案件概要

  • 買収総額: 約6,000億円規模
  • 公開買付者: FK 株式会社(公開買付者)は、2024 年 7 月 26 日に設立された株式会社で、KKR によって間接的に運営されている KKR ファンドが、その親会社を通じて公開買付者の発行済株式の全てを所有しています。
  • 公開買付けの対象: 富士ソフト株式会社(対象会社)の普通株式及び新株予約権
  • 公開買付価格:
    • 普通株式 1 株につき 8,800 円
    • 新株予約権 1 個につき、種類に応じて 1,067,000 円、929,600 円又は 228,100 円
  • 買付予定数:
    • 下限: 42,142,900 株 (所有割合 66.64%)
    • 上限: 設定なし (対象会社株式及び新株予約権の全てを取得し、非公開化を目的としているため)
  • 資金調達: 金融機関からの借入及び公開買付者親会社からの出資により賄う予定
  • 公開買付けの開始時期:
    • 2024 年 9 月中旬を目途とする予定
    • ただし、必要な許認可等の取得状況により延期される可能性あり
  • 公開買付けの条件:
    • 買付予定数の下限に満たない場合は公開買付けは不成立。
    • 公開買付け後に、対象会社の株主を公開買付者のみとするための一連の手続(スクイーズ・アウト)を実施予定。

案件目的

公開買付者は、本公開買付けを通じて富士ソフト株式会社の株式及び新株予約権を取得し、株式を非公開化することを目指しています。

  • 非公開化の背景:
    • 非公開化によって、安定した株主構成を確保し、経営陣は短期的な業績圧力や株主還元圧力から解放され、中長期的な成長戦略に集中できるようになります。
    • これにより、富士ソフトは、M&A、事業提携、新規事業への投資などを、より柔軟かつ迅速に実行できるようになり、企業価値向上を加速できると期待されています。
    • 特に、富士ソフトが中期経営計画で注力領域と位置付けている「DX+AIS-CRM+SD+(5)G2」などの分野において、KKRの持つノウハウやネットワークを活用することで、成長戦略の実現可能性を高め、目標達成の確度を高めることができると考えています。
  • 非公開化後の具体的な戦略:
    • KKRは、富士ソフトの既存事業の成長を支援するだけでなく、新たな事業領域への進出やM&A、PMI(買収後の統合プロセス)なども積極的に支援していく方針です。
    • また、富士ソフトが保有する不動産の流動化や、売上成長・収益性改善のための施策の実施も検討しています。
    • これらの戦略を通じて、富士ソフトの企業価値向上を図り、将来的には再上場も視野に入れている可能性があります。
  • 非公開化のデメリット:
    • 上場廃止による社会的信用への影響や人材採用への影響などが懸念されます。
    • しかし、富士ソフトは、これらのデメリットを上回るメリットがあると判断し、非公開化を選択しました。

買主と対象企業の関係性

買主であるFK株式会社は、KKRによって間接的に運営されているKKRファンドが所有する公開買付者親会社が、その発行済株式の全てを所有しています。対象会社と公開買付者の間には、資本関係、人的関係及び取引関係はありません。

案件背景

富士ソフトを取り巻く経営環境の変化と、企業価値向上に向けた取り組み、そして、大株主である3DIPの動きが、今回の公開買付けに至るまでの背景となりました。

  • 富士ソフトの経営環境の変化
    • マクロ環境の変化: 新型コロナウイルス感染症、サプライチェーンの混乱、物価上昇など、外部環境が大きく変化しています。
    • 情報サービス市場の変化: DXの進展、デジタル技術活用、IT人材獲得競争の激化など、業界構造も大きく変わってきています。
  • 富士ソフトの企業価値向上への取り組み
    • 中期経営計画の策定: これらの変化に対応し、持続的な成長と付加価値向上を目指し、中期経営計画を策定しました。
    • 注力領域: DX、AIS-CRM、SD、5G、グローバル展開などを注力領域としています。
    • 具体的な施策: 受託分野の成長、収益性向上、業務改革、新規事業への挑戦、技術力強化などを推進しています。
    • 課題: 経営環境の変化への対応、技術革新への対応、新規事業への挑戦などが課題として認識されています。
  • 大株主3DIPの動き
    • 企業価値向上策の提案: 2023年7月、富士ソフトは3DIPから、非公開化による企業価値向上策を検討するよう提案を受けました。
    • 複数の候補者との協議: 富士ソフトは、3DIPの提案を受け、KKRを含む複数のプライベート・エクイティ・ファンドと協議を行いました。
    • 特別委員会の設置: 富士ソフトは、これらの提案を公平に検討するため、独立社外取締役で構成される特別委員会を設置しました。

これらの背景から、富士ソフトは、非公開化による企業価値向上を検討し、最終的にKKRの提案を受け入れることを決定しました。経営環境の変化、企業価値向上への取り組み、そして大株主の提案が、今回の公開買付けの背景となっています。

案件後の経営方針

  1. 既存事業基盤の活用と成長戦略の推進: 富士ソフトがこれまで築き上げてきた強固な事業基盤を活かしつつ、KKRの持つグローバルな資源を活用して、オーガニックおよびインオーガニックの両面から成長戦略を推進します。
  2. 中期経営計画の達成支援: 富士ソフトが策定した中期経営計画の目標達成を支援し、その実行性を高めます。具体的には、KKRの持つノウハウやネットワークを活用し、新事業領域への進出、M&A、PMIなどを支援します。
  3. 財務基盤の強化: 富士ソフトの財務基盤を強化し、企業価値向上を目指します。具体的には、不動産の流動化や、売上成長・収益性改善のための施策を実施する予定です。
  4. 従業員のモチベーション向上: ストックオプションなどのインセンティブプランを導入し、従業員のモチベーション向上と長期的な企業価値向上を目指します。
  5. 新たな経営体制の構築: KKRが指名する取締役を富士ソフトの取締役に就任させる予定ですが、具体的な人数や時期などは未定です。

案件検討の経緯

富士ソフトは、企業価値向上を目指し、様々な戦略的選択肢を検討してきました。その中で、大株主である3DIPからの非公開化提案を契機に、複数の候補者との協議・交渉を経て、最終的にKKRを最適なパートナーとして選定し、公開買付けを受けることを決定しました。

  • 2022年8月~2023年6月: 富士ソフトは、企業価値向上委員会を設置し、企業価値向上に向けた施策の検討を開始しました。
  • 2023年7月: 3DIPから非公開化提案を受領し、富士ソフトは複数のPEファンドと協議を開始。
  • 2023年8月: 富士ソフトは、KKRを含む複数のPEファンドから非公開化に関する提案を受領しました。
  • 2023年9月: 独立社外取締役で構成される特別委員会を設置し、提案の検討を開始しました。
  • 2023年9月~2024年2月: 特別委員会は、複数のPEファンドからの提案を比較検討し、富士ソフトが策定した新中期経営計画の評価も行いました。
  • 2024年2月: KKRは、特別委員会宛に、法的拘束力のない提案書を提出しました。
  • 2024年4月: 特別委員会は、KKRの提案を積極的に検討するよう、取締役会に要請しました。
  • 2024年6月: 富士ソフトは、KKRを含む複数のPEファンドから法的拘束力のある意向表明書を受領しました。
  • 2024年6月28日: 特別委員会は、KKRの提案が最も優れていると判断し、取締役会に提案の承認を勧告しました。
  • 2024年7月: 富士ソフトは、KKRとの間で独占交渉を開始しました。
  • 2024年7月26日: 富士ソフトは、別のPEファンドから、KKRの提案を上回る価格での買収提案を受領しましたが、特別委員会は、その実現可能性に疑義があると判断しました。
  • 2024年8月5日: 富士ソフトは、KKRの提案が引き続き最善であると判断しました。
  • 2024年8月7日: 富士ソフトとKKRは、公開買付価格を1株当たり8,800円として本取引を実施することで合意に至りました。
  • 2024年8月8日: 富士ソフトの取締役会は、KKRの提案に賛同し、株主に対して応募を推奨する決議を行いました。

このプロセスを通じて、富士ソフトは、透明性と公正性を確保しながら、複数の候補者からの提案を慎重に検討し、最終的にKKRを最適なパートナーとして選定しました。買収価格についても、特別委員会が設置した独立した第三者機関による評価や、複数のPEファンドからの提案の比較検討を通じて、妥当性を確保しています。

取引スキームの特徴点

  • 第一段階:公開買付け
    • 公開買付者であるFK株式会社が、富士ソフトの株主に対して、株式及び新株予約権を買い取る公開買付けを行います。買い付け価格は、普通株式1株あたり8,800円、新株予約権は種類に応じて価格が設定されています。
  • 第二段階:スクイーズアウト
    • 公開買付け後、FK株式会社が富士ソフトの株式を一定割合以上取得できなかった場合、株式併合単元株式数の定め廃止を行います。これにより、公開買付けに応募しなかった株主の持ち株は端数となり、強制的に買い取られます(スクイーズアウト)。この際、株主には公開買付価格と同額の金銭が交付されます。

その他の特徴

  • 買付予定数の下限設定: 公開買付者は、買付予定数の下限を42,142,900株(所有割合66.64%)と設定しています。これは、第二段階の株式併合に必要な特別決議(3分の2以上の賛成)を通過するための株式数確保を目的としています。
  • マジョリティ・オブ・マイノリティ条件の不設定: 一般的には、少数株主保護のため、公開買付者が関係者以外の株主から過半数の株式を取得することを買付け成立の条件とする「マジョリティ・オブ・マイノリティ」条件が設定されます。しかし、今回は、この条件は設定されていません。これは、すでに大株主である3DIPとFarallonが応募契約を締結しており、公開買付けが成立する可能性が高いこと、また、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件を設定することで、かえって公開買付けの成立が不安定になり、少数株主の利益を損なう可能性があることなどが理由です。

今回の取引スキームは、非公開化を確実に達成し、少数株主の利益も保護することを目指した、特徴的な構造となっています。

取締役会の意見

富士ソフト株式会社の取締役会は、本公開買付けに賛同の意見を表明しています。さらに、株主の皆様と新株予約権の所有者の皆様に対して、本公開買付けへの応募を推奨する決議を行いました。

  • 公開買付価格の妥当性:
    • 複数のPEファンドからの提案の中で、最も高い価格であること。
    • 特別委員会の関与の下、公正な手続きを経て合意された価格であること。
    • 独立した第三者算定機関による株式価値算定結果の範囲内であること。
    • 特別委員会も価格の妥当性を認めていること。
    • 少数株主の利益が確保された妥当な価格であること。
  • 公開買付け期間:
    • 公開買付期間が30営業日と、法定の最短期間(20営業日)よりも長く設定されており、株主が応募の判断をする期間が十分に確保されていること。
    • また、公開買付者以外の者も、対抗買付けを行う機会が確保されていること。
  • KKRとの連携による企業価値向上:
    • KKRの豊富な実績、知見、ネットワークを活用することで、富士ソフトの中長期的な企業価値向上を実現できる可能性が高いこと。
    • 非公開化によって、安定した株主構成を確保し、中期経営計画の達成を加速できること。
    • 上場廃止によるデメリットはあるものの、その影響は限定的であり、それを上回るメリットが期待できること。

取締役会は、これらの点を総合的に考慮し、本公開買付けが株主の利益に資すると判断し、賛同と応募推奨を決定しました。

価格の算出方法

各算定方法の詳細

  • 市場株価法(SMBC日興証券)/ 市場株価平均法(JPモルガン証券)
    • 算定基準日(2024年8月7日)の株価、過去1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の終値平均を基に算定
    • SMBC日興証券の算定結果: 6,505円~7,130円
    • JPモルガン証券の算定結果: 6,505円~7,390円
  • 類似上場会社比較法
    • 富士ソフトと類似する事業を行う上場企業を選定し、それらの企業価値とEBITDAの倍率を比較することで、富士ソフトの株式価値を算定。
    • SMBC日興証券の算定結果: 5,524円~6,405円
    • JPモルガン証券の算定結果: 4,758円~5,566円
  • 類似取引比較法(JPモルガン証券のみ)
    • 過去数年間の類似事業における非公開化案件の取引価格などを参考に、富士ソフトの株式価値を算定。
    • JPモルガン証券の算定結果: 4,946円~7,253円
  • DCF法
    • 富士ソフトが作成した事業計画を基に、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて算定。
    • SMBC日興証券の算定結果: 7,027円~9,529円
    • JPモルガン証券の算定結果: 7,852円~10,453円
    • 詳細:
      • 対象期間:2024年12月期~2028年12月期
      • 割引率:一定の割引率を使用
      • 継続価値算定:永久成長法、マルチプル法
      • 留意点:
        • 大幅な増減益やフリー・キャッシュ・フローの増減を含む事業年度は考慮されていない
        • 本取引によるシナジー効果などは考慮されていない

買付価格とプレミアム

公開買付価格は、1株当たり8,800円です。これは、DCF法の算定範囲内に収まっており、市場株価や類似会社比較法による算定結果を上回っています。

  • 市場株価との比較(2024年8月7日時点)
    • プレミアム: 30.76%
  • 過去平均株価との比較

買付価格決定までの過程

買付価格決定までの主な過程は以下のとおりです。

  1. 2023年8月18日: KKRは、3DIPに対して、1株当たり6,400円を公開買付価格とする対象会社の非公開化取引の実施を提案しました。
  2. 2023年9月8日: KKRは、対象会社に対して、1株当たり6,800円から7,200円を公開買付価格とする対象会社の非公開化取引の実施を提案しました。
  3. 2024年2月29日: KKRは、特別委員会宛に、1株当たり7,800円から8,100円を公開買付価格とする対象会社の非公開化を前提とした提案書を提出しました。
  4. 2024年6月14日: KKRは、対象会社に対して、1株当たり8,800円を公開買付価格とする対象会社の非公開化を前提とした最終提案書を提出しました。
  5. 2024年7月5日: 対象会社は、KKRに対して本取引に関する独占交渉権を付与することを決定しました。
  6. 2024年8月7日: 対象会社とKKRは、公開買付価格を1株当たり8,800円として本取引を実施することで合意に至りました。

最終価格の終値・期間平均に対するプレミアム水準は以下のとおりです。

  • 2024年6月13日終値: 30.76%
  • 過去1ヶ月終値平均: 38.15%
  • 過去3ヶ月終値平均: 41.55%
  • 過去6ヶ月終値平均: 41.16%

公正性担保措置の内容

  1. 複数のPEファンドからの提案の受領と検討: 複数の候補者から提案を受けることで、競争的な環境を作り出し、株主にとって有利な条件を引き出すことを目指しました。
  2. 独立した第三者算定機関による株式価値算定: 公正な価格設定のために、SMBC日興証券に株式価値の算定を依頼し、その結果を参考に価格を決定しました。
  3. 独立した法律事務所からの助言: 森・濱田松本法律事務所から、取引の公正性・客観性・合理性を確保するための法的助言を受けました。
  4. 特別委員会の設置と答申: 独立社外取締役で構成される特別委員会を設置し、取引の公正性や株主の利益保護について客観的な立場から検討を行いました。特別委員会は、JPモルガン証券に株式価値算定とフェアネス・オピニオンの提出を依頼し、その結果も踏まえて、本公開買付けが株主の利益に資すると判断し、取締役会に公開買付けへの賛同と応募推奨を勧告しました。
  5. 少数株主への情報提供とプロセスの透明性確保: 取引の経緯や特別委員会の活動内容などを詳細に開示し、少数株主が適切な判断を下せるように情報提供を行いました。
  6. 市場による価格検証: 公開買付期間を30営業日と、法定の最短期間よりも長く設定することで、株主が他の選択肢を検討する時間を確保し、対抗買付けの機会も提供しています。
  7. 強圧性の排除: 公開買付けに加えてスクイーズアウトの手続きも予定しており、少数株主は公開買付価格と同額の金銭を受け取ることができます。これにより、少数株主が不当に低い価格で株式を手放すことを防ぎます。

特に、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件マーケットチェックについて、以下のような特徴があります。

  • マジョリティ・オブ・マイノリティ条件の不設定: 本公開買付けでは、この条件は設定されていません。これは、すでに大株主である3DIPとFarallonが応募契約を締結しており、公開買付けが成立する可能性が高いこと、また、この条件を設定することで、かえって公開買付けの成立が不安定になり、少数株主の利益を損なう可能性があることなどが理由です。
  • マーケットチェック: 十分な期間にわたり、実質的かつ積極的なマーケットチェックが実施されたと評価されています。具体的には、複数の候補者との協議・面談や、公開買付期間を30営業日とすることなどが挙げられます。