本記事のまとめの目的

この記事は、タキロンシーアイ株式会社(以下、タキロンシーアイ)の親会社である伊藤忠商事株式会社(以下、伊藤忠商事)の子会社である合同会社API(以下、公開買付者)によるタキロンシーアイ株式に対する公開買付けに関するものです。

公開買付者は、タキロンシーアイを完全子会社化し、非公開化することを目指しています。この記事をまとめることで、公開買付けの背景、目的、手続き、および価格設定の妥当性など、投資家にとって重要な情報を理解することができます。

本公開買付けの概要

タキロンシーアイは、合成樹脂製品の製造・加工・販売などを主な事業とする企業です。伊藤忠商事はすでにタキロンシーアイ株式の55.49%を所有する親会社であり、今回の公開買付けを通じて残りの株式を取得し、完全子会社化を目指します。買付価格は1株当たり870円で、買付予定数は43,232,543株(買収額約376億円)です。公開買付期間は2024年8月6日から9月18日までの30営業日です。

伊藤忠商事は、本公開買付けの目的を、タキロンシーアイの非公開化を通じて、意思決定の迅速化・柔軟性の向上、および伊藤忠グループの経営資源の活用によるタキロンシーアイの企業価値向上を図ることとしています。具体的には、M&Aを含む事業領域の拡大、海外展開の加速、人材交流の促進などを計画しています。

案件概要

今回の公開買付けは、伊藤忠商事の完全子会社である合同会社APIが、タキロンシーアイの完全子会社化を目指して実施するものです。

  • 公開買付者: 合同会社API(伊藤忠商事の100%子会社)
  • 対象株式: タキロンシーアイ株式会社 普通株式
  • 買付価格: 1株あたり870円
  • 買付予定数: 43,232,543株
  • 買付予定数の下限: 10,707,900株
  • 公開買付期間: 2024年8月6日~2024年9月18日(30営業日)
  • 決済の開始日: 2024年9月26日
  • 決済の方法: 応募株主等は、公開買付けによる売却代金を、送金などの自身が指示した方法により、決済の開始日以降遅滞なく受け取ることができます。
  • 公開買付代理人: 野村證券株式会社

公開買付けが成立するためには、10,707,900株以上の応募が必要です。 買付予定数の上限は設定されておらず、応募が全て買い付けられる予定です。

公開買付け後、公開買付者らは、株式併合または株式売渡請求により、タキロンシーアイ株主を公開買付者らのみとする予定です。

案件目的

今回の公開買付けの目的は、タキロンシーアイの非公開化を通じて、企業価値の向上を実現することです。その背景には、変化の激しい事業環境への対応と、伊藤忠グループとの連携強化によるシナジー創出の狙いがあります。

非公開化の主なメリット

  • 迅速かつ柔軟な意思決定: 上場企業であるが故の制約を取り払い、機動的な経営判断を可能にする。
  • グループ経営資源の活用: 伊藤忠グループの持つ様々な経営資源(人材、財務基盤、情報、ノウハウなど)を、タキロンシーアイの成長戦略推進のために、迅速かつ柔軟に活用する。
  • 構造的利益相反の解消: 親会社と子会社という関係性における潜在的な利益相反を解消し、グループ全体の最適化を図る。

具体的な企業価値向上策

  • M&A を含む事業領域の拡大: 伊藤忠グループのネットワークや知見を活用し、M&Aなども含めた積極的な事業拡大を推進。
  • 海外展開の加速: 伊藤忠グループのグローバルネットワークを活用し、海外市場への進出を加速させ、更なる成長を目指す。
  • 人材交流の促進: グループ内の人材交流を活発化させ、相互のノウハウ共有や人材育成を強化することで、人的資源の質の向上を図る。
  • 最適な人材配置: 伊藤忠グループの人材をタキロンシーアイの主要部署に配置することで、経営体制を強化する。
  • 戦略的購買体制の構築: 伊藤忠グループの調達力を活用し、より効率的かつ安定的な原材料調達を実現する。
  • 流通・販売改革: 伊藤忠グループの販売網を活用することで、新たな販路を開拓し、販売力を強化する。
  • コスト削減: 上場維持費用など、非公開化によるコスト削減効果も期待できる。

将来の展望

これらの施策を通じて、タキロンシーアイの競争力強化収益力向上、そして持続的な成長の実現を目指しています。伊藤忠グループとしては、タキロンシーアイの非公開化が、グループ全体の企業価値向上に繋がると判断し、今回の公開買付けに至ったと考えられます。

非公開化によるデメリット

  • 従業員のモチベーション低下: 上場廃止による企業としての魅力低下や雇用不安などから、従業員のモチベーションが低下する可能性。
  • 社会的信用の低下: 非公開化により、企業としての透明性が低下し、ステークホルダーからの信頼が損なわれる可能性。
  • 資金調達手段の減少: 株式市場からの直接金融による資金調達が難しくなる。

デメリットへの対応

  • 従業員への配慮: 従業員の雇用継続、雇用条件の維持、人材交流を通じたスキル向上や能力開発の機会提供、待遇改善など。
  • 社会的信用への配慮: 伊藤忠グループの高い社会的信用と知名度を活用することで、非公開化による悪影響を抑制。
  • 資金調達への配慮: 伊藤忠グループの金融制度を活用することで、資金調達への影響を最小限に抑える。

買主と対象企業の関係性

公開買付者である合同会社APIは、伊藤忠商事が100%出資する子会社であり、今回の公開買付けの主体となります。伊藤忠商事は、すでにタキロンシーアイの親会社であり、55.49%の株式を保有しています。また、伊藤忠商事の完全子会社である伊藤忠プラスチックス株式会社も、0.20%の株式を保有しています。

資本関係

  • 公開買付者:合同会社API(伊藤忠商事の100%子会社)
  • 親会社:伊藤忠商事株式会社
  • 対象会社:タキロンシーアイ株式会社
  • 伊藤忠商事のタキロンシーアイに対する議決権所有割合:55.49%
  • 伊藤忠プラスチックスのタキロンシーアイに対する議決権所有割合:0.20%

人的関係

  • タキロンシーアイの取締役7名中3名は、伊藤忠商事の出身者または関係者
  • タキロンシーアイの監査役4名中1名は、伊藤忠商事の従業員
  • タキロンシーアイと伊藤忠商事の間で、従業員の出向が行われている

案件背景

今回の公開買付けの背景には、タキロンシーアイを取り巻く事業環境の厳しさと、伊藤忠グループとの連携強化の必要性があります。

タキロンシーアイの事業環境

  • 国内市場の成熟・縮小: 主力事業である建築資材、アグリ、包材分野において、国内市場は成熟化・縮小傾向にあり、今後の需要拡大が難しい状況。
  • 競争環境の激化: 原材料価格や電力価格の高騰、石油化学業界の再編など、事業環境が急速に変化し、競争が激化している。
  • 成長戦略の限界: 既存のオーガニックな成長戦略だけでは、競争優位性の維持や持続的な成長が困難になりつつある。

これらの課題を背景に、タキロンシーアイは2023年3月期に大幅な減益決算を計上し、中期経営計画を見直すなど、厳しい経営状況に直面していました。

伊藤忠グループとの連携強化の必要性

  • 非オーガニック成長戦略の必要性: 厳しい事業環境の中、持続的な成長を実現するためには、M&Aや業界再編など、非オーガニックな成長戦略が不可欠。
  • 意思決定の迅速化と柔軟性の向上: 上場企業であるが故の制約から脱却し、伊藤忠グループの経営資源を迅速かつ柔軟に活用できる体制が必要。
  • グループシナジーの最大化: 伊藤忠グループの持つ様々な経営資源を最大限活用し、グループ全体の企業価値向上を図る。

案件後の経営方針

具体的な経営方針

  • シナジー効果の実現: 公開買付けの目的で述べられている、M&A、海外展開、人材交流促進、最適な人材配置、戦略的購買体制構築、流通・販売改革などのシナジー効果を、着実に実現していく。
  • 成長戦略の加速: 国内外における成長戦略を加速させ、更なる事業拡大と収益力向上を目指す。
  • 総合力強化: 伊藤忠グループとの人材交流を活発化させ、グループ全体の総合力を強化する。
  • 従業員の雇用と処遇: 従業員の雇用は原則として継続し、雇用条件も原則として現状維持とする。

公開買付者とタキロンシーアイの連携

公開買付者らは、上記の経営方針を実現するために、タキロンシーアイの経営陣と十分に協議しながら、具体的な施策を検討していくとしています。

従業員への配慮

  • 雇用の継続: 公開買付け成立後も、従業員の雇用は原則として継続される。
  • 雇用条件の維持: 原則として、従業員の雇用条件は現状維持とする。

案件検討の経緯

タキロンシーアイの非公開化に向けた検討は、伊藤忠商事とタキロンシーアイ、そしてタキロンシーアイ内に設置された特別委員会の間で、複数回にわたる協議や交渉を経て進められました。特に、買付価格については、伊藤忠商事とタキロンシーアイ・特別委員会の間で綿密な交渉が行われ、最終的な価格決定に至っています。

主な検討・交渉のステップ

  1. 伊藤忠商事による初期提案:
    • 2024年2月中旬:伊藤忠商事、タキロンシーアイの非公開化検討開始。FA選定、タキロンシーアイへの検討開始通知と初期提案書提出。
    • 2024年3月中旬~4月上旬:タキロンシーアイ、特別委員会設置とFA選定。
  2. デューデリジェンスと協議・交渉:
    • 2024年4月中旬~5月下旬:伊藤忠商事によるデューデリジェンス実施。並行して、タキロンシーアイおよび特別委員会との間で、本取引の意義・目的、シナジー効果、買収後の経営体制・事業方針、業界見通しなどについて協議・交渉を実施。
    • 2024年5月16日:伊藤忠商事、タキロンシーアイおよび特別委員会から初期提案書に関する質問を受領。
    • 2024年5月27日:伊藤忠商事、質問事項に対する回答を提出。
    • 2024年6月5日、7日:伊藤忠商事、追加質問を受領。
    • 2024年6月11日:特別委員会にて、伊藤忠商事から回答・説明、意見交換を実施。
  3. 買付価格の交渉:
    • 2024年6月17日以降:伊藤忠商事とタキロンシーアイの間で、買付価格に関する複数回の交渉を実施。
    • 伊藤忠商事による提案と、タキロンシーアイ・特別委員会からの再検討要請が繰り返される。
    • 特別委員会は、その都度、FAや法律アドバイザーからの助言を踏まえ、交渉方針を決定し、伊藤忠商事に価格増額を要請。
  4. 最終合意:
    • 2024年7月23日:伊藤忠商事、買付価格を1株当たり870円とする最終提案。
    • 2024年8月2日:タキロンシーアイおよび特別委員会、買付価格870円で合意し、賛同・応募推奨の意見表明の方針を回答。

取締役会の意見

タキロンシーアイの取締役会は、本公開買付けに賛同の意見を表明するとともに、株主に対して公開買付けへの応募を推奨する決議を行いました。

賛同の理由

  • 企業価値向上への貢献: 公開買付者による非公開化は、タキロンシーアイの企業価値向上に資すると判断。
  • 買付価格の妥当性: 買付価格およびその他の諸条件は妥当であり、株主に合理的なプレミアムを付した価格での売却機会を提供するものと判断。

取締役会の判断

取締役会は、以下の情報や分析結果を総合的に検討した上で、上記の結論に至りました。

  1. 法的助言: アンダーソン・毛利・友常法律事務所からの法的助言
  2. 財務的助言: 大和証券からの財務的見地からの助言
  3. 株式価値算定: 大和証券によるタキロンシーアイ株式の価値算定結果
  4. 特別委員会の意見: 独立した特別委員会からの答申書(公開買付価格の妥当性、手続きの公正性、少数株主への不利益の不存在など)
  5. 伊藤忠商事との協議内容: 買付価格などをめぐる伊藤忠商事との複数回の協議・交渉の内容
  6. その他関連資料

少数株主への配慮

  • 特別委員会の設置: 公開買付者の親会社である伊藤忠商事はタキロンシーアイの支配株主であるため、利益相反を回避し、少数株主の利益を保護するために特別委員会を設置。
  • 特別委員会の独立性: 特別委員会は、公開買付者関係者およびタキロンシーアイグループから独立した社外取締役で構成。
  • 少数株主への応募推奨: 特別委員会の答申や各種分析結果を踏まえ、少数株主にとって本公開買付けへの応募が不利益にならないと判断し、応募を推奨。

価格の算出方法

DCF法による算定

画像
  • 対象期間: 2025年3月期~2029年3月期の5年間
  • 基礎データ: タキロンシーアイが作成した事業計画(収益・投資計画など)や一般公開情報などを前提として、将来のフリーキャッシュフローを予測
  • 割引率:
    • 大和証券:6.5%~8.5%
    • プルータス・コンサルティング:5.7%~6.2%
  • 永久成長率:
    • 大和証券:0.0%~1.0%
    • プルータス・コンサルティング:0%
  • その他:
    • 大幅な増減益を見込む事業年度は含まれていない
    • シナジー効果は考慮せず(プルータス・コンサルティングは上場維持コスト削減効果のみ考慮)買付価格決定までの過程
  • 伊藤忠商事は、初期提案価格705円から、タキロンシーアイおよび特別委員会との交渉を経て、最終的に870円に引き上げ
  • 最終買付価格は、
    • 前営業日終値(793円)に対して9.71%のプレミアム
    • 過去1ヶ月間の終値単純平均値(806円)に対して7.94%のプレミアム
    • 過去3ヶ月間の終値単純平均値(751円)に対して15.85%のプレミアム
    • 過去6ヶ月間の終値単純平均値(703円)に対して23.76%のプレミアム

公正性担保措置の内容

  1. 独立した特別委員会の設置:
    • 公開買付者の親会社である伊藤忠商事はタキロンシーアイの支配株主であるため、利益相反を回避し、少数株主の利益を保護するために、タキロンシーアイ内に特別委員会を設置。
    • 特別委員会は、公開買付者関係者およびタキロンシーアイグループから独立した社外取締役3名で構成され、客観的な立場から取引の公正性を評価・判断。
  2. 第三者算定機関による株式価値算定:
    • 公開買付者: 野村證券に株式価値算定を依頼し、買付価格の妥当性を評価。
    • タキロンシーアイ: 大和証券に株式価値算定を依頼。
    • 特別委員会: プルータス・コンサルティングに株式価値算定を依頼し、少数株主の利益保護の観点から買付価格の妥当性を評価。
  3. 独立した法律事務所からの助言:
    • タキロンシーアイ: アンダーソン・毛利・友常法律事務所から法的助言を取得し、手続きの公正性を確保。
    • 特別委員会: 北浜法律事務所から法的助言を取得し、少数株主の利益保護の観点から手続きの公正性を評価。
  4. 独立した検討体制の構築:
    • タキロンシーアイは、公開買付者関係者から独立した社内体制を構築し、取引に関する検討・交渉を実施。
    • この体制には、伊藤忠グループの役職員を兼務していない、または過去に役職員だったことのないタキロンシーアイの役職員のみが参加。
    • しかし、一部例外として、過去の在籍や出向経験がある役職員も、専門性必要性を考慮し、特別委員会の承認を得た上で参加が認められている。
  5. 特別利害関係人の意見排除:
    • 伊藤忠商事の出身者または関係者である取締役3名監査役1名は、利益相反を避けるため、取締役会における審議・決議および本取引の協議・交渉には参加していない
  6. 対抗買収提案機会の確保(取引保護条項の不存在):
    • タキロンシーアイと公開買付者は、対抗買収提案妨げるような取引保護条項を含む合意は一切行っていない。
    • これにより、他の買収提案の可能性を排除せず、少数株主にとってより有利な条件での取引機会を確保。
  7. 適切な判断期間の確保:
    • 公開買付期間を法定最短期間(20営業日)よりも長い30営業日に設定。
    • 少数株主が公開買付けへの応募について適切に判断するための時間を確保。
  8. 応募しない株主への配慮:
    • 公開買付け後に株式売渡請求または株式併合を実施する予定だが、いずれの場合も少数株主株式買取請求権または価格決定申立権を行使できる。
    • これにより、少数株主は公正な価格で株式を売却する機会を確保できる。

「マジョリティ・オブ・マイノリティ」と「マーケットチェック」について

  • 「マジョリティ・オブ・マイノリティ」条件:
    • 本公開買付けでは設定なし
    • すでに伊藤忠商事が過半数の株式を保有しているため、少数株主の応募促進には不要と判断。
    • しかし、買付予定数の下限を設けることで、一定数の少数株主の賛同が必要となる仕組み。
  • 「マーケットチェック」:
    • 本公開買付けでは実施なし
    • 支配株主による完全子会社化であるため、対抗買収提案の可能性が低いと判断。
    • ただし、他の公正性担保措置が十分に講じられているため、手続きの公正性は確保されていると判断。