この記事では、日本M&Aセンターホールディングス(日本M&AセンターHD)の2024年3月期通期決算説明資料を基に、同社の概要を詳細に解説します。M&A仲介業界で優位な地位を築いている同社のビジネスモデルや強み、成長戦略などを知ることで、M&A市場のトレンドや今後の展望を理解することができます。
概要
日本M&AセンターHDは、2024年3月期に過去最高の成約件数を達成し、増収増益を達成しました。M&A仲介事業で圧倒的な地位を確立しており、その強みは「M&A市場のプラットフォーム」というビジネスモデルと、質の高いサービスにあります。
積極的な成長戦略を展開しており、特にダイレクトマーケティング戦略は、セミナーやオンラインセミナーを活用し、新規顧客獲得に貢献しています。また、地方創生プロジェクトにも積極的に取り組み、地方銀行との合弁会社設立や地方拠点開設を通じて、地域経済の活性化に貢献しています。
会社概要
日本M&AセンターHDは、1991年に設立されたM&A仲介事業を主軸とする企業です。2021年10月に持株会社体制に移行し、グループ会社の経営管理を行っています。東京本社に加え、国内に6つの拠点、海外にはシンガポール、インドネシア、ベトナム、マレーシア、タイに拠点を持ち、グローバルに事業を展開しています。
2024年3月末時点の従業員数は1,043人で、そのうち645人がコンサルタント職に従事しています。M&A仲介事業では、累計9,000件を超える成約実績を誇り、業界No.1の地位を確立しています。
対象企業が所属する市場の概要と競合状況
日本M&AセンターHDが所属するM&A仲介市場は、中小企業の事業承継問題や後継者不足を背景に、年々成長しています。特に、中小企業のM&Aは、地域経済の活性化や雇用維持の観点からも注目されており、今後も高い成長が見込まれています。
市場環境
- 事業承継問題の深刻化: 主な顧客層は、中小企業の経営者やオーナーです。特に、後継者不在問題を抱える企業や、事業拡大・多角化を目指す企業からの需要が高い傾向にあります。
- コロナ禍の影響: 新型コロナウイルスの感染拡大は、事業継続が困難になる企業を増加させ、M&Aを検討する企業が増えました。
- M&Aに対する意識の変化: 従来はネガティブなイメージを持たれがちだったM&Aですが、事業承継や成長戦略の有効な手段として認識されるようになってきています。
- 政府の支援策: 政府は中小企業の事業承継を促進するため、M&Aに関する税制優遇や補助金制度を導入し、M&A市場の活性化を後押ししています。
これらの要因が複合的に作用し、中堅・中小企業のM&A市場は、今後も活発な取引が継続すると予想されます。
市場規模
- 中小企業(売上高1億円超)を対象とした国内M&Aポテンシャル市場規模は13.5兆円と推計されています。
- この市場規模は、中小企業経営実態調査(R4確報)に基づき、矢野経済研究所が加工集計したデータから算出されています。
- 社長年齢60歳以上の企業は事業承継型M&A中心、社長年齢60歳未満の企業は非事業承継型M&A中心と仮定し、それぞれのM&Aポテンシャル企業数を推計しています。
- さらに、日本M&Aセンターの過去実績から、売上高規模区分別の平均成功報酬額を算出し、M&Aポテンシャル企業数を乗じて、市場規模を算出しています。
- 事業承継型の中小企業M&Aの潜在需要は、2035年をピークに9万社台の高い水準をキープすると見込まれています。
- この潜在需要は、親族内承継や役員・従業員への内部承継、廃業・清算企業を除いた数字です。
- 売上高1億円超、社長年齢60歳代以上の企業を対象に推計されています。
競合状況
主な競合企業としては、以下のような企業が挙げられます。
- M&A総合研究所: M&Aマッチングプラットフォーム「M&A市場SMART」を運営。オンライン上で買い手・売り手企業のマッチングを支援。
- M&Aキャピタルパートナーズ: 中堅・中小企業M&Aに強みを持つ独立系M&A仲介会社。
- ストライク: 中小企業M&Aに特化した独立系M&A仲介会社。ITを活用した独自のマッチングシステムが特徴。
- FUNDBOOK: M&Aマッチングプラットフォームを運営。オンライン上で買い手・売り手企業のマッチングを支援。
これらの競合企業に加え、銀行や証券会社、会計事務所などの金融機関系M&A仲介会社も存在します。
事業概要
日本M&AセンターHDの事業概要は以下の通りです。
M&A仲介事業
M&A仲介事業は、日本M&AセンターHDの中核事業です。会計事務所、地方銀行、信用金庫など、全国に1,021ヶ所(2024年3月末時点)の地域M&Aセンターと連携し、売り手企業と買い手企業のマッチングを行います。また、M&Aに関するコンサルティングやPMI(M&A後の統合プロセス)支援も提供しています。
TOKYO PRO Market(TPM)上場支援事業
TOKYO PRO Market(TPM)は、東証が運営するプロ投資家向けの株式市場で、一般的な市場よりも柔軟な上場基準が特徴です。日本M&AセンターHDは、TPM上場を目指す企業に対して、上場準備から上場後のサポートまで、総合的な支援を提供しています。
ファンド事業
日本M&AセンターHDは、グループ会社を通じてファンド事業にも取り組んでいます。日本投資ファンド、サーチファンド・ジャパン、日本プライベートエクイティなど、複数のファンドを運営し、企業の成長戦略を支援しています。
その他関連事業
M&A仲介事業に加えて、M&Aに関する様々なサービスを提供しています。
- オンラインM&Aプラットフォーム: バトンズが運営するオンラインM&Aプラットフォームは、小規模M&Aの活性化に貢献しています。
- 企業評価: M&Aにおける企業価値の算定を行います。
- 事業承継・成長戦略コンサルティング: 事業承継や成長戦略に関するコンサルティングを提供します。
- PMI(Post Merger Integration): M&A後の統合プロセスを支援します。
- 譲渡オーナーサポート: M&A後の譲渡オーナーの生活設計や資産運用などをサポートします。
- 市場調査: M&A市場の動向や業界情報を調査・分析します。
経営戦略
日本M&AセンターHDは、2028年3月期に経常利益305億円を目指すという中期経営目標を掲げており、その達成に向けた経営戦略は、以下の柱で構成されています。
1.成長のための戦略投資
成長のための戦略投資は、以下の4つの分野に重点を置いています。
- ダイレクトマーケティング戦略: セミナーやオンラインセミナー、DMなどを活用し、顧客との直接的な接点を増やすことで、新規顧客獲得を目指しています。2024年3月期には、すでに約60回のセミナーを企画し、総申込人数は約14,000名に達しています。
- 人材投資: コンサルタント職の採用を強化し、2025年3月期には新卒を含め120名の純増を計画しています。また、階層別研修制度の拡充や多様なキャリアパスの提供を通じて、社員の育成にも力を入れています。
- DX投資: SalesforceやAIを活用した商談解析サービス、企業評価算定システムなどへの投資を継続し、生産性向上とリードタイム短縮を目指しています。
- 事業投資: 海外事業やファンド事業など、新たな収益基盤の確保に向けて投資を行っています。
特に、海外事業においては、2024年3月期に通期で14組の海外企業関連M&Aが成約しました。また、ASEAN地域5拠点に加えて、韓国のM&A仲介会社に出資し、東アジアでの営業体制を強化しています。
2.生産性向上とリードタイム短縮
生産性向上とリードタイム短縮に向けた取り組みとしては、主に以下の2つが挙げられます。
- DXの活用: SalesforceなどのITツールを活用し、業務効率化と生産性向上を図っています。また、AIを活用したマッチングシステムの開発にも取り組んでいます。
- 人材育成: 階層別研修制度の拡充や、360度評価、役員との1on1面談などの取り組みを通じて、社員のスキルアップを図り、生産性向上を目指しています。
これらの戦略を通じて、日本M&AセンターHDは、中堅・中小企業M&A市場におけるリーディングカンパニーとしての地位をさらに強固なものにし、持続的な成長を目指しています。
財務概要
損益計算書(PL)
2024年3月期の連結業績は、売上高441億3,600万円(前年比6.8%増)、経常利益165億1,800万円(前年比6.8%増)と増収増益を達成しました。
売上高の内訳を見ると、M&A売上高が427億8,800万円と全体の96.9%を占めており、M&A仲介事業が収益の柱となっています。
売上原価は195億円(前年比9.5%増)で、そのうち案件紹介料・外注費が60億4,300万円(前年比17.9%増)と大きく増加しています。これは、ネットワーク経由の成約案件数が増加したことが要因です。販管費は85億6,900万円(前年比4.3%増)と、コストの最適化策が功を奏し、予算内に抑制されています。
2025年3月期の連結業績予想は、売上高489億円(前年比10.8%増)、経常利益170億円(前年比2.9%増)と、さらなる増収増益を見込んでいます。ただし、戦略投資を積極的に行うため、経常利益率は34.8%と、前期実績の37.4%から低下する見込みです。
貸借対照表(BS)
2024年3月期末の総資産は586億4,000万円で、流動資産が423億8,600万円(72.3%)、固定資産が162億5,400万円(27.7%)となっています。流動資産のうち、現金及び預金は374億3,900万円と、全体の63.8%を占めています。負債総額は146億6,600万円で、自己資本比率は75.0%と、健全な財務状況を維持しています。
まとめ
日本M&AセンターHDは、M&A仲介事業を主軸に安定した収益を上げており、健全な財務状況を維持しています。積極的な成長戦略を推進するため、2025年3月期は一時的に経常利益率が低下する見込みですが、中長期的な成長に向けて投資を継続していく方針です。
クロスSWOT分析
強み(Strengths)
- 圧倒的な成約実績と知名度: 中堅・中小企業M&A仲介業界でトップクラスの実績を持ち、高い知名度を誇っています。
- 質の高いサービス: 弁護士、公認会計士、税理士などの専門家を抱え、M&Aに関するあらゆるニーズに対応できる体制を構築しています。
- 「M&A市場のプラットフォーム」: 会計事務所、地方銀行、信用金庫など、広範なネットワークを活かした独自のビジネスモデルを展開しています。
弱み(Weaknesses)
- 人材育成: 優秀な人材の確保と育成が課題となっています。
- M&A単価の低下: 中小企業M&A市場の競争激化により、M&A単価が低下する可能性があります。
- 海外事業の拡大: 海外事業の拡大には、現地の法制度や商慣習への対応など、様々な課題があります。
機会(Opportunities)
- 中小企業の事業承継問題: 中小企業の事業承継問題が深刻化しており、M&Aのニーズは今後も高まると予想されます。
- 高齢化と後継者不足: 経営者の高齢化と後継者不足が深刻化しており、M&Aによる事業承継の重要性が高まっています。
- DXの推進: デジタル技術を活用したM&Aプラットフォームの構築により、業務効率化や新たなサービス提供が可能になります。
脅威(Threats)
- 競合の参入: 大手金融機関やコンサルティングファームなどがM&A仲介市場に参入し、競争が激化する可能性があります。
- 法規制の強化: M&Aに関する法規制が強化されることで、事業環境が変化する可能性があります。
- 景気変動: 景気変動により、M&A市場が縮小する可能性があります。
当該企業との考えられるシナジー
日本M&AセンターHDとのシナジーは、以下のようなものが考えられます。
- 事業承継: 後継者不足に悩む企業は、日本M&AセンターHDのM&A仲介サービスを通じて、事業を円滑に承継することができます。
- 成長戦略: M&Aを通じて、新たな事業領域への進出や、企業規模の拡大を図ることができます。
- 経営課題の解決: 経営課題を抱える企業は、日本M&AセンターHDのコンサルティングサービスを通じて、課題解決の糸口を見つけることができます。
考えられるM&Aや資本業務提携のアイデア
買収企業になるケース
資料では、M&A総合企業を目指し、周辺事業をグループ会社化していることが読み取れます。このことから、M&A仲介事業とのシナジーが見込める企業を買収する可能性が考えられます。
- 事業承継に強みを持つ税理士法人: M&A仲介事業との連携を強化し、顧客基盤を拡大するため、事業承継に強みを持つ税理士法人を買収する可能性があります。
- 海外M&A仲介会社: 海外展開を加速するため、アジア地域で実績のあるM&A仲介会社を買収し、海外ネットワークを強化する可能性があります。
- スタートアップ企業: テクノロジーを活用したM&Aプラットフォームを開発しているスタートアップ企業を買収することで、DX戦略を加速させ、競争優位性を高めることができます。
- 人材紹介会社: 優秀な人材の獲得競争が激化する中、M&A分野に特化した人材紹介会社を買収することで、専門性の高い人材を確保し、事業成長を加速させることができます。
具体的な企業としては、事業承継に強みを持つ税理士法人山田&パートナーズや、東南アジアでM&A仲介事業を展開するREAPRA、AIを活用したM&Aマッチングプラットフォームを開発するFUNDBOOKなどが考えられます。
対象企業になるケース
資料では、日本M&Aセンターが国内外で高い知名度と実績を誇るM&A仲介会社であることがわかります。このことから、より規模の大きい企業や海外企業が、日本市場への進出や事業拡大を目的として、日本M&Aセンターを買収する可能性が考えられます。
- 大手証券会社: M&Aアドバイザリーサービスを強化したい大手証券会社が、日本M&Aセンターの顧客基盤やノウハウを獲得するために買収を検討するかもしれません。
- 事業会社: 新規事業への進出や既存事業の強化を目的として、M&Aを積極的に活用する事業会社が、日本M&Aセンターの専門性に着目し、買収を検討するかもしれません。
- プライベート・エクイティ・ファンド: 日本M&Aセンターの成長性や収益性に魅力を感じたプライベート・エクイティ・ファンドが、投資目的で買収を検討するかもしれません。
日本M&Aセンターは、M&A仲介事業で圧倒的な地位を築いていますが、市場環境の変化や競合の動向によっては、買収企業あるいは対象企業となる可能性も十分に考えられます。今後の動向に注目していく必要があるでしょう。
まとめ
日本M&AセンターHDは、M&A仲介業界のリーディングカンパニーとして、確固たる地位を築いています。「M&A市場のプラットフォーム」というビジネスモデルと、質の高いサービスが強みであり、積極的な成長戦略を展開しています。
今後の日本M&AセンターHDの動向は、M&A市場全体のトレンドを左右する可能性があるため、引き続き注目していく必要があります。