取引の全体像
マネーフォード及び三井住友カード(「SMCC」)は、「マネーフォワード ME」にSMBCグループが有する金融サービス(Olive、Vポイント等)を組み合わせ、パーソナライズされた金融サービスを提供することを目的に、個人向け領域における合弁会社を設立することの基本合意を行いました。
スキーム
出資比率をマネーフォワード51%、SMCC49%とする合弁会社を設立。当該合弁会社の出資前の株式価値評価額を338億円とし、SMCCへの一部株式の譲渡(140億円)とSMCCを引受先とする新会社への第三者割当増資(50億円)を行うものとなっています。
新設子会社は、マネーフォワード及び SMCC の合弁会社となり、当該合弁会社はマネーフォワードの連結子会社となる予定です。
当該合弁会社の会長はSMCC代表取締役社長の大西さん、社長はマネーフォワードの辻さんが就任する予定です。
取締役はマネーフォワードとSMCCが3名ずつ指名します。
案件目的
背景としては、1,610万人の利用者がいる国内最大級のPFM(家計簿・資産管理)サービスである「マネーフォワードME」を、SMBCグループが提供するモバイル総合金融サービス「Olive」を組み合わせることで、
「マネーフォワードME」が属するHomeドメインの成長を加速、全社目標であるFY28の売上高1,000億において、同ドメインが100億円を創出する達成角度を高めることを企図しています。
Oliveの概要
OliveはSMBCグループ肝入りの事業で、同プラットフォーム上でスムーズに様々な金融サービスを提供する世界観を作っています。
ユーザー数は2023年3月のサービス開始から230万件を超えるアカウントが開設されていますが、下記の通り2028年までに1,200万アカウントを目指す目標で、SMBCにメイン口座を持っている個人以外にも強いアプローチが必要な状況で、そのための投資や提携は積極的に行うものと考えられます。
そのため、Oliveにとって、金融リテラシーの高いユーザーを多く抱える「マネーフォワードME」は喉から手が出るくらいほしいサービスであったと考えられます。
「マネーフォワードME」 / Homeドメインの概要
「マネーフォワード ME 」は、2012 年の提供開始以降、利用者は 1,610 万人を突破し、連携可能な金融関連サービス数は 2,464 、口座連携金融資産額は 25 兆円有しています。
「マネーフォワード ME 」上で、ユーザーはマネーフォワード ME を通じて家計・資産の見える化を実現でき、最近では金融関連サービスの提供を行っています。
「マネーフォワードME」が属するホームドメインは、FY23/11通期は売上高約35億円。直近FY24/11 2Qの売上は12億円でYoY+23%と引き続き成長を続けています。その中でも特に、金融関連サービス収入は約3億円と全体の1/4を占める程度に成長し、YoY+53%と高い成長率を誇っています。
マネーフォワードグループの状況
マネーフォワードグループ全体では、直近四半期売上高が100億円を突破し、YoY+41%成長をしています。
その中では、Homeドメインも堅調な成長を示していますが、グループ全体の規模と成長率に照らすと見劣りしている状況です。
EBITDAはFY24/11 1Qから改めて黒字となった状況で、今後の成長目標に照らすとPLはギリギリのラインで運営していると読み取ることも出来ます。
特に直近では、広告宣伝費を圧縮しており、今後の成長と投資のバランスの舵取りが難しい経営状況であると考えられます。
その中で、マネーフォワードの戦略(の1丁目1番地)には、コンパウンド戦略が掲げられれており、Business向けのサービスが成長戦略の肝であることには異論がない状態です。
グループ全体として、「売上⾼広告宣伝費率並びに売上⾼⼈件費外注費率の縮⼩を中⼼に収益改善を実現し、EBITDAマージン+10~15%の改善を⾏う」とコミットをしている中では、投資の選別を一層行う必要性が高いと言えるでしょう。
マネーフォワードはFY28.11期の財務目標として、連結売上高1,000億円、EBITDA300億円、長期的にはEBITDAマージン40%以上を目指すことを開示しています。
つまりCAGRベースで約25~30%の平均成長を続ける必要がある中で、高い収益性を保つ必要がある経営・財務方針となっています。
このような経営方針と成長可能性の中では、Home事業の成長優先順位を上げることは当面難しい判断であったように推察されます。
バランスシートを見ると、現預金は潤沢にありますが、借入金等を合わせると純現預金は大きくなく、ビジネスモデルとしても運転資金が必要となるため、今後も資金ニーズは高いと思われます。
上記から考える本件の狙い
上記を俯瞰して考えると、同社は更なる成長を模索しつつも、資本市場ではトップライン成長のみを優先した経営への許容度が下がるトレンドの中で、投資家・株価を意識した経営が必要となり、売上高の成長のみならずEBITDAのコミットメントが必要になっていると考えられます。
つまり、グループとしては恐らく更なる成長を志向しているものの、当該トレンドの中で株価を下支えするためには、そのようなコミットメントが不可欠となっていると思われます。
そういった状況下では、グループとしての全体資金ニーズも高い中で成長・投資優先順位が高いとは言えない「マネーフォワードME」含むHomeセグメントの資本を切り出し、「マネーフォワードME」にも付加価値をつけ、Olive側としても更なるユーザー基盤が必要なSMCCと提携することは、サービスの方向性やキャピタルアロケーションの観点から理にかなっている選択肢であると思われます。
現状では、マネーフォワードが51%を握り連結子会社となっていますが、今後数年の動向次第で、マネーフォワード及びSMCCが更にどのような経営判断・アクションを起こすのかは、要ウォッチなのではと考えられます。
お互いの意図がある中で経営の難易度は上がるでしょうが、個人のユーザーに最終的にどのようなサービスが提供されていくかに期待をしたいです。
また、マネーフォワードはサービス群も複数抱えており、それぞれの領域で市場競争が必要となるため、今後もこのようなコーポレートアクションが一層増えていくのではと予想されます。
今後も楽しみに見ていきましょう。