件数が増加し、今後も活用事例が増えると考えられるMBOについての概要をまとめます。MBOとは何か、どういった特徴があるか、直近ではどのような事例があるかの理解にお役立てください。
MBOとは
MBO(Management Buyout、マネジメント・バイアウト)とは、企業の経営陣が投資ファンドや金融機関から資金を調達し、既存の株主から自社の株式を買い取って経営権を取得する手法です。
MBOの主な目的は、経営体制の見直しや上場廃止、経営の自由度を高めることです。これにより、長期的な視点での経営戦略の実行や意思決定のスピードを確保することができます。
MBOは、上場企業の非公開化や中小企業の事業承継など、さまざまなケースで実施されています。
MBOの増加背景
2023年は、MBOが17件行われ、買付総額は1.4兆円を超えたとのことです。(レコフデータ調べ)
日本でMBO(マネジメント・バイアウト)が増えている背景には、いくつかの要因が挙げられます。
1. 東京証券取引所の市場再編と資本効率改善要請
東京証券取引所(東証)は2022年4月に市場再編を行い、新市場への新規上場および上場維持に厳格な審査基準を設けました。また、2023年3月には資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を企業に要請し、2024年1月から要請への取り組みを開示する企業名を毎月更新することを発表しました。このような動きにより、企業の上場負担が増加し、非公開化を選択する企業が増えています。
2. アクティビスト投資家の圧力
物言う株主(アクティビスト)による企業への要求が強まっていることも、MBO増加の一因です。アクティビスト投資家は企業に対して積極的な経営改善を求めることが多く、これに対抗するために経営陣がMBOを選択するケースが増えています。
3. 株価純資産倍率(PBR)の低さ
多くの上場企業がPBR1倍割れの状況にあり、株価が割安なため、経営陣が株式を取得しやすい状況が続いています。これもMBOを促進する要因となっています。
4. 経営の自由度と中長期的視点の確保
MBOにより株式を非公開化することで、経営陣は株主の短期的な利益要求から解放され、より自由度の高い経営が可能になります。これにより、中長期的な視点での構造改革や事業再編が進めやすくなります。
5. 上場廃止による経営再建
上場廃止を通じて経営再建を目指す企業が増えています。特に、業績不振や経営体制の見直しを目的としたMBOが多く見られます。
6. 資金調達市場としての魅力
不透明な市況が続く過程でコスト削減や投資縮小等、各企業が資金を一定蓄えた結果、直接市場から資金を調達する必要性が薄まってきていると考えられます。調達するとしても希薄化を気にする必要がある
7. 金融政策と買収資金コスト
これまでの緩和的な金融政策からの変更=金利上昇が近づいているため、買収資金コストが低い間に実行する需要がある。
MBOで特に問題とされやすい事項
買付価格の公正性
- 買付価格の低さ: MBOにおいて提示される買付価格が低すぎると、既存株主からの反発を招くことがあります。特に、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業に対しては、買付価格が「公正な価格」と言えるかどうかが争点となります。
- 価格決定の透明性: 経営陣がMBOの価格を決定するため、株主にとって不利な価格設定が行われるリスクがあります。これに対して、独立した第三者委員会の設置や第三者評価機関からの意見取得が求められますが、十分な対応がなされていないケースもあります。
利益相反の問題
- 経営陣と株主の利益相反: 経営陣が自ら買収者となるため、既存株主との間で利益相反が生じやすいです。特に、経営陣が株価の動きを予測しやすい立場にあるため、株主に不利なタイミングでMBOを実施する可能性があります。
少数株主の権利保護
- 少数株主の軽視: MBOにおいて少数株主の権利が十分に保護されていないとの指摘があります。特に、少数株主が公正な価格で株式を売却できるような
直近のMBO事例
永谷園ホールディングス (丸の内キャピタル)
- こちらをご参照ください
スノーピーク (ベインキャピタル)
- 公表日:2024/2/20
- 買収総額:約340億円
- 普通株式買付価格: ¥1,250(決算公表前終値 +44.18%)
- 実施目的:海外事業及びキャンプ用品以外の事業拡大
- 取締役会意見:賛同 / 応募推奨
- 特別委員会の設置
- 公開買付者との価格交渉
- 決算公表前の株価に対するプレミアムも考慮(過去数年のMBO案件平均対比ではプレミアムがやや劣るものの、PBR1,2倍以上のMBO案件平均と比較した場合十分な水準と判断)
- マジョリティ・オブ・マイノリティを満たす買付予定数の下限の設定
- 公開買付期間を36営業日に設定
- スキームの特徴:スクイーズアウト手続き後、三角株式交換を実施
- 関連URL :https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS03293/d1fc74d0/aaf4/4523/b57e/f5945745c138/20240221151221836s.pdf
大正製薬ホールディングス(創業家)
- 公表日:2023/11/24
- 買収総額:約7,100億円
- 普通株式買付価格: ¥8,620(前日終値 +56.30%)
- 実施目的:
- 海外市場における更なるシェア拡大に向けて消費者ニーズを把握した上で製品を提供
- 薬価制度改革や医療の個別化に伴う開発難易度上昇等の厳
しい事業環境の中、中長期的な目線での経営の舵取り
- 取締役会意見:賛同 / 応募推奨
- PBR1xを割っているものの、流動性の低い資産も含まれているため継続企業の価値算定においては純資産を重視することは合理的でないと判断
- マジョリティ・オブ・マイノリティは設定していない
- 取締役会が登用したFAの価格提案を採用
- スキームの特徴:創業家である応募株主(財団含む)が公開買付者に出資
- 関連URL:https://ssl4.eir-parts.net/doc/4581/tdnet/2366976/00.pdf
ベネッセホールディングス (EQT)
- 公表日: 2023/11/10
- 買収総額:約2,000億円
- 普通株式買付価格: ¥2,600(前日終値 +45.13%)
- 実施目的:事業の延長線上ではない長期的・持続的な事業変革
- 取締役会意見:賛同 / 応募推奨
- PBR1xを割っているものの、流動性の低い資産も含まれているため継続企業の価値算定においては純資産を重視することは合理的でないと判断
- マジョリティ・オブ・マイノリティは設定していない
- 取締役会が登用したFAの価格提案を採用
- 関連URL:https://www.benesse-hd.co.jp/ja/ir/doc/library/OSH5.pdf