- 越境ECにおける関税の考え方を学ぶ
- DDPとDAP(DDU)の違いとメリット・デメリットを学ぶ
はじめに
国内ECよりも複雑で論点の多い越境EC。その越境ECで成功するためには、下記の3点が重要であると、前の記事で述べました。
- 商品ニーズ(Product-Market Fit): ターゲット市場において、販売する商品に対する確かな需要(ニーズ)が存在するか
- 国際配送料の優位性および関税の透明性(Logistics and Cost Transparency): 競争力のある価格で、購入者が納得できる形で迅速に商品が届く物流体制と、購入前に必要な総コスト(関税・税金含む)が明確であるか
- 越境ECの信頼性(Trustworthiness and Localization): 海外の購入者が安心して取引できるウェブサイトの信頼感と、現地の文化・言語に合わせた適切なローカライゼーションができているか。上述のように関税など、商品購入に必要なコストの透明性が明確にされているか
その中でも重要なのが、2つ目のポイントである「国際配送料の優位性および関税の透明性」、特に「関税」の取り扱いです。購入者に対して、「予期せぬ費用」をなくし、国境を越えた物流をいかにスムーズに行うかが、顧客体験の鍵を握ります。本記事では、貿易条件を定める国際ルール「インコタームズ」の中から、越境ECで最も重要となるDDP(仕向地持込渡し・関税込み)、そして慣習的に使われるDDUと現行ルールのDAP(仕向地持込渡し)について開設し、そのメリット・デメリットと対策を開設します。まずは関税の徴収方法について、正しく理解し、購入者に最適な体験を提供できるようにしましょう。
越境ECの根幹をなす「個人輸入」の概念と世界の法規制
まずは、関税の説明の前に、越境ECにおいて、非常に重要になる「個人輸入」という概念についてお伝えします。「個人輸入」とは、その名の通り、個人で商品を輸入することです。越境EC事業者は、お客様に商品を送る際、多くの場合、企業間の取引ではなく「個人輸入」という形で、商品を個人の消費者に送ります。そして、この「個人輸入」という概念に対して、各国の法規制を理解することが、関税戦略の第一歩となります。
越境ECにおける「個人輸入」の概念とDDP/DAPへの影響
個人輸入とは、一般的に「個人が自己使用を目的として、海外から商品を購入すること」を指します。多くの国では、この個人輸入の範疇であれば、「少額の輸入(低額免税)」に対して関税や消費税を免除したり、通関手続きを簡易にしたりする制度を設けています。
しかし、この制度の運用や基準は国によって大きく異なり、これがDDU/DAP(関税・税金はお客様負担)で送った場合にトラブルになる主な原因です。免税範囲を超えた商品を送ると、お客様(輸入者)が現地で関税や消費税の支払いを求められることになります。
また、越境ECの成長に伴い、「個人輸入」にかかる法規制がどんどん変化していっています。各国の「個人輸入」にまつわる規制を抑えるとともに、世の中の法規制を理解しておくことが重要になります。
主要国の越境EC「個人輸入」に関する法規制と免税基準
各国の個人輸入に対する関税規制、また、個人輸入において、定額商品の関税を免除する「低額免税基準(De Minimis Threshold)」は、越境EC事業者が関税対応を検討する上で最も重要な情報です。各国のこれらの規制に合わせて、DDU/DAPで送れるか、DDP対応のなんの対応が必要かが変わってきます。
| 国・地域(2025.12時点 ※最新情報は確認必要) | 低額免税基準(関税・税金が免除される目安) |
|---|---|
| アメリカ(米国) | 元々、$800 USD以下は低額免税基準で免税だったが、2025年8月末より、撤廃され、個人輸入における越境ECにおいても、一律15%の関税が発生 |
| 中国 | 「越境EC小売輸入」として規制が明確化。個人購入額の上限(年間 26,000人民元 = 約52万円、単回 5,000人民元 = 約1万円)が設定され、関税が発生しない。ただし、それ以上の金額の商品については、個人輸入でもカテゴリによって関税が発生 |
| 香港 | 関税は基本的にゼロ。少額貨物の税金(GST/VAT)の概念がほぼないため、通関は比較的容易 |
| 台湾 | 単回 2,000台湾ドル(約8,000円)は税金がかからない。ただし、半年で6回までという回数制限もある。免税枠を超えると厳しく課税される |
| シンガポール | $400 SGD(約4.5万円)と比較的高い金額まで免税。ただし、別でGST(消費税)という消費税が国内消費者に課税されるため、関税とは別に注意が必要 |
| イギリス | £135(関税)。2021年以降、£135以下の貨物はVAT(付加価値税)の免税が撤廃され、販売時に徴収が義務付けられている(DDPに近い対応が必要)。 |
| フランス・EU圏 | 関税は€150から。2021年以降、VAT(付加価値税)の低額免税(€22以下)が撤廃され、全ての輸入貨物に対してVAT徴収が必須に。IOSS(Import One-Stop Shop)による納税が必要。 |
| オーストラリア | $1,000 AUD(関税)。GST(消費税)は、2018年以降、年間売上が$75,000 AUDを超える事業者は販売時に徴収が義務(DDP対応が必須)。 |
| 韓国 | $150 USD(通関基準$100 USD)。$150を超えると厳しく関税・消費税が課される。 |
多くの主要国で、低額免税基準が引き下げられたり、VAT/GSTといった消費税の免税が撤廃されたりと個人輸入に関しては、関税について、免税が行われていることがわかります。一方で、関税は購入者にとってはわかりづらく、いくらかからないといっても、商品購入時に透明性が高いにこしたことはありません。さらには、後述の通り、近年、越境EC市場の拡大により、個人にまつわる法規制が変わってきております。
近年の関税動向と越境ECへの影響:保護主義と規制強化の波
世界の関税・税制環境は、国際的な税収確保の動きにより、急速に変化しています。具体的に、アメリカと中国の近年の動きについて、みてみましょう。
アメリカの関税制度変更と世界への影響
アメリカの「低額免税制度(De Minimis Threshold)」は、元々、$800(約12万円)という非常に高い水準に設定されており、これまで多くの事業者がこの恩恵を受けて、「個人輸入」による越境ECを拡大してきました。
しかし、近年、この高すぎる免税基準による越境EC市場の拡大により、基準の引き下げや特定の国・製品への適用除外の議論が活発化し、2025年8月末に撤廃され、現在では日本からの輸出に関して、個人輸入も含め、一律15%がかかるようになっています。
これによってアメリカ向け越境ECのコスト構造は激変、購入者は急に越境ECで商品を購入するたびに、高額の関税を支払う必要が出たのです。関税について知らなかった購入者は、高額な関税に対して不満を持つことは間違いなく、関税の透明性を担保する = 全事業者にとってDDPの導入は待ったなしの状況になってきています。この議論は、世界各国の税制見直しの動きに影響を与えており、国際的な税金徴収の厳格化を後押ししています。
中国税関の取り締まり強化と規制の明確化
中国においても、個人輸入に関する関税徴収が近年厳しくなっています。従来、個人輸入に関して、グレーゾーンの輸入や、関税の申告漏れが続いておりましたが、現在は厳格に徴収され、関税支払いを怠った場合、厳しく処罰されるようになってきています。
そのため、中国で越境ECを展開する場合においても、正式な貿易ルートとルールに則った関税・増値税の計算と納税が必須です。中国は別記事で説明したように、基本的にモール型越境ECでの展開が主流なので、モールを利用し、モールの制度に従う場合は自社で越境ECを展開するよりはやりやすくなりますが、関税に関する現在の動きはしっかり理解しておく必要があります。
結論として、世界的な潮流は「税金を適切に徴収する」「貿易の透明性を高める」という方向に向かっており、越境EC事業者は関税・消費税の事前計算と徴収(DDP)**の義務から逃れられなくなっているのです。
DDP、DDU、DAPの基本と事業者・消費者視点の比較
次に、関税の徴収方法に関して、「インターコムズ」が定める重要な概念であるDDP、DAP、DDUに関してみていきましょう。DDP、DDU、DAPは、いずれも仕向地(お客様の元)まで売り手が輸送責任を持つ条件ですが、「関税・消費税の支払い責任」が決定的に異なります。
DDPとDAP(DDU)の決定的な違い
関税の徴収方法においては、大きく2つの方法があります。それが、DDPとDAP(DDU)です。DDPとDAP(DDU)の最大の違いは、輸入関税・消費税の費用負担です。
- DDP (Delivered Duty Paid / 仕向地持込渡し・関税込み)
- 費用負担: 売り手(越境EC事業者)が輸送費、保険料、輸入関税・消費税の全てを負担
- 顧客体験: 注文時に支払総額が確定し、追加費用が一切発生しない、シームレスな購入体験を提供
- DAP (Delivered At Place / 仕向地持込渡し)
- 費用負担: 売り手が輸送費、保険料を負担します。輸入関税・消費税はお客様(買い手)が負担
- 顧客体験: 商品受け取り時、またはその前後に、お客様が運送業者から関税・税金の支払いを請求される
補足:DDUはインコタームズ2010で廃止され、DAPがその役割を引き継いでいますが、物流現場では「関税抜き」という意味でDDUという名称も慣習的に使われ続けています。
越境EC事業者と購入者視点から見たメリット・デメリット
DDPとDAP(DDU)を越境EC事業者の視点と購入者の視点それぞれで比較すると、以下のメリット・デメリットが挙げられます。
DDPのメリット・デメリット
| DDP | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 事業者視点 | 売上・コンバージョン率の向上: 最終価格が明確なため、お客様の安心感が高まり、カゴ落ち率が大幅に減少安心感の向上: スムーズな配送は顧客満足度を大幅に向上させ、リピート購入に繋がる | 初期コスト・業務負荷増: 複雑な関税・税率を事前に把握し、計算・徴収・納税するためのシステム投資やオペレーション構築が必要 商品の価格が高く見える: 関税や納税代行の手数料が事前に商品価格に上乗せされているため、見た目の商品価格はDAPよりも高く見える |
| 購入者視点 | 安心・快適な購入体験: 注文時に支払総額が確定し、追加費用・手続きが一切不要なため、迅速かつ快適に商品を受け取れる | -(特にないので、DDPが理想) |
DAP(DDU)のメリット・デメリット
| DAP(DDU) | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 事業者視点 | オペレーションの簡易化: 関税計算・納税業務が不要で、初期の越境EC立ち上げが容易 | クレーム増大、信頼低下: お客様が予期せぬ費用を請求され、受け取り拒否やクレームにつながる最大の要因となる |
| 購入者視点 | 追加費用・不快感: 配送時に配送業者から関税や高額な手数料を請求されるため、不快感や「不当な二重請求」という印象を受ける 配送遅延リスク: 関税支払いのための連絡や手続きで、貨物が税関や配送業者の倉庫で足止めされ、配送が遅延する可能性 |
以上が、DDPとDAP(DDU)を比較したメリット、デメリットです。結論、どの越境EC事業者もDDP対策を行っていく必要があります。ただし、いきなりDDP対応をするといっても、何をすれば良いでしょうか。次に、DDP対応をする際に何が必要か。また、DDP対応に向けて、どのようなステップで対策を売っていけば良いかを説明します。
DDP導入に向けた具体的なステップとシステム戦略
DDPは、顧客体験を最大化する最善の選択肢ですが、その導入には戦略的なステップと適切なシステム投資が不可欠です。今章では、どのように移行させていけば良いかmどのような対応が必要なのか。を説明します。
DDUからDDPへの段階的移行戦略
越境ECを初めて始める場合、越境ECにまつわる様々な対応をする必要があります。その中で優先度を決めて進め、まずはスモールスタートでビジネスとして成立するかを検証する必要があるでしょう。その場合には、まずはDAP(DDU)でスモールスタートし、オペレーションに慣れながら、主要国からDDPへ移行していくのが現実的な戦略です。
初期フェーズ:DDUでの情報収集と明確な伝達
- 目的 : とにかく早くECサイトを立ち上げ、オペレーションの習熟度を上げることを目的とする
- 運用 : DAP(DDU)を選択します。
- 必須対応 : チェックアウト画面やFAQで、関税・消費税はお客様負担である旨を極めて分かりやすく、複数回通知
- データ収集 : 関税関連のクレーム率やカゴ落ち率などを詳細にデータ化し、今後のDDP移行のROI(投資対効果)を測るための基礎資料とする
中期フェーズ:DDP導入の検討と準備
- 対象国の選定:初期フェーズで市場が検証でき、かつクレームが多い国や、EU圏・オーストラリアのように法規制上DDP対応がほぼ必須となっている国を優先して、対応を検討
- 検討事項
- 販売商品のHSコード(品目別分類番号)を特定し、税率の調査を開始
- 利用しているECカートや物流システムとの連携性を評価
- DDP対応のための予算化(システム利用料、コンサル費用など)を行い、具体的な戦略を検討
最終フェーズ:DDPの本格導入と検証
- 運用: DDP対応システムを導入し、リアルタイムで関税・税金を計算し、チェックアウト時に徴収します。配送ラベルには「DDP」を明記し、通関がスムーズに進むように手配する
- 検証: DDP導入後のカゴ落ち率、クレーム率、リピート購入率の変化を分析し、ROIを継続的に評価しながら、DDPの導入範囲を他の国へ拡大
DDPに対応するためのシステム検討:Zonosなどのソリューション
DDPを実現するには、世界各国の関税・税制に準拠した正確な関税計算と、徴収した税金を各国に納税するコンプライアンスの維持が不可欠です。専門ソリューションの導入が必須となります。
必須となる機能
DDP対応ソリューションに求められる主要な機能は以下の通りです。
- リアルタイム関税・税金計算機能: 購入者の住所、商品のHSコード、価格に基づき、関税、消費税(VAT/GST)、輸入手数料などをチェックアウト時に瞬時に計算
- クロスボーダーコンプライアンス管理: 輸出入規制や禁制品、必要な証明書などを自動でチェックし、法的なリスクを回避
- 納税代行・レポート機能: 徴収した税金を各国税関へ納税するためのIOSS(EU)やGST(オーストラリア)といった制度に対応し、納税代行サービスと連携
DDP対応の代表的なソリューションとして、ZonosやAvalaraなどが挙げられます。
Zonos
Zonosは、越境ECにおける関税や税金、そして国際取引に伴う複雑な手続きを自動化するための包括的なプラットフォームです。単なる税金計算ツールではなく、グローバルな配送における透明性とコンプライアンスを確保することに重点を置き、構築されています。具体的には下記のようなことを、Shopfiyのミニアプリから対応することができます。
- HSコードの割り出し: 世界共通の品目分類番号であるHSコードは、関税率を決定する上で不可欠です。Zonosは商品の説明からHSコードを自動で推定する機能を持ち、通関手続きの迅速化に貢献します。
HSコードとは
「Harmonized System(品目別分類)」といい、世界中で取引されるほぼすべての商品がこの番号で分類されています。関税率や輸出入規制を決定する上で不可欠な、国際貿易における「商品のID番号」のようなものです。このHSコードは、6桁の数字からなり、さらに細分化された桁数が各国の裁量で追加されます。例えば、最初の2桁は商品の「類」(例:95類は玩具)、次の2桁は「項」、最後の2桁は「号」を示し、より詳細な品目を特定していきます。
- 関税・輸入税の自動計算: 購入者の住所と商品の詳細(価格、種類など)に基づいて、関税、消費税、付加価値税(VAT)、売上税(Sales Tax)などをリアルタイムで計算し、ユーザーに提示できます。これにより、予期せぬ追加費用がなくなり、顧客の信頼性が向上します。
- DDP(関税込み)対応: チェックアウト時にすべての税金と関税を徴収し、DDP方式での配送を可能にします。これにより、購入者は商品受け取り時に一切追加費用を支払う必要がなくなるため、顧客満足度が向上し、カゴ落ち率の低減に繋がります。
- グローバルな法規制のモニタリング: 世界各国の関税法や税法は常に変動しています。Zonosはこれらの法規制を継続的に更新・反映しているため、事業者は常に最新の正確な情報に基づいて取引を行うことができます。
Zonosは有料サービスで、一定の費用がかかりますが、顧客体験を向上させ、売上を上げるための明確な武器になります。
Avalara
Avalaraは、企業が直面する様々な税務コンプライアンスの課題を解決するために設計された、クラウドベースの税務自動化ソリューションです。特に、消費税や売上税の計算と申告に強みを持っており、Shopfiyにもミニプログラムが提供されています。
- リアルタイムの税金計算: 顧客の所在地、商品の種類、そして取引の性質に基づいて、売上税、VAT、消費税などをリアルタイムで正確に計算します。Avalaraの強みは、その広範な税務データベースです。世界中の何万もの税務管轄区域における税率と規則を網羅しており、常に最新の情報を反映しています。
- 申告・支払い: 計算だけでなく、税金の申告書類の作成や、当局への支払いまで自動化するサービスを提供しています。これにより、事業者は複雑な税務申告プロセスから解放され、本業に集中することができます。
- 多岐にわたる税務対応: 売上税やVATだけでなく、ホテル税、飲食税、消費税、関税、さらには源泉徴収税など、多種多様な税金に対応しています。
AvalaraはZonosよりもより専門な税務ツールとなっており、越境ECにおける関税対策だけに利用するのであれば、Zonosが簡単に利用できる可能性があります。一方で、現地での様々な活動をする際には幅広い税金対策が必要になるため、必要に応じて使えるようにサービス名称は頭に入れておきましょう。ソリューションを選定する際は、ターゲット国の広さ、ECカートとの連携の容易さ、そして利用料やトランザクションフィー(取引手数料)がビジネスモデルに見合っているかを慎重に評価することが重要です。
最適な選択肢は「DDP」への戦略的移行
越境ECの競争が激化し、世界の税制が厳格化する今、DDPはもはや「オプション」ではなく「必須の競争力」です。
DAP(DDU)は、越境ECを簡単に始めるための鍵ですが、お客様に「予期せぬ費用」という最悪の体験を与え、ブランドの評判とリピート率を大きく損ないます。一方で、DDPは、販売価格が多少上がっても、スムーズな購入体験と迅速な配送という価値を提供し、結果としてカゴ落ちの減少とリピート購入の増加に繋がります。貴社の越境EC事業が持続的に成長し、グローバル市場で成功を収めるために、DAP(DDU)での運用から脱却し、DDPへの戦略的かつ段階的な移行を強く推奨します。適切なシステム投資と運用戦略をもって、国境のないシームレスなショッピング体験をお客様に提供しましょう。


