- 越境ECの収支モデルを復習する
- 越境ECの運営にあたり、抑えるべきKPIと思考を学ぶ
はじめに
越境ECは国内ECと異なり、越境EC特有の収益やコストが発生するビジネスであり、国内ECサイト同様の事業計画策定だと、越境EC特有のコストがカバーできず、適切に事業評価ができない可能性があります。また、国内ECサイトと異なり、越境ECの場合、複数カ国に展開するため、国別にも正しく評価をしていくことが重要になります。そのため、越境ECを始めるにあたっては、越境EC特有の事業計画の策定と事業KPIのトラッキング方法を正しく理解する必要があります。
本記事では、まず、越境ECの収支構造を改めて、説明した上、越境ECで確実に成果を出すために必要な、「精緻なKPI分解」と「実行可能なトラッキング」方法を、具体的なステップに分けて解説します。越境EC事業をデータドリブンで成功に導くための参考になると幸いです。
越境ECの収支構造を徹底解剖
まず初めに、越境ECにて発生する、越境EC特有の収益とコストに関して、説明します。コストに関しては、前の記事で説明した越境ECの3つのモデルに沿って、解説しています。越境ECにおける3モデルについて復習したい方は、ぜひこちらの記事をご覧ください。
越境ECの収益構造
越境ECの基本的な収益としては下記の通りです。物販売上については国内ECと変わりませんが、越境ECにおいては、国際配送料や為替リスクのためのバッファ費用を設けることが多く、売上項目として、このような費用を計上することがあります。このような費用は、国際配送料のボラティリティ(サイズによる変動)や為替リスクを防止するために設定することが目的ですが、時には売上となり、営業利益率を押し上げてくれるドライバーになるため、事業計画上は明確にトラッキングすることが望ましいです。
- 物販売上:商品そのものの売上。海外市場の調査で「日本より高く売れる」ことが判明した場合は、国ごとに価格設定を変えることで売上を最適化することが重要
- 国際配送料差益:テクニカルな売り上げとして、顧客に請求する配送料金と、実際に配送業者に支払う料金の差額で収益を上げるモデル。国際配送料は相場が高いため、この差額を作りやすく、送料を少し上乗せして設定することで、売上として計上可能
- 為替リスクレート(手数料):為替変動による利益の目減りを防ぐための手数料。例えば、1ドル150円のときに仕入れた商品が、決済時に140円になってしまうと、円換算での利益が目減りするため、このリスクをヘッジするために、予め為替リスクレートとして手数料を上乗せして価格設定。為替が良い際は売上になる
上記と合わせて、仕入れの際に支払いした消費税還付
ここで新しい収益構造に関して、説明します。越境EC特有の収益構造として、消費税還付というものがあります。消費税還付とは、越境EC事業者が、外国人消費者に商品を販売する際、消費税を免除できる仕組みです。これは、越境ECが輸出取引として扱われるためです。
越境EC向けに商品を仕入れる際に、国内においては「商品代金+(本来かかるべき消費税分の金額)」の金額で仕入れることになります。国内の事業者は、商品を仕入する際に消費税を預かり、仕入れや経費で支払った消費税を差し引いて、残りを国に納めます。一方で、海外の消費者に商品を販売する越境ECは、日本国外での消費を目的としているため、消費税が課税されません。そのため、事業者は売上にかかる消費税を預かる必要がなく、一方で、商品の仕入れや運営にかかった費用に含まれる消費税(これを仕入控除税額と呼びます)は、税務署に申請することで還付を受けられるのです。
これにより、消費税を預かる必要がない一方で、仕入れで支払った消費税が戻ってくるため、実質的にその分が事業者の利益として加算されることになります。消費税分が実質的な利益として加算されます。
しかし、この仕組みは、今後の制度変更によって変わる可能性があります。現在、日本国内ではインボイス制度が導入され、正確な取引情報の管理が求められています。将来的には、越境ECにおける免税手続きもより厳格化される可能性があり、事業者は税務申告の際に、取引の証憑をより厳密に管理する必要が出てくるかもしれません。
越境ECのコスト構造
次に、越境ECで発生する具体的なコストを見ていきましょう。コスト構造としては、国内ECと大きな変化はありませんが、越境ECで特に大きな費用が発生し、事業計画上しっかりトラッキングをしていく必要があるのが、物流費用です。
物流費用が、1件あたり数千円を超えてくるため、この費用の効率化は大きなコストダウンになります。また、返品・交換などの費用も、返品が国を跨いで行われることから、国内以上のコストになることが多く、毎月管理を徹底していくことが重要です。
物流費用
- 国際配送料:海外へ商品を配送するための費用。国や配送方法(EMS、FedEx、DHLなど)、重量、契約している物流会社と荷量によって大きく異なる
- 関税・消費税:関税や販売先の国で発生する関税や消費税(VAT)。基本的に購入者が負担し、DDUの場合は考慮する必要がないが、販売者が価格に含める「DDP(Delivered Duty Paid)」方式を取る場合は、コストとして計上する必要がある
- 返品・交換費用:海外からの返品・交換には、再配送費用や通関手続きの費用など、国内よりも多くのコストが発生
サービス手数料
- サービス利用料:Shopifyなどのプラットフォーム利用料です。月額費用や売上に応じた決済手数料が発生。また、転送や代理購入サービスを利用する場合は、Tensoやジグザグなどの利用料が発生。モール利用の場合は、出店料や、売上に対する手数料(販売手数料、決済手数料など)が発生。特に海外モールでは、手数料が売上の10〜20%に達することもあり、高額
- 決済手数料:PayPalやStripeなどの決済サービスを利用する際の手数料で、自社で決済を構築する場合に発生
サイト運営費用
- マーケティング費用:Google広告、Facebook広告、Instagram広告など、海外向けのWeb広告費用が発生
- 人件費・運営費:多言語でのカスタマーサポート、サイト運営、マーケティング担当者などの人件費が発生
| 視点 | 1. 自社越境ECモデル | 2. 転送サービス or 代理購入モデル | 3. モール掲載型モデル |
|---|---|---|---|
| 消費者から見た商品代金 | 商品代金 + 国際送料 + 関税 + 消費税(付加価値税) ※DDUの場合、国際送料と関税・消費税は後払いに、DDPの場合は、サイト表示価格が上記に | 商品代金 + 転送・代理購入手数料 + 国際送料 + 関税 + 消費税(付加価値税) ※DDUの場合、国際送料と関税・消費税は後払いに、DDPの場合は、サイト表示価格が上記に | 商品代金 + 国際送料 + 関税・消費税 ※多くの場合、モールがDDP方式で関税を事前に徴収するケースが多い |
| 自社の売上金 | 商品代金 (+ 国際送料差益)(+海外販売価格上乗せ) ※為替リスクバッファを価格に上乗せして設定することも可能※自社で物流構築する場合は、国際配送料などのバッファを乗せることも可能 | 商品代金(+海外販売価格上乗せ)(+消費税還付) ※転送サービスを利用する場合は、自社が配送主体になるので、消費税還付を受けることができる。一方で、代理購入サービスの場合は、あくまで海外販売主体が代理購入事業者になるので、税還付の取得は不可能 | 商品代金(+海外販売価格上乗せ)+ 消費税還付 |
| 自社で発生するコスト | ・システム手数料 (例: Shopify月額費用)・決済手数料・国際配送料・為替差分・サイト運営・カスタマーサポート人件費・マーケティング費用・(返品返金コスト) | ・システム手数料 (例: Shopify月額費用)・国内送料・転送・代理購入サービス利用料(サイト運営運営費の代わり)・サイト運営運営費・マーケティング費用・(返品返金コスト) | ・出店料(無料のケースも)・モール内決済手数料 ・販売手数料・国際配送料・サイト運営運営費・(モール内広告費用)・(返品返金コスト) |
下記が、消費者から見た国内ECと越境ECの費用の違いになります。この違いを意識して、事業計画を策定し、トラッキングを明確に行っていく必要があります。

次の章からは、ここまでのコスト構造を踏まえて、上記で事業計画を策定、トラッキングできる体制になったことを前提に、どのようにKPIを設定し、トラッキングしていくと良いかを説明します。
1. 多国化展開を前提に、国別でKPI管理ができる体制を構築
越境ECにおいて、KPI管理をしていく際に国内と最も異なる重要なポイントは、国内と異なり、多国で展開している可能性の方が高いため、多国化展開を前提に、KPI目標を立て、国別でKPI管理ができる体制を構築することです。
もちろんまずは全体として越境ECの売上目標を達成していくことは最重要ですが、全体の構成要素を占める、国別のKPIにヒントが隠されていることが多いのが越境ECの特徴です。それ故、売上最大化の鍵は「どこで、何が、どれくらい売れているか」を極めて、高い解像度で把握することです。そのためには、KPIを越境EC全体とターゲット国別の二重構造で設定することが不可欠です。
良くある失敗例としては、下記のようなケースです。
- 越境EC全体の売上〇〇円」というKPIを設定
- 売上が落ち込んだ際、原因が「アメリカでのアクセス不足」なのか「中国でのCVR低下」なのかを特定できない
- 結果、全市場で同じ施策(例:全商品10%オフ)を打ち、効果測定が曖昧になり、マーケティング効率も悪化
国別にKPIを分解できていないことで、事業全体の課題が見極められず、マーケティング投資効率が悪化し、失敗に陥ることが多々あります。この状況を解決するために、下記のような二重構造での事業計画策定、KPI設定を行い、トラッキングしていくことが重要です。
| KPIの構造 | 目的 | 主なKPI例 |
|---|---|---|
| 全体KPI(マクロ) | 経営層や全社目標としての進捗管理。事業の持続可能性と成長率を把握する | GMV(流通総額)、粗利(LTV含む)、新規顧客獲得コスト(CAC)、撤退ラインとなるCPA |
| 国別KPI(ミクロ) | 各国のマーケティング施策の効果測定、予算配分、ボトルネックの特定と改善アクション | 国別CVR、国別平均客単価、国別チャネル別アクセス数、国別返品率、国別取引完了率 |
実践ノウハウ: 越境ECの初期段階では、売上目標は全体で設定しつつも、改善アクションは必ず国別KPIに基づいて実施する。また、データダッシュボードなどの分析システムも、デフォルト画面を全体サマリーとし、すぐに国別の内訳にドリルダウンできる設計にし、常に国別データを確認できる状態を構築
2. 売上を最大化するKPIの精緻な分解とトラッキング
この章で説明するKPI分解は、越境ECだからこそ、より精緻に行っていくことが望ましいです。できる限りデータは精緻に分析し、データドリブンに課題解決を行うことは国内ECであろうが、越境ECであろうが変わらないのですが、、顧客の行動や、流入チャネルなどで未知のことが多いのが越境ECの特徴であり、だからこそ、国内以上にKPIは精緻に分解する意識で進めていくことが重要です。具体的には、下記のようなKPIをメインに、このKPIを国別で分解して見れる体制を作っていきましょう。
基本的な越境ECの売上分解式 = 売上=アクセス数×CVR×客単価
| 分解要素 | 指標 | トラッキング内容 | 改善アクション |
|---|---|---|---|
| アクセス数 | DAU/MAU、チャネル別アクセス数 | Google Analytics 4(GA4)で国別・デバイス別・チャネル別のセグメントを厳密に定義し、チャネル別の流入をトラッキングできる状態とする | 費用対効果の低いチャネルからの予算撤退。高効率チャネルへの予算集中 |
| CVR (購入率) | 国別CVR、デバイス別CVR、カート放棄率 | GA4をサイトに実装し、ファネル分析(商品詳細 → カート → チェックアウト → 購入)を設定。特にチェックアウトページの離脱原因(送料、関税表示、決済エラー)を特定できるよう、細かくイベントトラッキングを実施 | チェックアウトページの簡素化。現地決済手段の追加。送料・関税のDDP方式への切り替え等のアクション検討 |
| 客単価 | 平均注文単価(AOV)、クロスセル率、アップセル率 | GA4のE-commerceトラッキングで正確に通貨換算し、国別・キャンペーン別に分析 | ターゲット国でのバンドル販売(セット販売)強化。国別で送料無料ラインを調整 |
アクセス数を追うにあたり、広告運用時には、各広告チャネルの中の、クリエイティブやマーケティング訴求軸ごとにトラッキングできることが望ましいです。A/Bテストを行い、「テストパターンAを見た人」と「テストパターンBを見た人」が、それぞれ購入完了(Purchase)というコンバージョンイベントにどれだけ繋がったかを、GA4のオーディエンスセグメントやカスタムイベントで追跡します。
また、クリエイティブ(広告画像)についても、国別で結果が異なることが大半です。「日本で勝ったクリエイティブ」が「中国やドイツで負ける」ことは頻繁に発生します。国別で売上への貢献度を最重要KPIとし、現地代理店と協力して「現地で勝てる勝ちパターン」を確立するまでテストを繰り返すことが望ましいです。
上記がトラッキングすべきメインKPIになりますが、越境ECでは、売上だけでなく、越境EC特有の「取引の品質」を測る裏のKPIも極めて重要です。例えば、「取引完了率」= 「返品率」など、国ごとに数値が異なる「取引の品質」を表現する指標も、国内ECではあまり追うことはないですが、越境ECでは明確にして、トラッキングする必要があります。
| 裏KPI | 定義 | トラッキング内容 | 改善アクションのヒント |
|---|---|---|---|
| 取引完了率 | 確定取引数 / 注文確定に至った取引数 ※支払いエラーや不正検知などでキャンセルされた注文の割合 | 決済ゲートウェイでの売上金額とECプラットフォームのデータを連携させ、注文したが決済が完了しなかった数を毎日集計 | 決済エラー率の高い決済手段の特定と見直し。不正検知ツールの強化。 |
| 返品率 | 返品数 / 出荷完了数 ※国別、商品カテゴリ別で分析 | 返品が発生した商品数を特定し、返品率を月次で可視化。国別で返品率を下げるための施策を検討 | 返品率の高い国や商品に対する詳細な商品情報・サイズガイドの充実。どうしても数量が増える場合は、現地返品対応拠点の設置等を検討し、返品コストを削減する |
| 問い合わせ数(CSコスト) | 問い合わせ率 = 問い合わせ数 / 取引数) ※問い合わせ内容(物流、関税、商品)を国別で分類 | 問い合わせ内容をエクセルやツールを活用してまとめ、タグ付け機能を活用し、「関税」「配送遅延」などのカテゴリ別で集計 | FAQの拡充、商品説明の改善により、CSコストを削減しつつ、越境ECの品質向上に繋げる |
データドリブンな組織風土を醸成する
KPI設定とトラッキング環境が整っても、データを見る習慣がなければ意味がありません。上記で説明したところまで、データトラッキングの方法を確立しながら、そのデータをうまく活用できるデータを行動に繋げるための組織的な運用方法を確立します。
具体的には、下記の2つの観点で、データドリブンな体制を構築できるかが鍵になります。
Daily/Weeklyでの数値確認を行い、改善できる社内チームの組成
- 越境ECチーム全員がアクセスできる場所に、上記で説明したようなKPIが一目でわかるリアルタイムダッシュボード(例:Looker Studio、Tableau)を構築し、関係者全員で同じ数値をみれる体制を構築します。
- 上記を実施の上で、越境EC立ち上げから軌道に乗るまでの間は、週に2〜3回、または毎日朝に15分程度その日のデータを見るMTGを開催し、ダッシュボードの数字を全員で確認する習慣を確立します。「昨日、アメリカのCVRが〇〇%下がった原因は?」「韓国の広告CPAが上がっているが、どのクリエイティブが原因か?」など、数字から次のアクションを議論する場を意図的に作ることで、データを元にした会話の数が増え、チーム力が上がります。
上記のような状態を作ることで、データで議論するチームを作り上げることが重要です。
現地代理店との共通認識とリアルタイム連携
もう一つチームを強くするために重要なのが、マーケティングを外部に委託している場合に、現地の代理店との共通理解を常に持ち、リアルタイムのデータに基づき、アクションをできる体制を作ることです。
具体的には、下記のような環境を作ることで、代理店を効率的に活用し、チームを強化することができます。
- 代理店との契約前に、「どの指標をKPIとするか」「その指標をトラッキングするためのGA4のイベント・目標設定」について、共通の定義書を儲け、目線合わせを実施。代理店のレポートと自社のダッシュボードの数値が異なる事態を避けます。
- 代理店担当者に、自社が構築したリアルタイムダッシュボードへの閲覧権限を付与します。これにより、代理店は自社の目標達成状況を常に意識しながら、施策の最適化(例:入札単価調整、クリエイティブ変更)を迅速に行えるようにします。
- その上で、代理店とは最低でも週に1回は打ち合わせを儲け、現状の課題とネクストアクションを週次で定義できるようにします。
データは「行動」に変わって初めて価値を持つ
越境EC事業におけるKPI設定とトラッキングは、単に数字を眺めることではありません。データは、越境ECだからこその複雑な市場で事業のボトルネックを特定し、次の具体的な行動を決めるための「共通言語」です。
本記事で解説した「全体と国別の二重KPI」「精緻な分解式」「運用習慣化」「代理店との連携」のノウハウを実践することで、あなたの事業は「なんとなく」の運営から脱却し、データに基づく盤石な成長軌道に乗ることができるでしょう。
貴社の越境EC事業における次のステップについて、さらに深く議論すべき点があれば、ぜひ当社にもご相談ください。


