この記事では、2024年7月2日に大黒屋ホールディングス株式会社の連結子会社である株式会社大黒屋が発表した中期経営計画(2025年~2029年)の内容を解説します。

大黒屋は、中古ブランド品売買事業と質事業を軸に、独自のAI技術とデータ分析を駆使して、顧客体験を向上させながら循環型社会の実現を目指しています。

最も注目すべきポイントは、AIを活用した即時査定システムをあらゆる企業に提供し、買取サービスを通じて購買資金を提供することで、SDGs・循環型社会の推進を強化するという点です。

大黒屋の描く未来は、単なる中古ブランド品売買にとどまらず、AIとデータ分析を駆使し、顧客体験を向上させながら、循環型社会の実現と日本経済の活性化に貢献するという壮大なビジョンを掲げています。この記事を通して、大黒屋の戦略を深く理解し、今後の事業展開に注目してみましょう。

会社概要

大黒屋ホールディングス株式会社は、東証スタンダード市場に上場している企業であり、中古ブランド品売買事業と質事業を主な事業としています。

2024年3月期の売上高は106億7,100万円で、中古ブランド品売買事業が全体の91%を占めています。

対象企業が所属する市場の概要と競合状況

中古ブランド品市場は、2030年には4兆円規模に達すると予想されており、今後も成長が見込まれています。

特に、円安の進行や環境・社会への配慮が高まる消費者の意識変化は、市場拡大の追い風となっています。

しかし、競合他社も積極的な出店や買取サービスの強化を進めており、競争は激化しています。

事業概要

大黒屋は、個人および法人から中古ブランド品を買い取り、個人および法人へ販売する中古ブランド品売買事業を主力事業(売上構成比91%)としています。

買取

買取は、個人買取と法人買取の2つのチャネルがあります。個人買取は、店頭買取、提携買取、宅配買取、出張買取といった方法で行われます。法人買取は、オークションや業者からの買取を行います。個人買取が全体の86%を占めており、店舗数に依存する傾向があります。一方、法人買取は年間約60億円程度の買取を見込んでいます。

販売

販売も、個人販売と法人販売の2つのチャネルがあります。個人販売は、店舗販売とWeb販売で行われます。法人販売は、オークションや業者への販売を行います。法人販売は全体の73%を占めており、個人販売と異なり、上限なく販売できる可能性があります。

その他事業

中古ブランド品売買事業に加えて、大黒屋は質事業も展開しています。これは、担保商品を元に貸し付けを行う事業で、全体の売上構成比9%を占めています。

今後の展望

大黒屋は、AIを活用した即時査定システムを導入し、顧客の利便性を向上させることで、買取件数を増やす計画です。また、このシステムを他社にも提供することで、新たな収益源を確保することも目指しています。

中期経営計画では、2029年3月期には売上高874億2,100万円、営業利益110億4,900万円を目指しています。これは、自社店舗の出店および他社との提携を軌道に乗せることで、実現可能な数値としています。

経営戦略

大黒屋は、2025年3月期から2029年3月期までの5年間を対象とした中期経営計画において、以下の3つの成長戦略を掲げています。

  1. 買取強化
    • AI査定システムの他社提供: 大黒屋が開発したAIによる即時査定システムを、顧客基盤や実店舗を持つ様々な企業に提供します。これにより、提携企業は自社の顧客に買取サービスを提供できるようになり、SDGsや循環型社会の推進に貢献できます。
    • 査定対象品の拡大: AI査定の対象品目を、ブランド品だけでなく、不動産や自動車、貴金属などにも拡大することで、買取サービスの利用機会を増やします。
    • 買取チャネルの多角化: 提携企業との連携を強化し、実店舗だけでなく、オンライン上でも買取サービスを提供できるようにすることで、顧客の利便性を向上させます。
  2. 顧客体験の向上
    • 下取りサービスの拡充: 新しい商品を購入する際に、古い商品を下取りに出すことで、顧客の負担を軽減し、購買意欲を高めます。
    • オンライン・オフラインの連携強化: 実店舗とオンラインストアの連携を強化し、顧客がいつでもどこでも商品を売買できるようにします。
    • 新たなショッピング体験の創出: AIを活用したチャットボットによる査定や、AR技術を活用した試着体験など、革新的なサービスを開発し、顧客に新たなショッピング体験を提供します。
  3. データ連携の強化
    • 顧客・商品データの活用: 過去の買取データや顧客情報、商品情報を分析し、顧客一人ひとりに合わせた最適な商品提案やマーケティング施策を実施します。
    • パートナー企業へのデータ提供: 提携企業に対して、顧客データや商品データを提供することで、新たなビジネスチャンスを創出し、win-winの関係を構築します。

これらの戦略を通じて、大黒屋は中古ブランド品市場におけるリーディングカンパニーとしての地位を確立し、循環型社会の実現と日本経済の活性化に貢献することを目指しています。

財務概要

大黒屋は2024年3月期に106億7,100万円の売上高を計上しました。

しかし、資料によると当期純利益は-4億5,200万円と赤字となっています。

2025年3月期以降は、自社店舗の出店および他社との提携を軌道に乗せることで、大幅な成長を見込んでいます。

2029年3月期には売上高874億2,100万円、営業利益110億4,900万円を目指しています。

事業計画

大黒屋は中期経営計画において、以下の事業計画を掲げています。

  1. 新規出店: 競合が進出しているが当社未進出の政令指定都市及び中核都市を中心に、買取専門店を出店し、個人仕入れの拡大を図ります。2025年3月期から2029年3月期までの5年間で、買取専門店を132店舗、買取販売店を11店舗出店する計画です。
  2. 買取サービス機能の提供: AI査定システムを顧客基盤や実店舗を持つ企業に提供し、各提携企業の顧客に対して買取サービスを通じて購買資金を提供します。これにより、SDGs・循環型社会の推進を強化するとともに、提携企業のGMV増加にも貢献します。
  3. データ連携の強化: 過去の買取データ、KYC(本人確認)データ・行動データの情報基盤に基づき、パートナー企業に対して、顧客・商品クラス別のリコメンデーション・リターゲティング・キュレーションを提供します。

これらの施策を通じて、大黒屋は中古ブランド品市場におけるリーディングカンパニーとしての地位を確立し、循環型社会の実現と日本経済の活性化に貢献することを目指しています。

クロスSWOT分析

強み

  • 7年間にわたり蓄積した約50万点の商品画像+属性データ
  • データサイエンティストと現場の査定技術者のコラボレーションによる高精度な画像認識AI
  • 質屋としての歴史とブランド力

弱み

  • 競合他社と比較して店舗数が少ない
  • 買取サービスの認知度が低い

機会

  • 中古ブランド品市場の成長
  • 円安の進行
  • 環境・社会への配慮の高まり

脅威

  • 競合他社の積極的な出店や買取サービスの強化
  • 新規参入企業の増加
  • 海外情勢の急激な変化

当該企業との考えられるシナジー

大黒屋とのシナジーは、以下の点が考えられます。

  • 顧客基盤の拡大: 大黒屋の顧客基盤を活用し、自社製品・サービスの販売促進につなげることができる
  • データ活用の促進: 大黒屋の持つ豊富な顧客データや商品データを活用し、自社製品・サービスの開発や改善に役立てることができる
  • SDGsへの貢献: 大黒屋との連携を通じて、循環型社会の実現に貢献できる

計画の蓋然性

中期経営計画では、2025年3月期から2029年3月期にかけて、売上高が約8倍、営業利益は約50倍に成長すると見込んでいます。特に2025年3月期と2026年3月期の成長率はそれぞれ46.8%、69.3%と非常に高い数値を計画しています。

売上高は874億2,100万円、営業利益は110億4,900万円を目指しており、これは2024年3月期と比較してそれぞれ約8倍、約50倍の成長となります。

これだけの成長率を達成できるかは不確実性が高いと言えます。競合他社も店舗数を拡大しており、競争は激化しています。また、AI査定システムの導入や他社との提携が計画通りに進まない可能性もあります。

通常、このような大幅な事業拡大においては、運転資金の増加が想定されます。運転資金は、日々の事業活動を円滑に進めるために必要な資金であり、売掛金、在庫、現金などが含まれます。

しかし、資料で示されている資産の増加は、2024年3月期の148億6,700万円から2029年3月期には327億4,400万円と、約2.2倍の増加にとどまっています。

この資産の増加額は、主に新規出店による固定資産の増加と考えられますが、大幅な売上高の増加に見合う運転資金の増加が見られないことは、疑問が残ります

考えられる理由としては、以下の点が挙げられます。

  1. 運転資金の効率的な運用: 大黒屋は、在庫回転率の向上や売掛金の回収期間の短縮など、運転資金の効率的な運用に注力している可能性があります。これにより、売上高の増加に対して、運転資金の増加を抑えることができると考えられます。
  2. 資金調達方法: 大黒屋は、事業拡大に必要な資金を、自己資金だけでなく、外部からの資金調達(借入金や増資など)によって賄う可能性があります。これにより、自己資金である資産の増加を抑えながら、事業を拡大できると考えられます。
  3. 計画の不確実性: 中期経営計画はあくまで計画であり、必ずしも計画通りに事業が進むとは限りません。そのため、運転資金の増加についても、計画よりも少なくなる可能性があります。

しかし、大黒屋が大幅な事業拡大を計画しているにもかかわらず、資産の増加が比較的緩やかであることは、注目すべき点です。

今後の資金調達や運転資金の管理状況について、注意深く見守る必要があります。

まとめ

大黒屋は、AIとデータ分析を駆使した中古ブランド品売買事業と質事業を通じて、循環型社会の実現と日本経済の活性化に貢献することを目指しています。中期経営計画では、積極的な事業拡大と顧客体験の向上を掲げており、今後の成長が期待されます。

しかし、競争激化や海外情勢の変化など、乗り越えるべき課題も存在します。大黒屋がこれらの課題を克服し、持続的な成長を遂げることができるのか、今後の動向に注目です。