再興計画というものが発表されていたので、その内容と背景についてまとめました。

東芝再興計画

1. 新中計(東芝再興計画)で目指す姿

  • 非上場化の意義: 東芝の構造的課題を根本的に解決し、「本来あるべき姿」に立ち戻るためのチャンス。
  • 経営理念: 「人と、地球の、明日のために。」技術の力で社会課題に応える。
  • 目標: FY26までにROS(売上高営業利益率)10%を達成し、全社の収益性を向上させる。
  • 基本思想: 経営インフラの整備、筋肉質化による損益分岐点の引き下げ、成長戦略投資。

2. 全社戦略

  • 筋肉質化の必要性: 固定費を削減し、損益分岐点を引き下げることで収益性を高める。
  • コーポレートと事業部の協働体制: 新経営体制の下、戦略テーマを選定し、グループ一体となって推進。
  • 人員適正化: 早期退職優遇制度を実施し、最大4,000人の人員削減を目指す。

3. 事業戦略

  • 事業ポートフォリオの見直し: 各事業の現況、市場成長性、東芝の資源を考慮し、事業部の方向性を分類。
  • 収益性の改善: 全事業でROSおよびFCF(フリーキャッシュフロー)を大幅に改善し、全社でROS10%を目指す。
  • エネルギー、インフラ、デジタル分野などの成長が見込まれる領域に経営資源を集中させる方針です。これにより、競争力を強化し、持続的な成長を実現することを目指す

4. 経営インフラの再構築

  • プロジェクト管理とモニタリング: 高難度プロジェクトの管理体制・意思決定構造を見直し、全社KPIの設定とモニタリングを強化。
  • 管理会計: 経営の意思決定に必要な会計データを可視化し、コスト管理の粒度を引き上げる。

5. 将来に向けた成長戦略

  • 社会課題の解決: カーボンニュートラル、資源確保、エネルギー安全保障などの課題に対し、パートナー企業と協力して取り組む。
  • 先端技術の活用: フィジカル技術とデジタル技術の融合により、社会課題を解決する
  • 人材の適正配置や賃金引上げ、キャリア形成支援などを通じて、従業員のエンゲージメントを高めることも重要な狙い。また、革新的技術の創出と早期事業化を推進し、技術力を強化することも目指す

経営の混乱と財務問題

1. 不正会計問題

2015年に発覚した不正会計問題は、東芝の経営に大きな打撃を与えました。この問題により、東芝は信頼を失い、経営の混乱が続きました。

2. 巨額損失と債務超過

米国の原子力事業での巨額損失が発覚し、東芝は債務超過に陥りました。この結果、東芝は6000億円の増資を行い、海外ファンドの影響力が強まりました。

3. 短期的な利益追求と経営陣の対立

短期的な株主還元を求める「物言う株主」との対立が続き、経営陣の辞任が相次ぎました。この対立により、中長期的な事業戦略を立てることが困難になりました。

非上場化と再建の必要性

1. 非上場化の決定

東芝は、投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)による株式公開買い付け(TOB)を受け入れ、非上場化を決定しました。これにより、短期的な利益追求から脱却し、長期的な企業価値の向上に注力することが可能となりました。

2. 経営基盤の再構築

非上場化に伴い、東芝は経営基盤の再構築を進めています。具体的には、固定費の削減や人員適正化、事業ポートフォリオの見直しなどを通じて、収益性の向上を目指しています。

主要なM&Aの歴史

1. 2006年 - ウェスチングハウスの買収

東芝は2006年に米国の原子力発電会社ウェスチングハウスを約6400億円で買収しました。この買収は、東芝の原子力事業の強化を目指したものでしたが、後に巨額の損失を招くこととなりました。

2. 2011年 - ランディス・ギアの買収

2011年、東芝はスイスの先進電力メーターメーカー、ランディス・ギアを23億ドルで買収しました。この買収は、東芝のスマートグリッド事業の強化を目的としたものでした。

3. 2012年 - IBMのPOS事業の買収

2012年、東芝はIBMのPOS(販売時点情報管理)事業を8億5000万ドルで買収し、世界最大のPOSシステムベンダーとなりました。

4. 2017年 - ウェスチングハウスの破綻

ウェスチングハウスの経営破綻により、東芝は巨額の損失を計上し、債務超過に陥りました。この結果、東芝は医療機器事業やメモリ事業などの有望な事業を売却することを余儀なくされました。

5. 2018年 - 東芝メモリの売却

東芝は2018年に半導体メモリ子会社の東芝メモリ(現キオクシア)を米投資ファンドのベインキャピタルを中心とする日米韓連合に2兆円で売却しました。この売却は、債務超過からの脱却を目指したものでした。

6. 2023年 - 日本産業パートナーズ(JIP)による買収

2023年、東芝は日本産業パートナーズ(JIP)を中心とする国内連合による株式公開買い付け(TOB)を受け入れ、非上場化を決定しました。この買収は、経営の安定化と長期的な成長を目指すものであり、東芝の再建に向けた重要なステップとなりました

非公開化の詳細

1. 買収の概要

  • 買収提案: JIPを中心とするコンソーシアムが東芝の株式を1株あたり4620円で買収する提案を行い、総額約2兆円(約15億ドル)の買収となりました。
  • 非上場化: この買収により、東芝は東京証券取引所から上場廃止となり、非上場企業として再出発することになりました。

2. 経営陣の役割

  • 経営陣の参加: 東芝の経営陣は、JIPの支援を受けて企業の再建と成長戦略を推進する役割を担います。特に、コスト削減や事業の再編成を通じて収益性の向上を目指しています。
  • 人員削減: 経営再建の一環として、最大4000人の人員削減を計画しており、特に高給の従業員を対象とした早期退職優遇制度を実施しています。

3. 資金調達と投資

  • 資金調達: JIPは、約1兆円の借入を含む大規模な資金調達を行い、東芝の買収を実現しました。この資金調達には、国内の金融機関や企業が参加しています。
  • 投資戦略: 東芝は、再生可能エネルギーやデジタル技術などの成長分野に注力し、持続可能な成長を目指しています。

4. 経営の自由度とリスク

  • 経営の自由度: 非上場化により、東芝は短期的な株主の圧力から解放され、長期的な視点での経営改革が可能となります。
  • リスク: 大規模な借入による財務リスクが存在し、今後の経営状況に影響を与える可能性があります。

公開買付けの詳細

  • 開始日: 2023年3月23日に公開買付けの開始が発表されました。
  • 買付価格: 東芝の普通株式1株あたり4,620円。
  • 買付予定数: 432,630,045株(東芝が所有する自己株式を除く)。
  • 買付期間: 2023年8月8日から9月20日まで実施されました。
  • 結果: 応募総数は3億4045万9163株で、買付予定数の下限を上回り、TOBが成立しました。これにより、TBJHは東芝株式の78.65%を保有することになりました。

価格算定の基礎

公開買付者は、東芝が公表している財務情報やデュー・ディリジェンスの結果を基に、東芝グループの事業および財務状況を多面的・総合的に分析しました。特に、以下の点が考慮されました。

  • 市場価格の推移: 東芝株式の市場価格の推移を参考にしました。特に、CVCキャピタル・パートナーズによる買収提案が公表された2021年4月6日の終値(3,830円)や、その時点の過去1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の終値の単純平均値(それぞれ3,790円、3,526円、3,195円)を基準としました。
  • プレミアムの設定: 上記の市場価格に対して、過去の大規模な公開買付け事例に基づくプレミアムを加えました。具体的には、2021年4月6日の終値に対して20.63%、過去1ヶ月の終値に対して21.90%、過去3ヶ月の終値に対して31.03%、過去6ヶ月の終値に対して44.60%のプレミアムを加えました。

価格の調整

公開買付者は、東芝の業績予想の下方修正や事業環境の変化を反映して、買付価格を調整しました。以下のような要因が影響しました。

  • 業績予想の下方修正: 2022年11月11日に発表された2023年3月期第2四半期決算で、東芝の業績予想が大幅に下方修正されました。営業利益は1,700億円から1,250億円に、EBITDAは2,700億円から2,350億円に修正されました。
  • 事業環境の変化: 半導体およびHDD関連事業の環境変化により、これらの事業価値が下落しました。また、東芝が39.59%を所有するキオクシアホールディングスの株式価値も下振れしました。
  • 金融機関の評価: 金融機関が東芝の収支見通しと企業価値評価を下方修正した結果、シニアローンで2,000億円、劣後ローンで約1,000億円の減額が必要となりました。

最終価格の決定

これらの要因を総合的に考慮し、公開買付者は最終的に2023年3月3日に東芝株式1株あたり4,610円の提案を行い、その後、2023年3月23日に4,620円に調整して最終決定しました。