- 関税と合わせて発生する越境ECにおける付加価値税・消費税について理解する
- 各国ごとにどのような規制があるか、概要を学ぶ
はじめに
越境EC事業者が直面する物流面における最大の課題が関税対応です。前の記事では、関税対策に関して、DDPとDAU(DDU)という方式を元にその対応を解説しました。その関税と合わせて、重要な課題が、販売先の国で課される「付加価値税(VAT)」や「消費税(GST)」への対応です。税制は国によって異なり、その支払い義務が消費者(DDU)にあるか、それともEC事業者(DDP)にあるか、国制度によって大きく異なります。そして、この対応が、越境ECにおける、展開国の選定、物流戦略、価格設定、そして顧客体験を大きく左右します。
本稿では、主要な越境EC市場における消費税・付加価値税の制度と、EC事業者に納税義務が発生した場合の具体的な対応策をお伝えします。関税対策に関して、DDPとDAU(DDU)に関しては下記をご参照ください。
越境ECにおいては、各国の規制は大きく変更することがありますので、本記事は参考にしつつ、最新情報は随時ご確認ください。本記事は2025年12月時点での情報をもとに作成しています。
国別付加価値税・消費税の制度と納税義務の所在
国際的な税制は近年、デジタル化と越境ECの拡大に対応するため、大きく変化しています。特に越境ECの拡大に伴い、EUやオーストラリアなどでは、小口貨物に対する免税枠を廃止し、越境EC事業者に直接、販売時点での税金徴収を義務付ける方向に進んでいます。
越境ECにおいて、付加価値税・消費税の納税義務が発生する主要国
以下の国・地域は、越境EC事業者が販売時に現地の付加価値税や消費税(VAT/GST)を徴収し、納税する制度を導入しています。越境EC事業者は購入時に消費者から付加価値税を受け取り、現地の制度に登録の上で、支払いをする必要があります。各制度については、次の章で説明するので、まずはどの国で、付加価値税・消費税の対応が必要なのかを見極め、自社の展開国が含まれているかを確認しましょう。
| 国・地域 | 税制名称 | 納税義務がEC事業者に発生する主な条件 |
|---|---|---|
| EU (欧州連合) | VAT (付加価値税) | IOSS制度利用時、または年間売上が€10,000超の場合(OSS)、事業者が支払い(IOSS番号取得が必要) |
| イギリス (UK) | VAT (付加価値税) | £135(約2.7万円 ※2025年10月時点)以下の輸入販売の場合、事業者が販売時に徴収し、HMRC(税関)に納税 |
| オーストラリア | GST (物品・サービス税) | 年間売上がA$75,000(約730万円 ※2025年10月時点)超の場合、事業者が徴収し、ATO(税務署)に納税 |
| 韓国 | VAT (付加価値税) | ₩15万ウォン(約1.5万円)超の場合、購入者に支払い義務があり、越境ECを利用する消費者は現地のシステムに登録が必要。 |
| シンガポール | GST (物品・サービス税) | 年間売上がS$10万(約1,100万円)超、かつ国外からの販売がS$100万(1.1億円)超の場合(OVR制度) |
EU・イギリス・オーストラリアにおける事業者の納税義務とIOSS/OVR制度
EU、イギリス、オーストラリアは、越境ECに対する税制を世界に先駆けて厳格化し、EC事業者にVAT/GSTの徴収・納税を義務付けた代表的な国々です。これらの国に越境ECで商品を届ける際には、関税と合わせて、付加価値税・消費税を支払う必要があります。では、ここでは制度として、知っておきたい、EU、イギリス、オーストラリアの制度を見ていきましょう。
EU(欧州連合)のVATとIOSS(Import One-Stop Shop:輸入ワンストップショップ)/OSS制度
EUは2021年7月以降、越境ECに関するVAT制度を大幅に改正し、EU域外からEU域内へのB2C販売についても、越境EC事業者が消費税を支払う必要が生じました。具体的には、IOSSという制度があります。
IOSS(Import One-Stop Shop:輸入ワンストップショップ)制度とは
IOSSは、2021年7月1日に欧州連合(EU)で導入された、越境EC事業者のための輸入VAT(付加価値税)の申告・納税を簡素化する電子ポータルシステムです。この制度は、EU域外からEU域内の消費者へ販売される少額貨物(€150ユーロ以下の商品)に対するVATの徴収方法を根本的に変更し、顧客体験と通関手続きの効率化を図ることを目的としています。越境EC事業者は、IOSSに登録し、VAT(付加価値税)を販売時に徴収します。
それにより、通関時にVATの支払いが既に完了していることが示され、通関手続きが簡素化・迅速化されます。これにより、配送遅延のリスクが大幅に減少します。また、VATを販売価格に含めて決済するため、消費者は商品受け取り時に予期せぬ追加費用を支払う必要がなくなります。これは、越境ECにおける購入者の体験改善やカスタマーサポートの問い合わせを減らす上で非常に重要です。
IOSSへの登録は、現時点では義務ではありません。ただし、登録しない場合、商品はDDU扱いとなり、通関遅延や顧客満足度低下のリスクが高まります。現在、EUの購入者はIOSSに慣れているため、IOSSに登録していない越境EC事業者に対する不満は大きいと予想されます。それゆえ、EU市場で本格的にB2C展開するなら事実上必須の戦略と見なされています。
売上規模が大きくなった場合のOSS (One-Stop Shop)制度
IOSSはEUに月次で納税する制度ですが、さらにVAT(付加価値税)の納税を簡易化する方法として、OSS (One-Stop Shop)制度
という制度があります。EU全域での年間売上が€10,000ユーロを超えた際に、売上先の国のVAT率を適用してVATを徴収し、OSSを通じて四半期に一度、一括で納税します。これにより、支払い頻度が減り、税金の納税を簡素化できます。
これらの制度に登録する際、日本の越境EC事業者は、以下の手続きが必要になります。EU加盟国の一つで設立された税務仲介者(フィジカル・インターミディエーター)を任命し、仲介者を通じてIOSSの登録、申告、納税を代行してもらう必要があります。上記を代行してくれるパートナーを見つけることも、EU展開時には非常に重要になります。
2-2. イギリス(UK)のVAT制度
イギリスはEU離脱後、独自のVAT制度を確立しました。その仕組みはEUのIOSSと類似しています。
イギリスでは、£135ポンド(約2.7万円 ※2025年10月時点)以下の輸入販売について、越境EC事業者が販売時に現地のVATを徴収し、イギリス歳入関税庁(HMRC)に直接納税することが義務付けられています。越境EC事業者はHMRCにVAT登録を行い、VAT IDを取得する必要があります。
越境EC事業者は、HMRC(英国歳入関税庁)にVAT登録を行い、VAT登録番号(VAT ID)を取得しなければなりません。ECサイトのチェックアウト時に、商品のVAT率を正確に計算し、顧客から徴収します。徴収したVATを定期的にHMRCへ申告し、納税します。
イギリスにおいては、£135ポンド(約2.7万円 ※2025年10月時点)以上の販売については、VATの徴収義務は販売時点では発生しません。VATは輸入時に輸入VAT(付加価値税)として、原則として輸入者(多くの場合、購入者である英国の消費者)が負担します。
上記をまとめると、£135ポンド(約2.7万円 ※2025年10月時点)以下の場合はDDPモデルで越境EC事業者に徴収、納税義務があり、£135ポンド(約2.7万円 ※2025年10月時点)以上の場合には、DAP(DDU)モデルで輸入者に納税義務が生じるのです。
2-3. オーストラリアのGST制度(OVR:Offshore Vendor Registration)
オーストラリアは、GST(Goods and Services Tax:10%)の徴収をEC事業者に義務付けています。非居住者のEC事業者であっても、オーストラリア国内の年間売上がA$75,000豪ドル(約730万円 ※2025年10月時点)を超えた場合、オーストラリア税務署(ATO)にGST登録(OVR制度)を行い、販売時にGSTを徴収・納税する義務が発生します。それを超えない場合は、GSTの納税義務はありません。
オーストラリアで売上をA$75,000(約730万円 ※2025年10月時点)以上にあげたい場合は、このGST制度に登録し、納税をしていく必要があります。
アメリカとアジア主要国の税制と対策
では、アメリカとアジアの主要国での付加価値税・消費税の徴収はどのようになっているでしょうか。アメリカとアジアにおいては、徴収義務はまだ限定的またはDDU(購入者が支払い)が主流です。では、アメリカとアジアの税制度を見てみましょう。
アメリカの輸入関税と売上税(Sales Tax)
アメリカは連邦政府による一律のVAT/GSTがないです。一方で、消費税については、売上税(Sales Tax)として、州ごとに定められており、州によって税率が異なり、商品やサービスによって非課税となる場合があるなど、非常に複雑になっています。
越境EC事業者が現地に物理的な拠点を持たない場合でも、各州の税制度は適用され、納税義務があります。これを州ごとに対応しなければなりません。45州以上で売上税の徴収義務が発生する可能性があり、その管理は極めて複雑です。後述のShopifyなどのプラットフォーム機能や外部サービス(TaxJarなど)による自動計算・申告が必須となります。
中国・台湾・韓国のVAT(付加価値税)
では次に、アジア各国の税制度を見ていきましょう。香港は税金が存在しないため、今回は割愛します。
- 中国・台湾: 原則、少額免税枠(中国は免税無、台湾はNT$2,000程度)を超えると購入者に関税と増値税(VAT)が課されます。中国においては、別記事で述べたようにモール出店による越境EC展開が現実的ですが、その場合は、モール側が関税と増値税(VAT)の対応をしてくれるので、越境EC事業者側での対応は不要です。自社越境ECを展開する場合は、対応が必要になりますが、対応は複雑なため、ここでは割愛します。
- 韓国: 原則₩15万ウォン以下は免税となります。₩15万ウォンを超えた場合でも、超過分は購入者負担になります。韓国の大手プラットフォーム経由で販売する場合は、プラットフォームが徴収代行するケースが増えてきております。いずれにしても、越境EC事業者側での対応は現時点では不要となります。
シンガポールのGST制度(OVR:Offshore Vendor Registration)
シンガポールの消費税制度はGST(Goods and Services Tax、物品・サービス税)と呼ばれ、税率は9%です。シンガポールにも、OVR(Overseas Vendor Registration:海外ベンダー登録)制度という、EUのIOSS制度と同様に、小口の輸入貨物に対する税の公平性を確保し、徴税を簡素化する制度があり、空輸または郵送で輸入されるS$400シンガポールドル(約4.6万円 ※2025年10月現在)以下にもGSTが課税されるようになっています。
GSTの支払いが必要なのは下記の売上の企業であり、オーストラリアと近い制度となっています。
| 閾値の条件 | 内容 |
|---|---|
| (1) 年間グローバル売上高 | 過去12ヶ月間の全世界での年間売上高が S$100万(約1.1億円)シンガポールドルを超えていること。 |
| (2) シンガポール向けB2C供給額 | 過去12ヶ月間のシンガポール国内の消費者向けB2C販売額(デジタルサービスおよび低額物品)が S$10万(約1,100万円)シンガポールドルを超えていること。 |
OVR登録義務を負う事業者は、以下の取引について販売時にGST(9%)を徴収する必要があります。また、シンガポールでは、商品の価格によってGSTの処理が異なります。
| 商品の価値 | GSTの徴収者 | 貿易条件(実質) |
|---|---|---|
| S$400以下 (LVG) | OVR登録済みの越境EC事業者が販売時に徴収 | DDP(販売者徴収)が主流 |
| S$400超 | 輸入者(顧客)が輸入時に申告・納税 | DDU/DAP(購入者負担)が原則 |
つまり、越境ECで扱うことが多いS$400以下の低額物品については、上記OVRの閾値を超える事業者はDDP(販売者徴収)での対応が求められます。この措置により、シンガポールの消費者は低額の輸入商品についても追加費用なしで受け取れるようになり、顧客体験が向上します。OVR登録をした事業者は、GSTを販売時に徴収し、シンガポール内国歳入庁(Inland Revenue Authority of Singapore)に対して四半期に一度、オンラインでGST申告を行い、納税します。シンガポールはEUのような仲介業者(Fiscal Intermediary)の任命は原則不要であり、事業者が直接登録・申告を行うことができます。
これらの制度は、越境ECの拡大により、日々変化しており、常に制度に関しては確認しておく必要があります。
越境EC事業者のためのVAT/GST対策と効率的な支払い方法
納税義務が発生する国において、その複雑な税金を効率的かつコンプライアンスを遵守して処理する方法は、EC事業者の生命線です。ではどのように付加価値税・消費税を徴収していけば良いでしょうか。ここでは、越境ECで最もよく利用されるShopifyにおける付加価値税・消費税の対策及び、外部サービス活用に関してお伝えします。
越境ECにおいて、Shopifyを利用すると良い理由については、別記事で記載しておりますので、ぜひご覧ください。
Shopifyにおける付加価値税・消費税の対策
多くの越境EC事業者が利用するShopifyは、グローバルな税務要件に対応するための機能を内蔵しています。
(1) EU(IOSS)、イギリス、オーストラリアにおける税金設定機能の活用
Shopifyは、EU(IOSS)、イギリス、オーストラリアなどの主要な国や地域向けに、「配送先の国に基づいてVAT/GSTを自動で計算し、チェックアウト時に上乗せして徴収する」機能を備えています。徴収したVAT/GSTをレポートとして出力できるため、月次・四半期ごとの税務申告作業が簡素化されます。
ただし、この機能はVAT/GSTの「徴収」をサポートしますが、IOSSの登録や現地の税務当局への「申告・納税」自体を代行するわけではないため、別途、仲介者や税理士のサポートが必要になります。そのため、EU(IOSS)、イギリス、オーストラリア展開時には合わせて、仲介者や税理士などのパートナー選定が必要です。
(2) 米国売上税(Sales Tax)への対応
Shopifyは、アメリカの複雑な州ごとの売上税について、税率を自動計算してチェックアウト時に徴収する機能を有します。売上税の徴収(Collection)は簡単ですが、各州への申告・納税(Remittance)はShopify単体では複雑なため、多くの場合、次に述べるような専用のアプリや外部サービスと連携して自動化します。
外部サービス(税務ソフトウェア・仲介業者)の利用
納税義務が発生する複数の国で、自社で申告・納税を行うのは非効率的かつ高リスクです。専門の外部サービスを活用することが、最も安全で効率的な方法です。特にアメリカの複雑な売上税を支払う場合は、外部サービスが必須です。
(1) 税務ソフトウェア(例:TaxJar, Avalara)の利用
越境ECに特化した税務ソフトウェアサービスがたくさんあるので、そのサービスと個別契約をし、支払う方法です。特にアメリカの複雑な売上税の支払いが必要なため、納税を代行してくれる税務ソフトウェアは必須です。
これらのサービスを利用すると、世界中の最新の税率(国、州、地域、商品カテゴリ別)をECサイトに連携し、チェックアウト時に正確な税額を計算してくれます。そして、徴収した税金を自動で集計し、各国の税務当局へ月次または四半期ごとに自動で申告・納税まで代行します。そのため、複雑な税務規制を完全に自動化し、EC事業者は本業に集中できます。
税務ソフトウェアは複数あるため、自社がどの国に展開するかを見極め、必要な機能の備わったソフトウェアの選定が重要になります。
(2)IOSS仲介業者(Fiscal Intermediary)の任命
EUのIOSS制度を利用する際、EU域外の事業者は必ずEU域内の仲介業者を任命する必要があります。この仲介業者が、EC事業者の代理としてIOSSの登録、月次申告、VATの納税を行います。多くの場合、国際税務コンサルティング会社や、国際物流に強い会計事務所がこの仲介サービスを提供しています。これはEUでのDDPモデルを維持するための必須コストと考えるべきです。
(3) フルフィルメント・物流パートナーの活用
物流パートナー、3PL業者やフルフィルメントサービスの中には、DDP(関税・税金込み)での配送をパッケージとして提供している企業があります。これらの業者は、提携する通関業者や税務仲介者と連携し、EC事業者から徴収した税金を預かり、輸入通関時に支払い、その後、現地の税務当局に申告・納税するまでのフローを一括して担ってくれます。物流パートナー選定の際に、これらの機能をそなえたパートナーを選定することも重要な観点となります。
まとめ
越境ECのVAT/GST対応は、もはや「任意」ではなく「必須」のコンプライアンスとなっています。特にEU、イギリス、オーストラリアのような先進市場では、事業者自身がDDP戦略を採用し、IOSSやOVRなどの制度に則って販売時に税金を徴収する体制を整えることが、顧客の信頼を得て市場での競争力を維持するための絶対条件です。適切な税務ソフトウェアや専門の仲介者を活用することで、この複雑な課題を効率的にクリアし、グローバル市場での成長を加速させましょう。


