展開国選定の決定方法 6つの指標で失敗しない市場を見極める方法①

この記事で抑えておくべきポイント
  • どの国から展開すべきか、市場を選定するために重要になる6つのポイント
  • 海外市場で自社商品のニーズがどの程度顕在化しているかを知る方法
  • 自社商品の競争優位性をどのように構築するか

越境ECの最初の市場選定が「成否」を分ける

多くの企業が越境ECを始める際、どの国から始めますか。まず最初に思いつくのが、「人口が多い国」「イメージができるアジアの国々」「自社商品が人気な国」ではないでしょうか。上記の考え方は、ある意味正しい考え方だと感じています。一方で、始めると非常に大変な困難が多数待ち構えているのが越境EC。もっと成功確率をあげて、賢い意思決定をするためには何を基準に選定国を判断すれば良いでしょうか。

越境EC事業における市場選定は、事業の初期投資、マーケティングコスト、収益性、そして成功の可能性を大きく左右する、最も重要な意思決定です。本記事では、この市場選定を「勘」や「勢い」ではなく、客観的に行うための6つのヒントのうち最初に重要となる3つを解説します。

顧客ニーズの顕在化度合い(市場観点)

まず第一に見るべきは、はじめにでも述べた、最もイメージしやすい「人口が多い国」「自社商品が人気な国」など、どの程度市場ポテンシャルがあるかという軸になります。その中でも重視したいポイントが、「どの程度市場がすでに顕在化しているか」です。

市場がまだ未成熟で成長段階にある市場にチャレンジすることは、将来的な成長可能性も多く、非常にポテンシャルが高いチャレンジになります。一方で、国内ECと比べて、難易度が高いのが越境EC。その難易度の中で、顕在化していないポテンシャル市場を立ち上げるのは、非常に大きな努力と時間を要します。越境ECノウハウがついてきたら、そのような大きな判断をすることが経営意思決定上重要になりますが、最初のうちは、ゼロから顧客ニーズを創出するよりも、すでにその国に顧客ニーズが「あるか」を事前に見極め、市場選定することが重要です。

では具体的にどのように、顧客ニーズがその国で成熟しているかを見ると良いでしょうか。顧客ニーズが顕在化しているかを見極めるための具体的な指標は下記の通りです。

インバウンド需要

日本を訪れる観光客(インバウンド)が、自社商品をどれだけ購入しているか。を調査します。この調査は国内ででき、かつ幅広い国のデータが取得できるので、まず第一にインバウンド需要を確認し、ある程度対象国を絞り混むことができれば、その後の選定が楽になります。

その際にさらに行いたいのが、自社商品だけでなく、同一カテゴリの他社商品の需要も確認できると良いです。他社商品のニーズが高いカテゴリの場合、そのカテゴリの「Made in Japan」商品ニーズはすでに浸透している可能性があり、市場攻略の難易度は一段と下がります。実地でインバウンドの購買行動を観察したり、インバウンドへの街頭インタビュー等を通じて、市場把握できると良いでしょう。同じカテゴリ以外の商品でも、どのような日本商品が需要されているのかを知ることも重要なため、インバウンドに人気の土産物店や商業施設の売れ筋商品をチェックしたりすることで、現地での潜在的な需要を把握できます。

現地SNSの反応をチェック

次に、現地の消費者がSNS(Instagram、TikTok、REDbookなど)で日本の商品や自社ブランドについてどのように言及しているかを商品名やハッシュタグで検索して、口コミの量、紹介しているユーザー数(UGC数)を確認します。

日本国内からの調査でも、インスタグラムでハッシュタグで検索し、海外ユーザーの投稿らしき投稿を分析してみたり、また中国市場に関しては、日本国内からもREDbookへのアクセスは可能なため、REDbookで同様に調査してみることもおすすめです。

また、インスタグラムを運営している企業の場合、インスタグラムの「インサイト分析」から、自社アカウントに関して、どの国フォロワーが多いのか、どの国からのトラフィックが多いのかを確認することが可能です。簡単なテストマーケティングとしては、インスタグラム広告(meta広告)で、海外在住者向けの広告を出してみて、どの程度フォロワーが増えるのかを検証するような手段もあります。

国内競合他社の海外進出状況

併せて、同業他社がどの国に、どのような形で越境展開しているかを確認することも重要です。先行している成功事例があれば、その市場に一定のポテンシャルがあることの裏付けになります。また、競合の成功事例だけでなく、失敗事例も分析することで、自社の戦略を立てる上での貴重なヒントが得られます。競合他社の情報は収集が困難ですが、現地に詳しい専門家へのヒアリング等を通じて、収集できると成功角度を高めることができます。

上記のような視点から、まずは国内にいながらも市場の顕在化度合いを確認し、ニーズが確実に存在する国で絞りこんで、その中で、次の選択肢をみていくと良いでしょう。

2つ目の選定軸:商品の競争優位性(競合視点)

海外市場で成功するための次なる重要なポイントとして、現地の競合商品や同一カテゴリの商品価格に対し、明確な競争優位性があるかどうか。または価格を凌駕する付加価値が提供できるかです。消費者にとっても、越境ECでの買い物は国内の買い物に比べて、ストレスのかかるものです。それ故、越境ECで成功している商品の多くは、現地の消費者にとって付加価値がないと購入されません。その付加価値とは「ここでしか手に入らない(だから高くても良い)」「国内で買うより越境ECで購入した方が安い(価格優位性がある)」ことを指します。

自社商品に付加価値があるかを見極めるために、具体的には以下のポイントを確認していきます。

  • 品質・機能的優位性:現地の商品よりも、自社商品が品質や機能面で優れているかを1つ目の選定軸におけるSNS調査等で調べていきます。例えば、日本の化粧品は「安全性」や「きめ細かさ」といった点が海外から高い評価を得ているかを確認します。その中で、同一の品質・機能的優位性のある商品が現地でどの程度の価格で販売されているかを競合比較します。
  • 価格競争力:次に上記でリストアップした商品に対して、自社が越境販売する商品が、国際物流費や関税、現地の付加価値税を考慮しても、現地で流通している競合商品よりも安価な価格または機能的優位性を説明できる範囲での価格で提供できるか。を確認していきます。ECにおいて、成功する3つの秘訣は「価格が安いこと」「商品ラインナップが充実していること」「安全に購入ができること」の3つであると考えています。その中で、「価格が安いこと」は最大の武器になるため、綿密な調査が必要です。一方で、越境ECは運用工数もかかるものであるため、ブランドを立てていく場合は、安易な価格競争は避け、付加価値とのバランスを考えることが重要になります。
  • 「Made in Japan」「From Japan」の付加価値: さらなる付加価値としては、「Made in Japan」「From Japan」であること。そして、日本ならではのものづくりの「ストーリー」がその商品に宿っていること。は日本文化が深く浸透している国では、付加価値として捉えられることがあります。例えば、ヨーロッパでは「Japandi」という言葉があるように、「日本らしさ」自体が価値を高める鍵になります。大量生産、大量消費の時代の中、「良いものを長く使う」「人の手で作られたものを使う」といった意識が根付いている今、「Made in Japan」の価値は非常に大きな我々のアドバンテージになります。

「Japandi(ジャパンディ)」とは

Japandi(ジャパンディ)は、「Japanese(日本の)」と「Scandi(スカンジナビアの)」を組み合わせた造語で、日本の侘び寂びの美意識と、北欧の温かくシンプルなデザインを融合させたインテリアスタイルです。

過剰な装飾を排し、自然素材や落ち着いた色合いを重視する点が共通しています。日本の繊細でミニマルな美と、北欧の機能的で居心地の良い空間づくりが組み合わさることで、洗練されていながらも、どこか穏やかで温かみのあるスタイルが生まれます。天然木、竹、麻といった素材が多用され、暮らしに調和をもたらすことが好まれ、改めて、日本製品が評価されています。

3つ目の選定軸:法規制のハードル(規制観点)

3つ目の視点は、1つ目、2つ目の視点とは異なり、大きな参入障壁になりうる規制の観点です。各国の法規制は全くといっていいほど異なり、日本での当たり前が全くといっていいほど通用しません。市場ポテンシャルがどれだけ大きかったとしても、規制の厳しすぎる国を選定すると、ライセンス取得や通関手続きに多大なコストと時間がかかり、事業が頓挫するリスクがあります。

法規制のハードルは、参入前に絶対に確認すべきポイントです。最初のタイミングでは詳しく調査をしなくても、以下の観点から全体像を捉え、プレ調査として、調べてみると良いでしょう。具体的なポイントは以下の通りです。

越境ECの許容度合い

その国が越境ECを奨励しているか、あるいは厳しく規制しているか。は非常に重要になります。例えば、越境ECを奨励しておらず、締め出しをしようとしているような国の場合、急に関税制度が変更になる可能性があるなど、外部環境のリスクが大きいからです。越境ECへの許容度合いやニーズに関しては、その国なりたちが大きく影響していると考えています。

例えば、自社で製品を製造し、自社コンテンツにありふれている韓国については、自国製品が好まれ、さらに、越境に関しても非常に厳しく管理がされています。中国や韓国に関しては、現地に法人を持っていない場合は、そもそもサービスが提供できないというような規制もあり、越境ECを始めるにあたって、適切な対応が求められます。このような国で越境ECを実施していく場合は、自社越境ECという形ではなく、現地に法人があり、法規制に精通した代理購入事業者等を活用したり、現地プラットフォームに出店をしたりする方が現実的です。

一方で、台湾や香港、シンガポールのような国は海外からの輸入が従来大きく、越境ECに関する許容度も高く、香港では関税はかからず、シンガポールでは免税額の幅が4.5万円を超えるなど、越境EC展開が比較的始めやすくなっています。

関税・税制の違い

上述で述べた通り、関税の制度には大きな違いがあります。例えば、香港では関税はかからず、シンガポールでは免税額の幅が4.5万円を超えるなど個人の輸入が非常にしやすい状態にあり、越境ECが浸透しやすい状況にあります。一方で、アメリカに関しては、2025年8月29日に法制度が変更になり、従来800ドル(約12万円)以下の個人輸入において、関税がかからないといったデミニミス制度というものが撤廃され、個人輸入においても、日本からの越境輸入に一律15%の関税がかかるようになりました。これにより、消費者の負担が大きくなり、現在越境取引の市場が停滞しています。長期的にはインフレにより回復する可能性がありますが、このように関税制度の変化は市場に大きな変化をもたらします。

また、各国の税制の違いを意識した価格設定や顧客体験構築も重要になります。関税の他にも、国によって、越境ECで個人輸入した商品において、付加価値税(VAT)が発生し、関税とは別に税金を支払う必要があります。

例えばヨーロッパでは、EUの制度により、少額商品にも付加価値税(VAT)が課税され、消費者は越境ECの総額(商品代金 + 関税 + 国際送料 + 保険料)に対して、一定割合のVATを支払う必要があり、消費者の負担が大きいです。

その際に、越境EC事業者として重視しないといけないのは、このような関税の透明性をどのように担保するかです。

商品購入時に発生する関税を商品代金に載せて販売する「DDP」制度の導入(商品代金のみを表示し、後の関税等は消費者負担で消費者に荷物が到着した後に金額がわかるのが「DDU」制度)や付加価値税に関する説明等、消費者に販売する際の工夫を凝らすことで、消費者からのクレーム等を削減することができます。

越境ECを始める際は、まずは関税等がかからず、着手しやすい香港などからスタートできると難易度はわずかに下がります。一方で、やはり越境ECの市場が大きいのはアメリカやヨーロッパです。この市場にどうアプローチするかを各国の制度を事前に理解しながら、戦略を立てておけると、適切な市場選定とロードマップを作成することができるでしょう。

個人情報保護に関する規制

海外向け越境ECにおいて、個人情報保護に関する各国規制を理解することは、事業の成否を分ける重要なポイントです。例えば、日本の法律と比較して特に厳しい法律の例として、EUのGDPR(一般データ保護規則)と、アメリカのカリフォルニア州を中心に適用されるCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)です。

日本の個人情報保護法は、個人情報を「事業活動に有用な情報」として、その適切な利用と保護を目的としています。そのため、プライバシーポリシーに記載のある内容を広義に捉え、その範囲内で利用することも可能になります。一方、EUのGDPRは、個人情報を「個人の基本的人権」と明確に捉え、個人情報の利用においては、本人の明確な同意を必須とし、個人情報違反時の罰金は最大で売上高の4%と非常に高額な額が発生します。アメリカのCCPAにおいても個人情報を「消費者の財産」と見なし、消費者は自分の個人情報がどのように使われているかを知り、その利用を停止する権利を持ちます。

上記個人情報に関する規制は、越境ECで日本から商品を販売し、現地消費者が個人輸入をする場合においても、適用されます。それ故に、個人情報保護については、日本での当たり前を忘れ、各国の対応を厳密にしていく必要があるのです。

具体的には、選定可能性のある国で適用される法規制に準拠したプライバシーポリシーを多言語で作成し、ECサイト上に明記したり、個人情報の収集に消費者の同意が必要な場合は、適切な形式と頻度で明確な同意を得る仕組みを導入したりする必要があります。個人情報規制とその厳格さは国によって、大きく異なるため、まずは候補国の個人情報規制を比較して確認することが重要です。

その他各国の規制

その他にも各国異なる様々な規制が存在します。わかりやすい規制でいうと、輸出入品規制で、各国ごとに食品、化粧品、電化製品などの商品に対する輸入規制があります。また、越境ECで販売する際にも事前のライセンス取得が必要な場合もありますので、事前に調査をしておくことが重要です。

輸入品規制はわかりやすいですが、その他細かい商習慣においても、各国特有の規制があることがあります。例えば、韓国では、通信販売においてもクーリングオフ制度が適用され、7日間以内には無条件にちかい状態で、消費者からの返品対応に応じなければなりません。このように日本の商習慣と異なるような法規制が適用される場合もありますので、各国の規制は事前に確認しておくことが重要です。具体的には、下記の観点から、各国の法規制を見ておけると良いでしょう。

法規制を確認する際の視点

  • 輸入手続
  • 物の安全性・品質の責任
  • 消費者保護
  • 知的財産権
  • ライセンス関係

また、法律を確認する際にその国全体の法律と合わせて、アメリカやオーストラリアなどは各州の法規制の確認を行う必要があります。各州の法規制が異なり、1つの州のみが厳格な場合、その国を攻める際に、もっとも厳格な州に合わせた規制対応の検討が必要なケースがあるからです。

ただ、上述の通り、法規制に関しては、論点が多岐にわたるため、専門家に相談しながら、まずは候補となる国全体の法令プレ調査を行い、ある程度候補国を狭めながら、徐々に深掘りをして、市場選定を進めていくことが望ましいでしょう。

今回の記事では、越境ECの市場選定に欠かせない、もっとも重要な3つの視点を紹介してきました。次の記事では、成功に向けて、より強固な意思決定をするために見とくべき、残り4つの視点をご紹介します。

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