2023年8月31日、経済産業省は「企業買収における行動指針」を公表しました。これは、上場企業のM&A(企業買収・合併)に関するルールやベストプラクティスをまとめたものです。
本指針は、あくまで原則論とベストプラクティスを示すものであり、個別の企業の状況に応じて柔軟に対応する必要があります。しかし、本指針を参考に、企業価値向上と株主利益確保のバランスを取りながら、M&A を戦略的に活用することで、企業の成長と発展に繋げることが期待できます。
従来、日本企業は買収防衛策を重視し、敵対的買収に対しては断固拒否の姿勢を示すことが一般的でした。しかし、近年は株主価値の向上や企業の持続的成長のために、M&Aを積極的に活用する動きが見られます。
新指針は、このような状況を踏まえ、M&Aに関する公正なルール形成を促進し、企業価値の向上と株主利益の確保を目指すものです。特に、企業価値を定量的に定義し、株主価値を重視する姿勢を明確にした点は、重要な影響があると考えられます。
新指針は、買収者と対象会社の双方に対して、透明性と公正性を確保するための行動を求めています。例えば、買収者は買収の目的や買収後の経営方針などを明確に開示し、対象会社は買収提案を真摯に検討し、株主利益を最大化するよう努めなければなりません。
これらの影響を踏まえ、企業は平時から企業価値向上に努め、市場との対話を積極的に行うことが求められます。買収提案に対しては、株主利益を最大化できるよう、専門家の意見も踏まえつつ、透明性と公正性を確保した対応が求められます。
第1章 はじめに
1.1 本指針の策定経緯
- 経済産業省は、M&A に関する原則や視点、ベストプラクティスなどを整理する指針及び報告書を策定してきた。
- 2005 年には、「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」を策定。
- 2019 年には、「公正な M&A の在り方に関する指針」を策定。
- 2020 年には、「事業再編実務指針」を策定。
- 2023 年 4 月には「対日 M&A 活用に関する事例集」を作成。
- 日本企業及び資本市場を取り巻く環境の変化を踏まえ、2022 年 11 月に「公正な買収の在り方に関する研究会」を立ち上げ、検討を行ってきた。
- 本指針は、同研究会における議論等を踏まえて策定された。
1.2 本指針の意義と位置づけ
- 本指針の目的は、上場会社の経営支配権を取得する買収を巡る当事者の行動の在り方を中心に、M&A に関する公正なルール形成に向けて経済社会において共有されるべき原則論及びベストプラクティスを提示すること。
- 公正な M&A 市場を整備することで市場機能が健全に発揮され、望ましい買収が活発に行われるようになることは、経済社会全体にとって有益。
- 本指針は、公正な M&A 市場の確立に向けた更なる一助となり、更には望ましい買収の実行を促進させることが期待されている。
- 本指針では、諸外国における法制度や実務も踏まえつつ検討が行われ、重要な示唆を得ている。
- 買収への対応方針・対抗措置については、2005 年指針の運用状況、その後の裁判例、機関投資家の議決権行使行動の変化等を踏まえ、今般見直しを行い、新たに(本指針の第 5 章として)買収への対応方針・対抗措置の在り方について定めている。
1.3 本指針の対象
- 本指針は、買収者が上場会社の株式を取得することでその経営支配権を取得する行為を主な対象とするものである。
- 対象会社の経営陣からの要請や打診を受けて買収者が買収を提案する場合のみならず、経営陣からの要請や打診が行われていない中で買収提案が行われる場合についても射程に含まれている。
1.4 本指針において用いる用語の意義
- 企業価値:会社の財産、収益力、安定性、効率性、成長力等株主の利益に資する会社の属性又はその程度をいい、概念的には、企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの割引現在価値の総和。
- 買収:主に、買収者が上場会社の株式を取得することでその経営支配権を取得する行為。
- 同意なき買収:対象会社の取締役会の賛同を得ずに行う買収。
第2章 原則と基本的視点
2.1 3つの原則
- 第 1 原則:企業価値・株主共同の利益の原則
望ましい買収か否かは、企業価値ひいては株主共同の利益を確保し、又は向上させるかを基準に判断されるべき。 - 第 2 原則:株主意思の原則
会社の経営支配権に関わる事項については、株主の合理的な意思に依拠すべき。 - 第 3 原則:透明性の原則
株主の判断のために有益な情報が、買収者と対象会社から適切かつ積極的に提供されるべき。
2.2 基本的視点
- 買収は、現在の株価よりも企業の価値を大きく向上させることに買収者が自信を持っている場合に行われる。
- 買収が成立した場合には、買収者は向上した企業価値が買収対価を上回る部分を享受でき、株主は、買収対価が足元の株価を上回る部分(プレミアム)を享受できる。
- 買収取引の実施について買収者や対象会社、株主には動機があり、これらの者が合理的に行動し買収取引が行われることを通じて、シナジーによる価値向上や、経営の効率の改善を促すことが期待される。
- 企業価値とは、概念的には、企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの割引現在価値の総和。
- 企業価値を資本の調達源泉の側面から見れば、企業価値は株主価値と負債価値の合計として表される。
- 買収が実行される局面においては、買収者が株式の売り手である株主から株式を取得することとなり、売却に応じる株主は、買収対価を受領することによって直接に利益を享受する関係に立つ。
- 買収は、対象会社の企業価値を向上させ、かつ、その企業価値の増加分が当事者間で公正に分配されるような取引条件で行われるべき。
- 取締役会が買収に応じる方針を決定する場合においては、対象会社の取締役は、会社の企業価値を向上させるか否かの観点から買収の是非を判断することに加えて、株主が享受すべき利益が確保される取引条件で買収が行われることを目指して合理的な努力を行うべき。
- 対象会社がこうした行動を行うに当たっては、経営陣の利益相反の問題への対応や、取引条件の改善の観点から、社外取締役が重要な役割を果たす。
- 個別の事案における利益相反の程度や情報の非対称性の問題の程度、対象会社の状況や取引構造の状況等に応じて、特別委員会の設置や外部のアドバイザーの助言等の公正な手続を講じることが考えられる。
第3章 買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範
3.1 買収提案を受領した場合
- 経営陣又は取締役は、経営支配権を取得する旨の買収提案を受領した場合には、速やかに取締役会に付議又は報告することが原則。
- 取締役会に付議すべき買収提案と言えるかどうかは、外形的・客観的に判断。
- 取締役会における取扱いを判断するに当たっては、買収提案の具体性の有無に加え、買収者の信用力も考慮。
- 付議された取締役会では、「真摯な買収提案」に対しては「真摯な検討」をすることが基本。
- 「真摯な買収提案」(具体性・目的の正当性・実現可能性のある買収
提案。英語の bona fide offer に相当する。)の該当性は、取締役会として今後、時間とコストをかけて「真摯な検討」を進めるに値する提案かどうかを判断するための一つの指標である。例えば、以下のような各要素を総合考慮する。
① 具体性が合理的に疑われる場合
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831003/20230831003-a.pdf
・買収対価や取引の主要条件が具体的に明示されない買収提案
② 目的の正当性が合理的に疑われる場合
・経営支配権を取得した後の経営方針が示されない買収提案
・ (他の買収者がいる状況において)買収価格を吊り上げる目的で行われる買収提案
・ 競合他社により情報収集等を行う目的で行われる買収提案
③ 実現可能性が合理的に疑われる場合
・ 買収資金の裏付けのない買収提案
・ 当局の許認可など買収実施の前提条件が得られる蓋然性が低く、客観的に見て実施に至ることが期待できない買収提案
・ 支配株主が保有する支配的持分を第三者に売却する意思がないことが判明している中における支配的持分の買収提案
- 「真摯な買収提案」であるとして、取締役会が「真摯な「真摯な検討」を進める際には、買収提案についての追加的な情報を買収者から得つつ、買収後の経営方針、買収価格等の取引条件の妥当性、買収者の資力・トラックレコード・経営能力、買収の実現可能性等を中心に、企業価値の向上に資するかどうかの観点から買収の是非を検討することとなる。
また、自社の株価が提案の価格を大きく下回っている場合には、そもそもなぜこの乖離が生じるのかについて、取締役会(特に社外取締役)や経営陣が関心を持ち、検討や分析を行う契機とすることが考えられる。
3.2 取締役会が買収に応じる方針を決定する場合
- 取締役会が買収に応じる方針を決定する場合においては、対象会社の取締役・取締役会は、会社の企業価値を向上させるか否かの観点から買収の是非を判断するとともに、株主が享受すべき利益が確保される取引条件で買収が行われることを目指して合理的な努力を行うべき。
- 現金対価による全部買収の提案である場合には、株主が対象会社株式への投資から利益を得る最後の機会となるため、株主にとっては価格面での取引条件の適正さが特に重要となる。
- 部分買収の提案である場合には、価格面での取引条件が良いとしても、株主が株式の全てをその価格で売却できるわけではないことが、株主にとって重要な判断軸になる。
- 買収対価の全部又は一部が株式である場合には、売却に応じる株主は買収後も対価株式を保有することとなるため、価格面での取引条件の適正さだけでなく、買収後の企業グループとしての価値が中長期的に向上するかどうかが株主にとっても重要な判断軸になる。
- 取締役会が買収に応じる方針を決定する場合において、取締役会は、買収者との交渉を行う際に、取引条件の改善により、株主にとってできる限り有利な取引条件で買収が行われることを目指して、真摯に交渉すべき。
- 取締役・取締役会として、買収者との間で企業価値に見合った買収価格に引き上げるための交渉を尽くす、競合提案があることを利用して競合提案に匹敵する程度に価格引き上げを求める、部分買収であることによる問題が大きいと考える場合には全部買収への変更も含めて交渉するなど、企業価値の向上に加えて株主利益の確保を実現するための合理的な努力を貫徹すべき。
- 買収に関する事実を公表し、公表後に他の潜在的な買収者が対抗提案を行うことが可能な環境を構築した上で買収を実施することや、株主の利益に資する買収候補を模索することで、買収条件の改善を目指すことにも合理性がある。
3.3 公正性の担保-特別委員会による機能の補完・留意点
- 個別の事案における利益相反の程度や情報の非対称性の問題の程度、対象会社の状況や取引構造の状況等に応じて、特別委員会の設置や外部のアドバイザーの助言等の公正な手続を講じることが考えられる。
- 特に取締役会の過半数が社外取締役でない会社においては、取締役会の独立性を補完し、取引の公正性を確保するために、独立した特別委員会を設置し、その判断を尊重することが有益。
- MBO や支配株主による従属会社の買収以外の一般的な買収においては、買収提案を受領した初期の段階では買収が行われる蓋然性が低い場合もあり、その段階から常に特別委員会の設置を必要とすることは、会社側の負担を過度なものとするおそれもある。
- 例えば、キャッシュ・アウトの提案である場合、買収への対応方針・対抗措置を用いようとする場合、その他、市場における説明責任が高いと考えられる場合(例えば、複数の公知の買収提案がある場合等)には、特別委員会の設置が有用。
第 4 章 買収に関する透明性の向上
4.1 買収者による情報開示・検討時間の提供
- 買収者が株式の取得を進める場合には、5%以下で株式を取得する段階、5%超の株式を取得し、大量保有報告書を提出した後の段階、市場内での株式取得や公開買付けの実施等により経営支配権を取得する段階などによって、投資の性質や市場への影響、求められる透明性が異なると考えられる。
- 各段階において、買収者が大量保有報告制度や公開買付制度などを遵守することにより、透明性を高め、株主に十分な情報や時間を提供することで、株主の適切な判断が行われることが期待される。
4.1.1 買収者による株式の取得と情報開示
- 大量保有報告書や公開買付届出書を提出しようとする者は、これらの制度に基づき買収の目的について充実した開示を行うことが望ましい。
- 買収を検討する際には、事前取得によって小規模な資本関係を持つことで会社の状況を把握し、その後、買収を行うかどうか判断するという戦略を取る場合もある。
- 買収意向が明確であるにも関わらずそれを明らかにせずに株式を買い進める場合、株主が安価で株式を売却することがあり得る。
- 買収をしようとする者が、公開買付けに先立って市場で株式の取得を進めるに当たり、その後に公開買付けを実施する意向が確定的である場合には、その旨の情報提供を資本市場や対象会社に対して行うことが望ましい。
4.1.2 買収に関する検討時間の提供
- 株主によるインフォームド・ジャッジメントの機会を確保するためには、情報のみならず、対象会社の株主や取締役会に対して十分な時間が提供されることも重要。
- 対象会社との交渉を経ずに公開買付けが開始される場合、対象会社の株主や取締役会にとって、買収に関する検討や準備の時間が不足することも考えられる。
- 公開買付けの方法によらず、急速な市場内買付けにより対象会社の株式を取得する場合、対象会社の株主や取締役会に十分な時間が確保されない可能性があり、一般論としては、買収者は株主等の判断のための十分な時間を確保できるスキームやスケジュールを選択することが望ましい。
4.2 対象会社による情報開示
- 経営支配権を取得する買収が実施される際に対象会社からの情報開示を充実させ、取引条件の妥当性等についての判断に資する重要な判断材料を提供することで、株主によるインフォームド・ジャッジメントが可能となる。
- 買収が実施される場合には、対象会社としても、金融商品取引所の適時開示規制による開示制度を遵守するにとどまらず、自主的に、取締役会や特別委員会における検討経緯や、買収者との取引条件の交渉過程への関与状況に関し、充実した情報開示を行うことが望ましい。
第 5 章 買収への対応方針・対抗措置
5.1 買収への対応方針・対抗措置に関する考え方
- 買収を巡る当事者が適切に行動することにより、真摯に検討・交渉がされるとともに、対象会社及び買収者の双方から必要な情報が提供され、透明性・公正性が確保された上で株主が買収者による株式の取得に応じるか否かを判断することが本来あるべき姿。
- 他方で、対象会社やその株主に対して必要な時間や情報が提供されずに買収がされることや、買収者が対象会社や一般株主の犠牲のもとに不当な利益を得ることを目的として経営支配権を取得することなどで、企業価値ひいては株主共同の利益を損なう可能性もある。
- 対応方針の内容や買収の態様によっては、必ずしも買収者から見た予見可能性が高いとは言えず、この点について会社は丁寧な説明を行うべきである。
5.2 株主意思の尊重
- 対応方針に基づく対抗措置の発動は、会社の経営支配権に関わるものであることから、株主の合理的な意思に依拠すべき。株主総会における決議を経ることで、対抗措置の発動の適法性が相対的に認められやすくなるものと考えられる。
- 株主総会を経る場合においても、取締役会は、形式的に株主総会の判断に委ねるのではなく、対抗措置の必要性や、公正性の確保等について慎重に検討し、十分な説明責任を果たすべき。
別紙 1:取締役・取締役会の具体的な行動の在り方
1. 秘密保持契約
- 買収提案をより具体化するために必要な情報を対象会社が買収者に提供する、あるいは買収提案を検討・評価するために必要な情報を買収者が対象会社に提供する際に、秘密保持契約の締結が必要になることがある。
- 相互の信頼関係の醸成のために、買収者との秘密保持契約において、一定の合理的な期間を定めて会社との合意なく買収提案を公開しないこと、公開買付けを開始しないこと、株式の買増しをしないこと等の条項の交渉を通じて、適切な交渉時間・機会を確保することの検討を行うことにも合理性がある。
2. デュー・デリジェンスへの対応
- デュー・デリジェンスは、通常、企業内部の非公開情報を提供して行うものであることから、競合他社への情報流出や目的外利用のリスクなども考慮した上で、検討・交渉を進める意義があると考える場合に実施することとなる。
- デュー・デリジェンスへの対応を行うかどうか及びどこまで対応するかの判断に当たっては、「真摯な買収提案」に該当するかどうかを判断する際の考慮要素のみならず、検討・交渉の中で判明した具体的な提案の内容、買収者の事業環境やトラックレコード、情報管理の信頼性、買収の実現可能性等が総合的に考慮される必要がある。
- 買収候補者に対して段階的に情報提供を行うことにも合理性がある。
- 複数の提案が存在する場合には、他の提案者との公平な取扱いの必要性や複数の提案の実効的な比較検討の観点からもその対応につき検討がされるべき。
3. 株主が享受すべき利益が確保される取引条件を目指した検討・交渉
- 取締役会は、自ら又は特別委員会を通じて、交渉を行う経営陣等から適切なタイミングで報告を受け、検討・指示を行うことにより、買収提案についての分析・評価及び買収者との交渉に実質的に関与するとともに、利益相反リスクへの対応に向けた公正な検討プロセスを確保するなど、監督者としての役割を果たすべき。
- 価格や買収する比率など取引条件に関する検討・交渉については、利益相反等の程度に応じて、社外取締役や特別委員会が検討・交渉過程に実質的に関与することが望ましい。
別紙 2:強圧性に関する検討
1. 公開買付けにおける強圧性
- 公開買付けにおける強圧性については、強圧的二段階買収、少数株主として残存する可能性のある公開買付け、強圧性の排除の工夫をした公開買付けに大別できる。
- 強圧性の排除の工夫をした公開買付け:「オール・オア・ナッシング」のオファー、すなわち、上限を設定せず(全部買付け)、買付後の株券等所有割合を株式併合などができる水準(議決権数の 3 分の 2 以上)となるように下限を設定し、公開買付け成立後に公開買付価格と同額でキャッシュ・アウトを行うことを予告する二段階買収では、強圧性の問題は排除されていると考えられる。
2. 市場内買付けにおける強圧性
- 市場内買付けの強圧性については、公開買付けと異なり、定型的・類型的に判断することは容易ではないが、企業価値を下げる可能性がある買収の場合には、そうであるがゆえに、買収を成立させやすくなる側面が指摘される。
- 市場内買付けにおける売り急ぎの問題については、市場内買付けがまだ続くからできるだけ遅く売ろうとする者もいると考えられるため「遅い者勝ち」となる可能性もあることを指摘する声もあり、実際にどの程度の強圧性が生じうるかを考えるためには、個別の事案に即した検討が必要となる。
別紙 3:買収への対応方針・対抗措置(各論)
1. 株主意思の尊重
- 対抗措置の発動について株主総会の決議を経る場合、原則として対抗措置の必要性が推認されるものと考えられる。
- 有事において時間的制約から取締役会の判断により対応方針が導入されることがあるが、取締役会の判断によりその有効期間の延長・継続がくり返されれば、買収者が買収提案を取り下げる等しない限り、事実上買収を抑止することとなりかねない。
2. 必要性・相当性の確保
(1) 必要性の確保
- 買収の態様によっては、対象会社やその株主に対して必要な時間や情報が提供されずに買収がされることなどで、企業価値や株主利益を損なう可能性もある。
- 時間・情報・交渉機会の確保を理由として、買収者に対して延々と情報提供を求めることを可能とするような設計や運用を行うことや、買収提案の検討期間をいたずらに引き延ばす等の恣意的な運用は許容されるべきではない。
- 買収の態様によっては、強圧性を有するがために、株主の合理的な意思決定が歪められ、企業価値を損なう買収が成立する可能性があることが指摘されている。
- 個別の事案における経緯や買収者の行動、株主の行動等に関して具体的な検証を行うことなく、市場内買付けや部分買付けであることの一事をもって強圧性の問題を強調し、対応方針や対抗措置を用いることを安易に正当化することは望ましくない。
(2) 相当性の確保
- 買収者に買収を撤回・中止する時間が残っていること等によって、対抗措置の発動による持株比率の希釈化という損害を回避できる可能性があることは、対抗措置の相当性を基礎づける要素と考えられる。
まとめ
「企業買収における行動指針」の影響は以下にまとめられます。
- 企業価値向上に向けた活動: 事業ポートフォリオ見直しを含め、通常時からの企業価値向上が、これまで以上にディフェンシブな面からも重要に
- 株主利益の最大化: 企業価値向上の観点のみでなく、株主利益最大化を重視した対応が必須に。買収スキームの変更提案やマーケット・チェックなども必要な場面がある
- 「同意なき買収」の活用増加: 定性的な評価から定量的な評価や議論をもとに、「同意なき買収」提案に対する見方も建設的に変化
- 取締役会の真摯な検討: 真摯な買収提案は無視できず、取締役会は定量的な判断に基づき検討。社外取締役の立ち位置も重要に