Cash EPS (Cash Earnings Per Share) は、企業の財務健全性および収益力を評価する上で重要な指標の一つです。これは、企業の1株当たりキャッシュフローを表し、日本語では「1株当たりキャッシュ利益」と称されます。

Cash EPS の算出

Cash EPS は、以下の考え方や計算式を用いて算出されます。

Cash EPS = 1株当たりのれん償却前当期純利益
あるいは
Cash EPS = 営業キャッシュ・フロー / 発行済株式総数

Cash EPS の意義

Cash EPS は、企業の1株当たりキャッシュ創出能力を定量化し、その収益性と持続可能性を評価する上で有用な情報を提供します。高い Cash EPS は、企業が安定的なキャッシュフローを創出し、財務的に健全であることを示唆します。

Cash EPS と EPS の相違点

Cash EPS は、企業のキャッシュフローに着目した指標であるのに対し、EPS (Earnings Per Share) は、純利益に着目した指標です。EPS は会計上の利益であり、実際のキャッシュフローとは乖離する場合があります。

Cash EPSのM&Aにおける活用シーン

  1. 買収価格の妥当性評価:
    • 買収対象企業のCash EPSを分析することで、その企業のキャッシュフロー創出能力を把握し、買収価格が妥当かどうかを判断する材料とします。
    • 買収後のシナジー効果によってCash EPSが向上する見込みがあるかどうかも重要な検討要素となります。
  2. 買収後の統合効果の予測:
    • 買収後の統合シナジーによって、Cash EPSがどのように変化するかを予測します。
    • 例えば、コスト削減や事業の統合による効率化によってCash EPSが向上する可能性がある一方で、買収に伴う負債の増加や統合コストによってCash EPSが低下する可能性もあります。
  3. 買収後の株主価値への影響分析:
    • 買収後のCash EPSの変化は、株主価値に直接影響を及ぼします。
    • Cash EPSの向上は、株主への配当増加や自社株買いなどを通じて株主還元を強化できる可能性を示唆し、株価の上昇につながる可能性があります。
    • 一方、Cash EPSの低下は、株主価値の毀損につながる可能性があります。
  4. 具体的な事例:
    • A社がB社を買収する場合: A社は、B社のCash EPSが業界平均を上回っていること、買収後のシナジー効果によってCash EPSがさらに向上する見込みがあることを評価し、買収価格を決定しました。買収後、A社は統合効果を実現し、Cash EPSを向上させることで、株主価値を高めました。
    • C社がD社を買収する場合: C社は、D社のCash EPSが低いものの、事業再編によってCash EPSを大幅に改善できる可能性があると判断し、買収を決定しました。買収後、C社はD社の事業構造改革を行い、Cash EPSを向上させることに成功しました。

Cash EPS の留意点

1. 算出方法の多様性:

Cash EPSの算出方法は企業や会計基準によって異なる場合があります。例えば、営業キャッシュフローの定義や調整項目、発行済株式数の算定方法などが異なることがあります。そのため、異なる企業のCash EPSを比較する際には、算出方法の統一性を確認することが重要です。

2. 非GAAP指標であること:

Cash EPSは一般的に認められた会計原則(GAAP)に基づく指標ではありません。企業が独自の判断で調整を加えている可能性があるため、その内容を注意深く確認する必要があります。

3. 一時点の指標であること:

Cash EPSは特定時点のキャッシュフロー状況を表す指標であり、将来のキャッシュフローを保証するものではありません。企業の事業環境や市場動向の変化によって、Cash EPSは大きく変動する可能性があります。

4. 他の指標との併用:

Cash EPSはM&Aにおける企業価値評価の一つの指標に過ぎません。他の財務指標(PER、PBR、ROEなど)や定性的な要素(事業内容、競争環境、経営陣の能力など)も総合的に考慮する必要があります。

5. 将来予測の不確実性:

M&AにおけるCash EPSの活用は、将来のキャッシュフロー予測に基づいています。しかし、将来予測には常に不確実性が伴います。シナリオ分析や感度分析などを活用して、様々な可能性を検討することが重要です。