権や価格決定請求権を確保し、権利保護に配慮
  • マジョリティ・オブ・マイノリティ条件
    • 少数株主の過半数の賛成をMBOの成立要件とするもの。
    • 本MBOでは設定されていません
    • 理由:
      • 公開買付者は、この条件を設定すると公開買付けの成立が不安定になり、応募を希望する少数株主の利益を損なう可能性があると判断しました。
  • マーケットチェック
    • 本MBOでは、積極的なマーケットチェックは実施されていません
    • 理由:
      • 特別委員会は、すでに十分な公正性担保措置が講じられており、間接的なマーケットチェック(十分な公開買付期間の設定など)も実施されていることから、積極的なマーケットチェックを実施しなくても、取引の公正性は確保できると判断しました。