MBO(Management Buyout、経営陣買収)は、企業の経営陣が自社の株式を取得し、非公開化することを目指すものです。
このMBOにおいて、マジョリティ・オブ・マイノリティ(MoM)条件というものがしばしば登場します。

MoM条件とは、MBOを行う際に、経営陣以外の少数株主の過半数の賛同を得ることを条件とするものです。一見すると複雑なこの条件ですが、MBOの公正性と透明性を確保するために重要な役割を果たしています。

この記事では、MBOにおけるMoM条件について、その意味や目的などをわかりやすく解説します。

概要

MBOにおけるMoM条件は、少数株主の利益保護とMBOの公正性確保のために重要な役割を果たします。しかし、MoM条件が形式的なものとなったり、少数株主が適切な判断を下せない状況では、その効果は限定的になります。

MoM条件の意義を最大限に活かすためには、少数株主への情報開示の徹底や、独立した専門家による意見表明など、さらなる工夫が必要と言えるでしょう。

1. MBOとマジョリティ・オブ・マイノリティ条件の基本

1.1 MBO(経営陣買収)とは?

MBOとは、Management Buyoutの略で、企業の経営陣が自社の株式を取得し、非公開化することを目指す取引です。MBOの目的は様々ですが、主なものとしては、経営の自由度を高める、株主からのプレッシャーを軽減する、企業価値を向上させるなどが挙げられます。

1.2 マジョリティ・オブ・マイノリティ(MoM)条件とは?

MoM条件とは、Majority of Minorityの略で、MBOを行う際に、経営陣以外の少数株主の過半数の賛同を得ることを条件とするものです。この条件は、MBOにおいて少数株主の利益が不当に害されないようにするためのものです。

マジョリティ・オブ・マイノリティ条件とは、M&A の実施に際し、株主総会における賛否の議決権行使や公開買付けに応募するか否かにより、当該 M&A の是非に関する株主の意思表示が行われる場合に、 一般株主、すなわち買収者と重要な利害関係を共通にしない株主が保有する株式の過半数の支持を得ることを当該 M&Aの成立の前提条件とし、当該前提条件をあらかじめ公表することをいう。...

この点に関連して、現在の公開買付けの実務上、公開買付届出書の提出に際し、買収者との間で応募合意をした株主は、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件において賛成を確認する対象となる一般株主(分母となる「マイノリティ」)から一律に除外すべきとの運用が行われている。しかし、買収者との間で応募合意をした株主は、買収者と重要な利害関係を共通にす
る場合もあればそうでない場合もあるところ、後者の場合には、株式の売り手として利害関係を有する株主との真摯な交渉により応募合意に至ったことは、むしろ取引条件の公正さを裏付ける要素とも言い得るため、応募合意をしたことのみをもって当該株主を一律に賛成を確認する対象となる一般株主から除外する必要はない。...

マジョリティ・オブ・マイノリティ条件の設定は、 M&Aが①いわゆる二段階買収により行われる場合には、一段階目の公開買付けにおいて一定数以上を買付予定数の下限として設定することにより行い、②組織再編等の一段階の取引により行われる場合には、例えば、株主総会において一定数以上の賛成の議決権行使が行われなかったことを当該組織再編に係る契約の効力の解除条件として設定することにより(株主総会の特別決議に係る決議要件を加重する定款変更を行うことなく)行うことが考えられる。
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公開買付けにおいて、買付予定数の下限は設定されず、結果として多数の株主の応募があったにとどまる場合には、本指針で取り上げるマジョリティ・オブ・マイノリティ条件の設定としては評価されない。また、一般株主に対して、適切な判断を行うために必要な情報が提供されていることも、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件が機能する上での前提となる。

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/fair_ma/pdf/20190628_shishin.pdf

2. なぜMoM条件が必要なのか?

MBOは、経営陣が自社の株式を取得するため、利益相反の問題が生じやすい取引です。つまり、経営陣が自らの利益を優先し、少数株主の利益を軽視する可能性があります。

MoM条件は、このような利益相反の問題を防ぎ、MBOの公正性と透明性を確保するために設けられています。具体的には、以下の2つの目的があります。

  • 少数株主の利益保護: MoM条件により、少数株主はMBOの是非について意見を表明する機会を得られます。過半数の賛同がなければMBOは成立しないため、少数株主の利益が不当に害されることを防ぐことができます。
  • MBOの公正性確保: MoM条件は、MBOが少数株主にとっても公平な条件で行われることを担保するものです。これにより、MBOに対する社会的な信頼性を高めることができます。

マジョリティ・オブ・マイノリティ条件は、これを設定することにより M&A を成立させるために得ることが必要となる一般株主の賛成の数が相当程度増加する場合には、取引条件の公正さを担保する上で有効性が高いため、そのような場合にマジョリティ・オブ・マイノリティ条件が設定された場合には、公正性担保措置として評価される。

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/fair_ma/pdf/20190628_shishin.pdf

3. MoM条件の具体的な手続き

MoM条件を満たすためには、以下の手続きが必要です。

  1. 少数株主の特定: MBOを行う企業は、まず少数株主を特定する必要があります。少数株主とは、経営陣やその関係者以外の株主を指します。
  2. 情報開示: 少数株主に対して、MBOに関する情報を十分に開示する必要があります。開示する情報には、MBOの目的、買収価格、今後の事業計画などが含まれます。
  3. 賛否の表明: 少数株主は、開示された情報に基づいて、MBOに賛成か反対かを表明します。
  4. 集計と結果の公表: 企業は、少数株主の賛否を集計し、その結果を公表します。過半数の賛同が得られれば、MoM条件は満たされたことになります。

4. MoM条件設定による留意点

一方で、以下のような留意点も存在します。

  • 買収者が支配株主である場合の阻害効果: 買収者が支配株主の場合、M&Aを成立させるために必要な賛成数を確保することが難しくなり、企業価値向上につながるM&Aの実施を妨げる可能性があります。
  • パッシブ運用ファンドの影響: パッシブ運用ファンドの中には、取引条件に関わらず公開買付けに応募しない投資家も存在するため、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件が有効に機能しない可能性があります。
  • 買取請求権の存在: 組織再編の場合には、株主は買取請求権を行使できます。このため、取引条件に関わらず反対の議決権を行使したり、公開買付けに応募しないインセンティブが働きやすくなります。

上記のような留意点を踏まえ、M&Aにおける具体的な状況に応じて、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件を設定するかどうかを慎重に検討する必要があります。設定しない場合には、他の公正性担保措置を充実させることで、取引条件の公正さを担保することが求められます。

5.MoMが争点となった事例

伊藤忠によるファミマのTOB事例

  • 背景: 伊藤忠がファミマ株式の約50%を保有し、インデックス型ファンドが約30%を保有
  • 問題点: 伊藤忠がTOB価格を低く設定し、ファミマの経営改革に必要な資金が不足する可能性
  • MoMの適用: 伊藤忠はMoMの考え方を採用したが、下限を10%弱に設定。20%を保有するインデックス型ファンドがTOBに応募しないことを考慮したため

日立国際電気のTOB事例

  • 実施主体: 米投資ファンドKKR
  • MoM条件: MoM条件が付与されたが、米投資ファンドのエリオットがTOB価格より高値で株式を買い付けることでMoM条件の成立を阻害。

まとめ

MBOにおけるマジョリティ・オブ・マイノリティ条件は、少数株主の利益保護とMBOの公正性確保のために重要な役割を果たします。MoM条件の意義と手続きをしっかりと理解し、MBOの公正性を評価できるようにしましょう。