この記事では、2024年5月に発表されたトヨクモの2024年12月期第1四半期の決算説明資料を基に、同社の事業内容や成長戦略をまとめています。
トヨクモは、kintone連携サービスや安否確認サービスなどを提供するクラウドサービス企業です。この記事を読むことで、トヨクモのビジネスモデルや成長戦略を理解し、M&Aの可能性について考察することができます。
概要
トヨクモは、2024年12月期第1四半期に連結決算に移行し、売上高は過去最高を更新しました。kintone連携サービスや安否確認サービスが好調で、安定的な成長を続けています。
今後は、子会社を通じてエンタープライズビジネスにも注力し、さらなる成長を目指しています。
一方で、人材採用や広告宣伝費など、先行投資を積極的に行っているため、利益率は減少傾向にあります。
M&Aを活用した事業拡大も視野に入れており、今後の動向に注目です。
着目すべきポイント
今回の決算説明資料で最も注目すべきポイントは、子会社設立による連結決算への移行とエンタープライズビジネスへの参入です。
これまでトヨクモは、kintone連携サービスや安否確認サービスなどを中心に中小企業向けに事業を展開してきました。
しかし、2023年11月に子会社「トヨクモクラウドコネクト」を設立し、大企業向けのエンタープライズビジネスに参入しました。
これは、トヨクモにとって新たな成長の柱となる可能性があります。
会社概要
トヨクモは、2010年にサイボウズ株式会社の子会社として設立され、2014年にマネジメントバイアウト(MBO)により独立しました。
クラウドサービスの開発・提供を主な事業としており、「kintone連携サービス」や「安否確認サービス」などが主力製品です。
2020年9月に東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)に上場し、現在は東証グロース市場に上場しています。
従業員数は56名(2024年3月末時点)で、開発、マーケティング、経営管理の3つの部門に分かれています。
対象企業が所属する市場の概要と競合状況
トヨクモが所属する市場は、クラウドサービス市場です。
この市場は、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展や、テレワークの普及などを背景に、今後も成長が見込まれています。
トヨクモの競合企業としては、サイボウズ、グーグル、マイクロソフトなどが挙げられます。
これらの企業は、それぞれ独自の強みを持っていますが、トヨクモはkintone連携サービスに強みを持っており、この分野では競合優位性を持っていると考えられます。
事業概要
トヨクモの事業は、大きく分けて「kintone連携サービス」と「安否確認サービス」の2つがあります。
kintone連携サービスは、サイボウズ株式会社が提供する業務改善プラットフォーム「kintone」と連携し、kintoneの機能を拡張するサービスです。
帳票出力、外部公開、メール配信など、さまざまな機能を提供しており、kintoneユーザーの業務効率化に貢献しています。
安否確認サービスは、災害発生時などに従業員の安否を確認するためのサービスです。従業員は、スマートフォンやPCから自身の安否を報告することができ、企業は従業員の状況を迅速に把握することができます。
これらのサービスは、いずれも初期費用が発生することなく、安価な定額制で利用できることが特徴です。
経営戦略
- kintone連携サービスの拡充
- 新製品の開発や既存製品の機能強化を継続し、kintoneユーザーのさらなる業務効率化を支援
- 3月に「kViewer」に「仮想待合室」機能を搭載
- 顧客が便利に活用できるよう機能強化を続ける方針
- 安否確認サービスのシェア拡大
- 大規模災害への対応やBCP対策など、企業のニーズに応じた機能拡充
- 3,500契約、200万ユーザーが利用
- 後発ながらも順調にシェアを拡大
- エンタープライズビジネスへの参入
- 2023年11月に子会社「トヨクモクラウドコネクト」を設立
- 大企業をターゲットに、クラウドサービスの導入・運用支援やセキュリティ対策などを提供
- 新規事業として位置付け、今後の成長の柱とする
- 小規模案件を経験し、ビジネスモデルを構築中
- 2024年1月から3月の実績として、13件の運用アドバイスとライセンス取次、8件のリスク分析・保守を実施
これらの戦略を通じて、トヨクモはさらなる成長を目指しています。
特に、エンタープライズビジネスへの参入は、同社にとって新たな挑戦であり、今後の成長を大きく左右する可能性があります。
財務概要
2024年12月期の連結業績予想は、売上高30億円、営業利益10億円で、2023年12月期と比較してそれぞれ23.2%増、14.3%増を見込んでいます。
第1四半期の実績は、売上高6億9,800万円(前年同期比25.8%増)、営業利益2億6,000万円(前年同期比3.4%減)となりました。
売上高は過去最高を更新したものの、営業利益は人材採用や広告宣伝費などの先行投資の影響により減少しています。
営業利益率は、2023年12月期の35.9%から2024年12月期は33.3%への減少を見込んでいます。これは、人件費に大きく予算を取っているためですが、引き続き30%以上を目標とする方針です。
- MRR(月次経常収益):2億4,100万円(2024年3月末時点, 前年同期比26.3%増)
- ARR(年間経常収益):28億9,400万円(2024年3月末時点, 前年同期比26.3%増)
- チャーンレート(解約率):0.71% と低水準で安定的に推移
これらの指標からも、トヨクモの堅調な成長ぶりが伺えます。
クロスSWOT分析
強み
- kintone連携サービスのNo.1プレイヤーとしての地位
- 中小企業市場での高い顧客基盤
- 安価で導入しやすいサービス体系
弱み
- 大企業市場での知名度不足
- エンタープライズビジネスのノウハウ不足
- kintoneの普及状況に業績が左右される
機会
- 企業のDX推進によるクラウドサービス需要の増加
- 大企業市場でのkintone連携サービスの需要拡大
- 新規事業の創出による事業領域の拡大
脅威
- 競合他社との競争激化
- kintoneの普及状況の変化
- 大企業向けビジネスにおけるセキュリティリスクの高まり
トヨクモとの考えられるシナジー
トヨクモとのシナジーは、大きく以下の3つの観点から考えられます。
1. kintone連携サービスの補完・強化
トヨクモはkintone連携サービスのリーディングカンパニーとして、豊富なノウハウと顧客基盤を有しています。
kintone関連ビジネスを展開する企業にとっては、トヨクモの製品やサービスを補完・強化することで、kintoneの利用価値を高め、顧客満足度向上に繋げることができます。
例えば、kintone連携サービスを自社製品に組み込むことで、kintoneユーザーの利便性を向上させたり、トヨクモの顧客基盤を活用して自社製品の販路を拡大したりすることが可能です。
2. 中小企業市場へのリーチ
トヨクモは中小企業市場において高い顧客基盤を持っています。
この顧客基盤を活用することで、中小企業向けの製品やサービスを展開する企業は、効率的に顧客を獲得することができます。
また、トヨクモのブランド力や信頼性を活用することで、自社製品やサービスの認知度向上や信頼性向上にも繋がります。
3. エンタープライズ市場への進出支援
トヨクモは子会社を通じてエンタープライズビジネスに参入しており、大企業向けのクラウドサービス導入・運用支援やセキュリティ対策などのノウハウを蓄積しています。
このノウハウを活用することで、中小企業がエンタープライズ市場に進出する際の障壁を下げることができます。
例えば、トヨクモのノウハウを基に、大企業向けの製品やサービスを開発したり、大企業との取引に必要なセキュリティ対策を強化したりすることが可能です。
考えられるM&Aや資本業務提携のアイデア
買収企業になるM&Aや資本業務提携のアイデア
1. kintone連携サービスの機能強化・拡充
- 買収対象: kintoneのカスタマイズ開発やプラグイン開発を行う企業(例:ジョイゾー)
- シナジー: kintone連携サービスのラインナップ拡充、開発リソースの強化、顧客基盤の拡大
2. 安否確認サービスの機能強化・拡充
- 買収対象: 防災関連システムやコミュニケーションツールを提供する企業(例:AIkido)
- シナジー: 安否確認サービスの機能強化、災害時情報連携の強化、顧客基盤の拡大
3. エンタープライズ市場への進出加速
- 買収対象: クラウドサービスの導入支援やシステムインテグレーションを行う企業(例:サーバーワークス)
- シナジー: 大企業向けビジネスのノウハウ獲得、営業体制強化、顧客基盤の拡大
4. 新規事業領域への進出
- 買収対象: RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAI(人工知能)技術を活用した業務効率化ツールを提供する企業(例:BizteX、ヘッドウォータース)
- シナジー: 新規事業の創出、技術力強化、kintone連携サービスとの連携による新たな価値提供
対象企業になるM&Aや資本業務提携のアイデア
1. 大手IT企業との連携
- 提携相手: NTTデータ、富士通、NECなどのSIer
- シナジー: 大企業向けビジネスの販路拡大、システムインテグレーション案件への参画、技術力強化
2. 海外展開の加速
- 提携相手: 海外でkintone事業を展開する企業、海外のクラウドサービスプロバイダー
- シナジー: 海外市場への進出、kintone連携サービスのローカライズ、海外顧客基盤の獲得
3. 事業領域の拡大
- 提携相手: SaaS企業、セキュリティ企業、コンサルティングファームなど
- シナジー: 新規事業の創出、技術力強化、経営ノウハウ獲得、事業領域の拡大によるリスク分散
まとめ
この記事では、トヨクモの決算説明資料を基に、同社の事業内容や成長戦略を解説しました。
トヨクモは、kintone連携サービスのリーディングカンパニーとして、今後も成長が期待される企業です。
今回の決算説明資料からは、同社の今後の成長戦略やM&Aの可能性について、多くの示唆を得ることができました。
この記事が、トヨクモへの理解を深める一助となれば幸いです。