案件概要

  • 案件: マネジメント・バイアウト(MBO)による石井鐵工所の株式公開買付け
  • 公開買付者: 株式会社可成屋(代表取締役社長:石井宏明氏)
  • 公開買付価格: 1株当たり8,364円
  • 公開買付期間: 30営業日
  • 買付予定数の下限: 2,319,400株(所有割合66.67%)
  • 公開買付け後の計画: 公開買付けで全ての株式を取得できなかった場合、株式売渡請求または株式併合により、石井鐵工所を非公開化

案件目的

石井鐵工所のMBOの目的は、非公開化を通じて企業価値向上を実現することです。 しかし、なぜ非公開化によって企業価値向上を図るのか、その背景には、タンク事業の課題今後の事業環境が深く関わっています。

タンク事業の課題

  • 製品のコモディティ化
  • 価格競争の激化
  • 差別化戦略の困難性

今後の事業環境

  • カーボンニュートラル社会への移行
  • GX(グリーントランスフォーメーション)
  • エネルギーインフラ整備

といった課題に対応していく必要があり、これらの課題解決には、

  • 中長期的な視点での事業運営
  • 機動的な戦略投資

が必要不可欠となります。

しかしながら、上場企業である場合、短期的な業績変動に影響を受けやすく、迅速かつ柔軟な経営判断が難しい面があります。 また、上場維持コストの増加も、企業価値向上を目指す上で足かせとなる可能性があります。

そこで、MBOによる非公開化によって、

  • 短期的な業績圧力から解放され、中長期的な視点で企業価値向上のための施策を実行できる環境を整備
  • 機動的かつ柔軟な経営体制を構築し、変化の激しい事業環境にも迅速に対応
  • 上場維持コストを削減し、経営資源の有効活用を促進

することができると考え、非公開化による企業価値向上を目指しています。

特に、石井鐵工所は積極的な研究開発、他社との連携強化、抜本的な構造改革といった施策を重視しており、これらの施策は短期的には財務負担が大きいため、非公開化によって短期的な業績への影響を気にせず、腰を据えて取り組む狙いがあると考えられます。

このように、石井鐵工所のMBOは、事業環境の変化タンク事業の課題を背景に、非公開化という手段を通じて中長期的な企業価値向上を実現しようとするものです。

買主と対象企業の関係性

資本関係

  • 可成屋の株式は、石井鐵工所の代表取締役社長である石井宏明氏が100%保有しています。
  • さらに、石井宏明氏自身も、石井鐵工所の株式を0.60%保有しています。

これは、可成屋が実質的に石井宏明氏個人の会社であり、石井宏明氏自身が石井鐵工所の株主でもあるという、二重の関係性を示しています。

人的関係

  • 石井宏明氏が、可成屋と石井鐵工所の両社の代表取締役社長を兼任しています。

これは、両社の経営トップが同一人物であることを意味し、両社の意思決定が非常に近い関係で行われる可能性を示唆しています。

これらの関係性を総合すると、今回のMBOは、石井鐵工所の現経営陣が自らの会社を非公開化することを目的とした、典型的なマネジメント・バイアウトであると言えます。

特に、石井宏明氏が両社の経営トップを兼任している点は、情報面や意思決定の面で優位性を持つ可能性があり、少数株主の利益保護の観点から、取引の公正性確保が重要となります。

このため、石井鐵工所は特別委員会を設置し、第三者算定機関による株式価値評価を実施するなどの対策を講じています。

案件後の経営方針

石井鐵工所のMBO後の経営方針は、現状の経営体制の維持を基本としつつ、3つの具体的な戦略的施策を推進することで、中長期的な企業価値向上を目指すものです。

現状の経営体制の維持

  • MBO後も、石井宏明氏が引き続き代表取締役として経営にあたります。
  • その他の取締役の処遇や役員構成については、MBO成立後に協議の上決定する予定です。

戦略的施策

MBOの背景で説明された3つの課題解決に向けた、以下の戦略的施策が掲げられています。

  • 積極的な研究開発:
    • 新エネルギー分野の燃料タンクの大型化に対応するための新工法開発施工能力強化
    • 水素やアンモニア貯蔵タンク開発のための高度な技術を用いた研究開発
    • 溶接・検査作業の自動化による業務効率化と施工能力向上
  • 他社との連携強化:
    • 新エネルギー分野の燃料タンク開発における他社との協業の深化
    • 外注業者との連携強化による技術力ノウハウ共有
  • 人材育成と構造改革:
    • 大型プロジェクト管理人材の採用育成
    • 人材の最適配置抜本的な組織構造見直し

これらの施策は、中長期的な視点企業価値向上に繋がる一方で、短期的には財務負担が大きくなる可能性があります。 しかし、非公開化によって短期的な業績圧力から解放されるため、積極的かつ迅速に施策を実行できます。

非公開化のメリットを活かした経営

MBO後の経営方針は、非公開化という特徴を最大限に活かし、中長期的な企業価値向上を重視した内容となっています。

  • 短期的な業績変動にとらわれず、先行投資研究開発に積極的に取り組む
  • 機動的かつ柔軟な経営判断により、変化の激しい事業環境に迅速に対応
  • 上場維持コストを削減し、成長戦略に経営資源を集中投下

これらの施策を通じて、タンク事業の課題解決新エネルギー市場への対応を同時に進め、持続的な成長企業価値向上を実現することがMBO後の経営の重要な目標となります。

案件検討の経緯

  • 2024年1月上旬:石井氏が非公開化の検討を開始
  • 2024年3月5日:石井氏から石井鐵工所にMBO提案の申入れ
  • 2024年3月14日:石井鐵工所が特別委員会を設置
  • 2024年3月中旬~4月中旬:石井氏による財務・税務・法務デューデリジェンス
  • 2024年4月8日~8月5日:石井氏から複数回の価格提案
  • 2024年8月7日:石井鐵工所が公開買付者の提案に応諾
  • 2024年8月8日:公開買付者が公開買付け開始を決定、石井鐵工所取締役会が公開買付けに賛同し応募推奨を決定

取引スキームの特徴点

  • 二段階買収: 公開買付けで全ての株式を取得できない場合、株式売渡請求または株式併合を実施
  • 資金調達: 三井住友銀行からの借入と、石井宏治氏からの出資により資金調達
  • 株式価値算定: 野村證券とプルータス・コンサルティングがDCF法等を用いて算定
  • 特別委員会の設置: 独立社外取締役を中心とした特別委員会を設置し、取引の公正性を担保

取締役会の意見

石井鐵工所の取締役会は、公開買付けに賛同し、株主に対して応募を推奨する決議を行いました。この判断の背景には、企業価値向上への期待と買付価格の妥当性、そして少数株主の利益保護への配慮があります。

企業価値向上への期待

  • タンク事業の課題や変化する事業環境の中、中長期的な企業価値向上には抜本的かつ機動的な経営戦略が必要だと認識しています。
  • 買収者である石井氏が提案する積極的な研究開発他社との連携強化構造改革といった施策を通じて、収益力向上新たな収益機会の拡大が期待できると判断しました。
  • これらの施策実行には機動的かつ柔軟な経営体制が必要であり、非公開化がそれを可能にすると考えました。

買付価格の妥当性

  • 第三者算定機関である野村證券による株式価値算定結果を参考にしています。
  • 買付価格8,364円は、DCF法などの算定結果と比較しても妥当な範囲内であると判断しました。
  • また、買付価格には、過去のMBO事例と比較しても高いプレミアムが含まれており、株主にとって適切な売却機会を提供するものだと考えました。
  • 買付価格決定までの過程においても、独立当事者間取引と同等の継続的な協議・交渉が行われ、少数株主の利益が確保されていると判断しました。

少数株主の利益保護

  • 特別委員会が設置され、独立した立場から取引の公正性を監視しています。
  • 特別委員会は、価格交渉意思決定過程積極的に関与し、少数株主の利益を代表して活動しました。
  • 取締役会は、特別委員会の答申最大限尊重し、少数株主への配慮がなされていると判断しました。

まとめ

石井鐵工所の取締役会は、企業価値向上への期待、買付価格の妥当性少数株主の利益保護といった観点から、公開買付けに賛同し、株主に応募を推奨する決議を行いました。客観的な情報専門家の意見を参考に、慎重かつ透明性のあるプロセスを経て決議が行われたことは、MBOにおける公正性少数株主の利益保護の観点から評価できると考えられます。

特に、

  • 複数回の価格提案特別委員会の積極的な関与により、当初提案から約21%の大幅な増額が実現したこと
  • 取締役会が特別委員会の答申最大限尊重し、少数株主の利益を重視した判断を行ったこと

が、今回のMBOにおける特徴であり、少数株主の利益保護取引の公正性確保に積極的に取り組んだ姿勢が伺えます。

買付価格決定までの過程

石井鐵工所の買付価格決定過程は、買収者対象会社(石井鐵工所)、そして特別委員会三者間で、複数回の交渉株式価値算定に基づいた綿密な協議を経て進められました。その特徴は、段階的な価格提示特別委員会の積極的な関与、そして少数株主保護への配慮です。

段階的な価格提示と交渉

  • 買収者である石井氏は、2024年4月8日から2024年8月5日までの間に、計5回価格提案を行いました。
  • 最初の提案額は1株当たり6,908円でしたが、特別委員会はこれを少数株主にとって不十分と判断し、再検討を要請しました。
  • その後、石井氏は段階的に価格を引き上げ、最終的に1株当たり8,364円を提示しました。これは当初提案から約21%の大幅な増額となります。
  • この過程を通じて、対象会社特別委員会は、第三者算定機関による株式価値算定結果法的助言を参考に、価格の妥当性厳格に評価しました。
  • また、特別委員会交渉方針について会社側に助言するなど、価格交渉にも積極的に関与しました。

少数株主保護への配慮

  • 特別委員会は、独立社外取締役を中心に構成され、少数株主の利益保護を第一に活動しました。
  • 価格交渉においては、客観的な立場から少数株主の利益を代表し、価格引き上げを粘り強く要求しました。
  • 最終的な買付価格8,364円は、特別委員会妥当と判断した価格であり、少数株主にとって公正な取引となるよう配慮されています。

最終価格のプレミアム

  • 最終合意された買付価格8,364円は、様々な指標と比較しても高いプレミアムを有しています。
    • 公表前営業日の終値に対して185.17%のプレミアム
    • 過去1ヶ月間の終値単純平均に対して173.78%のプレミアム
    • 過去3ヶ月間の終値単純平均に対して188.71%のプレミアム
    • 過去6ヶ月間の終値単純平均に対して194.30%のプレミアム
    • 類似MBO案件平均プレミアム(40~50%程度)を大幅に上回る水準

公正性担保措置の内容

石井鐵工所のMBOにおける公正性担保措置は、少数株主の利益保護を最優先に、独立性透明性を確保することを目的として、多岐にわたる対策が実施されました。特に重要なのは、特別委員会の設置マジョリティ・オブ・マイノリティの確保、そしてマーケットチェックの3点です。

1特別委員会の設置

  • 独立社外取締役3名で構成される特別委員会を設置し、少数株主の利益を代表して取引の公正性を監視しました。
  • 特別委員会には、価格交渉意思決定過程への積極的な関与専門家への助言要請などの強い権限が付与されました。
  • これにより、買収者対象会社利益相反を抑制し、公正な価格交渉透明性の高い意思決定を実現しました。

マジョリティ・オブ・マイノリティの確保

  • 買付予定数の下限を、買収者特別な利害関係を持たない株主過半数の賛同が得られる水準に設定しました。
  • これにより、少数株主意思を尊重し、不当に低い価格での買収を防止する効果があります。
  • 少数株主過半数反対する場合、MBO自体が成立しない仕組みとすることで、少数株主発言力を高めています。

マーケットチェック

  • 公開買付期間法定最短期間である20営業日よりも長い30営業日に設定しました。
  • また、対抗的買収提案者との接触制限を設けず、競争入札の機会を確保しました。
  • これらの措置により、市場メカニズムを通じて買付価格妥当性を検証し、より高い価格での買収の可能性を模索しました。

その他の公正性担保措置

上記の3点に加え、以下の措置も実施されました。

  • 独立した第三者算定機関による株式価値算定客観的な評価に基づいた価格交渉を可能にしました。
  • 独立した法律事務所からの法的助言取引手続き公正性透明性を確保しました。
  • 買収者対象会社情報管理体制の構築: 利益相反による情報漏洩などを防止しました。
  • 少数株主への十分な情報開示取引内容価格算定根拠などを明確に開示し、理解判断を促しました。