- 東南アジア市場の巨大ポテンシャルを理解する
- 東南アジア越境ECの二大巨頭「Shopee」「Lazada」について知る
はじめに
日本の人口減少が続く中、多くのEC事業者が次の成長のフロンティアを海外に求めています。その中で、今まさに次の成長フロンティアとして「目覚め」の時を迎えているのがASEAN(東南アジア諸国連合)市場です。
一昔前まで、東南アジアのECはインフラや物流の課題から「難しい」とされてきました。しかし、この数年で状況は一変。技術革新と消費者の購買力向上により、ASEANは越境ECの次の主戦場として急速に浮上しています。この地域を攻略することは、日本のEC事業者にとって、持続的な成長を実現するための重要な一手となるでしょう。
本記事では、ASEAN市場の巨大なポテンシャルをデータで裏付け、成功に不可欠な二大ECプラットフォーム「Shopee」「Lazada」の活用法、ASEAN市場展開時に注意すべき法規制までの概要を解説します。
データで見る!東南アジア市場のポテンシャルと成長率
まず、ASEAN市場(東南アジア市場)ですが、今回の記事では、ASEAN諸国の中でも、現在成長中である、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシア、シンガポールの6カ国について見ていきます。
ASEAN市場(東南アジア市場)を構成する主要6カ国(インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシア、シンガポール)を合計すると、その人口は現在約6億人以上に達します。これは日本の約5倍という巨大な市場規模です。
そして、注目すべきは経済成長の面です。世界経済が停滞する中で、多くのASEAN諸国が5%前後の高いGDP成長率を維持しており、人々の可処分所得は着実に増加しています。特に若年層が厚く、消費意欲が旺盛であることが特徴です。
EC市場に目を向けると、その成長スピードは驚異的です。2025年までには3,000億ドル規模に達すると予測されており、この急成長の背景には、消費者のデジタル化が挙げられます。
特に注目すべき指標がスマートフォン保有率です。多くの国で70%〜90%と非常に高く、消費行動のほとんどがモバイル上で行われる「モバイルファースト」文化が根付いています。一方で、EC市場規模が急速に拡大しているとはいえ、EC化率はまだ発展途上の国が多く、逆に言えば「伸びしろ」が非常に大きい点が最大の魅力です。
越境ECの市場に関しても、ASEAN市場(東南アジア市場)を合計すると、230億円と、日本や韓国の市場に匹敵する大きさになります。これほどに、ASEAN市場(東南アジア市場)は成長してきているのです。
この高いスマホ普及率とEC化率の伸びしろこそが、今、日本の越境EC事業者がASEANに注目すべき決定的な理由です。
| 国・地域 | 日本 | 中国 | 台湾 | 韓国 | シンガポール | タイ | インドネシア | フィリピン | マレーシア | ベトナム | 東南アジア |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 人口(概算) | 12,330 | 143,300 | 2,392 | 5,178 | 602 | 7,180 | 27,750 | 11,730 | 3,431 | 9,886 | 60,579 |
| スマホ普及率 | 85.3% | 59.0% | 97.0% | 84.1% | 97.0% | 71.5% | 82.3% | 73.7% | 97.0% | 97.0% | – |
| EC市場(単位:十億ドル) | 252 | 1,985 | 23 | 146 | 9.9 | 28.7 | 73.6 | 24.9 | 15.9 | 21.9 | 174.9 |
| EC利用率 | 83.8% | 75.1% | 85.7% | 91.9% | 64.3% | 57.6% | 72.6% | 43.2% | 50.0% | 63.3% | – |
| 越境EC市場規模 | 22 | 172 | 2 | 22 | 4 | 3 | 6 | 3 | 3 | 4 | 23 |
| CAGR | 7.50% | 7.90% | 6.80% | 2.50% | 8.50% | 9.10% | 9.80% | 9.80% | 9.70% | 10.50% |
ASEAN越境ECの二大巨頭:ShopeeとLazadaを徹底活用する
ShopeeとLazadaの徹底比較
では、そんな東南アジアにどのように展開すると良いでしょうか。ASEAN市場を攻略する上で不可欠なのが、ShopeeとLazadaという二大ECプラットフォームです。両者はともに市場の覇権を争っていますが、その出自、強み、そして適した戦略には明確な違いがあります。
まず、展開国について、Shopeeはシンガポール発祥で、特にインドネシアや台湾で強い影響力を持ち、展開地域も多岐にわたります。一方、Lazadaは中国アリババグループ傘下であり、強固な物流インフラを持ち、特にタイやフィリピンで支持を集めています。Shopeeはエンゲージメントの高い若年層に強く、Lazadaはブランド志向の消費者や高単価商品との相性が良い傾向があります。若者向けのトレンド商品であればShopeeを、信頼性を重視したブランド商品であればLazadaを軸に戦略を構築することが成功への近道となります。
続いて、物流面ですが、両プラットフォームとも、日本のセラーが国境を越えた販売を容易にするため、物流面で手厚いサポートを提供しています。配送サービスはどちらも公式物流サービス(SLS/LGS)という名称で提供され、日本のセラーは国内倉庫に送るだけで国際物流の手間から解放されます。
また、売上金の海外送金・受け取りについては、ShopeeとLazadaともに、Payoneerなどに代表される専用の決済代行サービスを利用することが主流です。これにより、煩雑な外貨送金手続きや為替リスクを低減できます。
| サービス | 概要 | 展開国・地域 | 相性の良い商材・カテゴリ | 手数料 (目安) | 配送サービス | 日本口座での受取 | 現地口座(海外送金口座含む) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Shopee | 東南アジアおよび台湾で最大級のECモール | 台湾・東南アジア(シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン)等 | アパレル、コスメ、生活雑貨、ガジェット、ゲーム・ホビー用品 | 販売手数料(売上高の5-6%)、決済手数料(売上高の2-3%) | 公式の物流サービスであるSLS(Shopee Logistics Service)が利用でき、日本の出品者は、商品を国内の指定倉庫に発送するだけで、その後の国際配送、通関手続き、最終的な顧客への配送までをShopeeが代行してくれるので、簡単に発送が可能 | ❌ 原則不可 | ⭕ 必須 日本からの越境セラーは、売上金受け取りのためにPayoneerとの連携が必須とされている。Payoneerを経由し、日本の銀行口座へ日本円で出金する |
| Lazada | Alibabaグループが運営する、東南アジアの主要ECモール | 東南アジア(シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム) | ファッション、家電、美容用品、ベビー用品、生活雑貨 | 出店料(無料から)、販売手数料(売上高の3-5%)、決済手数料(売上高の2-3%) | Shopeeと同様に、Lazadaも独自の物流サービスLGSを提供しています。日本の指定倉庫に出品者が商品を配送すると、その後の国際配送、関税手続き、各国の現地配送をLazadaが代行 | ❌ 原則不可 | ⭕ 必須 日本からの越境セラーは、売上金受け取りのためにPayoneerとの連携が必須とされている。Payoneerを経由し、日本の銀行口座へ日本円で出金する |
ShopeeとLazadaの出店方法
次に、ShopeeとLazadaへの出店方法です。まず、出店登録は、日本の法人または個人事業主として、各プラットフォームのクロスボーダー部門に申請を行います。必要書類を提出すれば、比較的スムーズにアカウントを開設できます。
売上金を受け取るための銀行口座登録については、PayoneerやWorldFirstといったサードパーティの決済サービスを利用するのが一般的です。これらのサービスを通じて、各国の売上金を効率的に日本円の口座に振り込むことが可能になります。
最も大きな利点が、物流サービスです。両プラットフォームとも、公式物流サービス(SLS/LGS)を提供しています。この仕組みでは、日本のセラーは国内の指定倉庫に商品を発送するだけで、それ以降の国際輸送、通関手続き、そして現地でのラストワンマイル配送までをプラットフォームが一括で代行してくれます。これにより、これまで越境ECの最大の障壁だった物流の複雑さやコストが劇的に削減されます。
ShopeeとLazadaにおける日本語サポート体制と留意点
越境EC事業者が東南アジア市場へ参入する際、大きな懸念の一つとなるのが「言語の壁」ですが、ShopeeとLazadaの両プラットフォームは、日本のセラーを積極的に誘致するため、手厚い日本語サポート体制を構築しています。
プラットフォームとのコミュニケーションは日本語で可能
Shopeeは「Shopee Japan」、Lazadaは「Lazada Japan」という形で日本語対応の窓口を設けています。これにより、日本の事業者は、出店登録の手続き、ショップの初期設定、独自の物流サービス(SLS/LGS)の利用方法、売上金の海外送金方法、プラットフォームのルール変更など、ショップ運営全般について日本語で質問し、サポートを受けることが可能です。特にShopeeは、出店者向けのヘルプページや教育コンテンツも日本語で充実させており、越境EC初心者でも参入しやすい環境が整っています。
顧客対応は「英語」または「現地語」が必須
しかし、日本語サポートはあくまで「プラットフォームの運営サポート」に限られます。商品が売れた後、現地の購入者から寄せられる問い合わせやクレームといったカスタマーサポートに関しては、言語の壁が存在します。
原則として、台湾市場を除き、購入者とのやり取りは英語で行うことが求められます。また、タイやベトナムなどの英語を公用語としない国では、現地語での問い合わせが来ることも想定しなければなりません。Shopeeは現地語と英語の自動翻訳機能を提供し、セラーの負担軽減を図っていますが、商品の専門的な内容やデリケートなクレーム対応においては、自動翻訳に頼らず、正確な英語または現地語での対応が不可欠です。
したがって、日本の越境EC事業者は、出店前の言語障壁は低いものの、安定した運営と顧客満足度を確保するためには、英語対応が可能なリソースの確保、あるいは外部の多言語カスタマーサポート代行サービスの活用を戦略に組み込む必要があります。
東南アジア諸国の法規制と関税について理解する
次に、東南アジア諸国の法規制と関税について、見ていきましょう。東南アジア全体で見ると市場は非常に大きいですが、各国ごとに法規制が大きいことも事実です。東南アジアを狙う際は、東南アジア全体を市場として定めつつ、各国の規制対応を行い、まとめて展開できると非常に効率的です。
まず、下記の表に各国の法規制について、まとめました。表で示した通り、ASEAN主要6カ国は巨大なEC市場である一方、越境ECにおける規制と税制が多様かつ流動的である点が最大の特徴です。
VAT/GSTとLVG(低額貨物)課税の国際比較
ASEAN市場における最大の税制トレンドは、低額貨物(LVG)に対する課税強化です。これは、かつて「少額だから免税」だった越境EC取引の抜け穴を防ぐ目的で、各国が急速に導入しています。VATとは何かについては、別記事で説明しておりますので、参考にしてみてください。
シンガポールとマレーシアは、このLVG課税の先行事例です。シンガポールはVATにあたるGSTの標準税率が9%で、以前は400SGD以下の貨物が免税でしたが、現在はLVGにもGSTが課税されます(正、年間売上がS$10万(約1,100万円)超、かつ国外からの販売がS$100万(1.1億円)超の場合)。マレーシアも、標準税率(SST)とは別に、500リンギット(約1.8万円 ※2025年10月現在)以下のLVGに対して10%のLVG税を課しており、越境EC事業者はこれを徴収する必要があります。
インドネシアとタイも同様の動きを見せています。インドネシアはVAT率が11%と最も高く、VATのデミニミスは0 USD、すなわち事実上すべての貨物に課税される非常に厳しい体制です。タイもVAT率7%ですが、以前免税だった1,500バーツ(約0.7万円 ※2025年10月現在)以下の貨物へのVAT徴収を強化しています。ベトナム(VAT率10%)も低額貨物の免税措置を原則廃止する方向にあり、ASEANでは「少額取引でも課税される」という認識が不可欠です。
対照的に、フィリピンはVAT率12%と高いものの、デミニミス基準が10,000ペソ(約2.6万円 ※2025年10月現在)と高く設定されており、少額の越境EC取引においては比較的優位性があります。
関税(デミニミス)基準と免税活用のポイント
関税のデミニミス基準(免税)も各国で大きく異なります。フィリピン(10,000ペソ = 約2.6万円 ※2025年10月現在)やシンガポール(400 SGD = 約4.7万円 ※2025年10月現在)は基準が高く、ほとんどの越境EC取引で関税が発生しにくい環境です。特にシンガポールは、例外的な品目を除き99%が関税免除という、物流・手続きが最も簡素な国です。
一方で、インドネシア(3 USD)や、ベトナム(原則廃止)はデミニミス基準が極めて低く、非常に早い段階で関税が課税されます。インドネシアの場合、関税のデミニミスは3 USDですが、特定の低価格商品(バッグ、靴、繊維製品など)は、この額以下であっても商業貨物と同じ税率が適用される厳格さがあります。
関税負担を軽減するポイントとして、日本はASEAN各国とFTA(自由貿易協定)を締結しているため、タイやマレーシアなどでは原産地証明書を活用することで、関税を免除または軽減できる可能性があります。
特定カテゴリの規制とその他の重要な注意点
税制以外の最大のリスクは、特定カテゴリ商品に対する輸入規制です。特に人体の健康に関わる商品、すなわち化粧品、医薬品、健康食品は、インドネシア(BPOM)、タイ(FDA)、マレーシア(NPRA)など、現地の規制当局による事前認可・登録がほぼ必須であり、無許可販売は商品没収や罰則の対象となります。イスラム圏のインドネシアやマレーシアでは、食品や化粧品におけるハラール認証の有無も、消費者からの信頼を得る上で極めて重要です。
| 項目 | 🇮🇩 インドネシア | 🇹🇭 タイ | 🇻🇳 ベトナム | 🇵🇭 フィリピン | 🇲🇾 マレーシア | 🇸🇬 シンガポール |
|---|---|---|---|---|---|---|
| VAT/GST (標準税率) | 11% (VAT) | 7% (VAT) | 10% (VAT) | 12% (VAT) | SST適用(売上・サービス税。輸入LVGには**10%**のLVG税) | 9% (GST) |
| LVG(低額貨物)課税動向 | デミニミス0 USD(VAT)であり、すべての貨物に課税される。 | 以前免除だった1,500バーツ以下の貨物へのVAT徴収を導入・強化中。 | 以前免除だった低額貨物の免税措置を原則廃止する方向に動いている。 | デミニミス基準が10,000 ペソと高く、少額取引ではVAT発生が少ない。 | 500リンギット以下のLVGに10%のLVG税を導入済み。 | 以前免除だった400 SGD以下のLVGにもGSTを課税する制度に移行済み。 |
| 関税(デミニミス) | 3 USD | 1,500 バーツ | 原則廃止(免税措置が厳格化) | 10,000 ペソ | 500 リンギット | 400 SGD(ほとんどの品目が関税免除) |
ShopeeとLazadaでどのように法規制に対応できるか
これらの法規制リスクに対し、ShopeeとLazadaはセラーを保護する仕組みを提供しています。
- 出品規制への対応:
両プラットフォームは、出品する商品に対し、現地の法律に基づく「禁止・制限商品リスト」を設けています。越境EC事業者はこのリストを遵守することで、最低限の法的なリスクを回避できます。また、ハラール対応の有無や成分表を正確に現地語で記載することを求められるため、情報開示の徹底が重要です。
- 関税・税金への対応(DDPモデル):
最も強力な対策が、Shopee/Lazadaの公式物流サービス(SLS/LGS)が採用しているDDP (Delivered Duty Paid:関税込み支払い)モデルです。これは、原則として関税や消費税(VAT)を販売価格に含めて、プラットフォーム側が代行して徴収・納税する仕組みです。これにより、購入者が商品を受け取る際に予期せぬ税金を支払う手間がなくなり、カゴ落ち(カート放棄)や受取拒否のリスクを大幅に軽減できます。購入者が想定外の費用を支払わずに済むといったことにもつながるため、関税、VAT制度が複雑な東南アジア市場においては、DDPモデルへの準拠が必須に近い状態です。DDP制度については、別記事で詳しく述べていますので、参考にしてみてください。
まとめ
東南アジア市場は、もはや「将来有望な市場」ではなく、「今、最も成長しているポテンシャル市場」といえます。各国はそれぞれ異なる市場特性を持っていますが、巨大な人口、高いデジタルリテラシー、そして日本製品への揺るぎない信頼という共通の強みを持っています。
成功への第一歩は、越境ECモール型の恩恵を最大限に受けることです。ShopeeやLazadaの充実した越境EC支援体制を活用すれば、物流、決済、通関といった複雑なリスクを最小限に抑えながら、市場の感触を掴むテストマーケティングが可能です。
今後5,000億ドル規模へと拡大するであろうこの巨大な市場を先回して抑えるべく、今から準備を整えておけば、ASEAN市場の成長に乗り、ASEAN越境ECの成功を掴むことができるでしょう。

