越境ECで失敗する企業の共通点と解決策

この記事で抑えておくべきポイント
  • 越境ECでよくある4つ失敗パターンを抑える
  • 失敗パターンを理解した上で、越境ECの推進ができる準備をする

なぜ多くの企業が越境ECでつまずくのか

国内市場が成熟期を迎え、多くの企業にとって越境ECは「次の成長機会」として注目されています。しかし、越境ECは複雑な仕組みであるが故に、万全の準備をしたつもりで「越境ECサイトを開設したものの、売上が伸びない」「予期せぬトラブルで撤退を余儀なくされた」といった失敗もつきものです。

越境ECの難しさは、単にECサイトを多言語化すれば良いというものではなく、「物流」「決済」「法務」「マーケティング」「組織」という複雑な要素が絡み合う点にあります。日本の国内ECの常識が通用しないグローバル市場で戦うためには、越境ECの準備段階から、よくある失敗のパターンと、それに対する解決策を知っておくことが不可欠です。

本記事では、成功を阻む「よくある失敗」を4つご説明します。

よくある失敗1:複雑な収支構造と高額な物流コストを軽視している

越境ECの収支構造は国内ECと異なり、「高額な国際配送料」「不安定な関税」「為替リスク」など複雑な要素が絡み合います。越境ECで成功する秘訣は、この複雑な収支構造と物流コストを正しく理解し、その中で価格競争力のある価格を各国で設定できるかを見極める必要があります。

【よくある失敗例】

  • 国際配送料が商品代金の10%〜30%以上を占めるという異常な状態になっているにも関わらず、その事実を軽視し 、競争力のない価格設定で市場に参入した結果、現地の競合商品と比較して圧倒的に高価になり、コンバージョン率が低下する
  • 関税の制度を理解せず、DDU(Delivered Duty Unpaid/関税顧客負担)で事業を進めてしまい、購入者が想像以上の費用を商品到着後に支払わないといけなくなることで、購入者の不満がたまり、クレームになる。または、購入者がリピートしてくれないECサイトになる
  • 為替リスクを想定せず価格を設定することで、為替が日本円にとって不利な状況になった際に、収益が悪化する

【事前準備時における対策】

まずは前提として、越境ECにおけるコスト構造をしっかり頭に入れた上で、収支計画策定や、価格設定を実施しましょう。越境ECにおける収支・コスト構造については、こちらの記事に詳しく説明してありますので、ぜひご覧ください。

越境ECのビジネスモデル構造を徹底解説

  • 自社越境EC、代理購入、モール出店の3つのビジネスモデルのメリット・デメリットを理解する
  • ビジネスモデルによって異なる越境ECのコスト構造を理解する

その上で、それぞれのよくある失敗に対する対策としては、

失敗例1

国際配送料が商品代金の10%〜30%以上を占めるという異常な状態になっているにも関わらず、その事実を軽視し 、競争力のない価格設定で市場に参入した結果、現地の競合商品と比較して圧倒的に高価になり、コンバージョン率が低下する

  • 価格戦略の見直し:ターゲット市場の競合価格を調査し、国際配送料を織り込んでも競争力を保てる販売価格を設定。国際配送料の一部または全額を企業側が負担する「送料無料ライン」を設定し、その分を商品原価や販売価格に転嫁(マークアップ)して収支を合わせる戦略も有効
  • 配送手段の多角化と交渉:DHL, FedExなどの国際宅配便、EMS(国際スピード郵便)、フォワーダー(国際輸送専門業者)など、複数の配送業者から見積もりを取得し、商品サイズ、重量、配送地域ごとに最も安価で信頼性の高いルートを選定。物量が増える見込みがあれば、業者とボリュームディスカウントの交渉を実施し、最小限まで物流コストを下げる。物流を制するものが、越境ECを制するという言葉を肝に、物流コストにこだわる

失敗例2

関税の制度を理解せず、DDU(Delivered Duty Unpaid/関税顧客負担)で事業を進めてしまい、購入者が想像以上の費用を商品到着後に支払わないといけなくなることで、購入者の不満がたまり、クレームになる。または、購入者がリピートしてくれないECサイトになる

  • DDP(Delivered Duty Paid/関税事業者負担)の採用:関税の制度におけるDDUとDDPの違いを明確に理解した上で、ECサイトのチェックアウト時に関税・消費税を含めた最終支払額を顧客に提示。企業側が関税支払いを代行する。これにより、顧客は商品到着時に支払いをする必要がなくなり、顧客体験が大幅に向上
  • 転送・代理購入サービスの活用:関税や物流に特化し、長年サービス体験改善を行っている転送・代理購入サービスと提携し、国際送料の見積もり、関税の徴収、多様な決済手段への対応などの複雑なプロセスを外部に任せ、自社のリソースをマーケティングに集中することで、顧客体験を担保する
DDU(Delivered Duty Unpaid): 関税を顧客が負担する方法。商品到着時に顧客が関税を支払うため、商品販売時の代金は安く見える一方で、予期せぬ費用に不満を抱くリスクがあります。

DDP(Delivered Duty Paid): 事業者が関税を負担する方法です。事前に一定金額を商品代金に組み込んでおく、または外部サービスを利用し、一定ロジックで関税を上乗せするなどの方法があります。ECサイト上で関税込みの価格を表示できるため、顧客は安心して購入でき、ブランドの信頼性が向上します。一方で、商品価格が高く見えてしまうため、他社がDDUを選択していた場合に、商品金額の競合優位性が失われてしまいます

失敗例3

為替リスクを想定せず価格を設定することで、為替が日本円にとって不利な状況になった際に、収益が悪化する

  • 為替変動を織り込んだ価格設定(バッファの設定):価格設定時に、直近の円安トレンドや将来的な変動リスクを考慮し、想定為替レートに数パーセントの安全マージン(バッファ)を上乗せしたレートで販売価格を決定。例:1USD=140円で設定すべきところを、1USD=145円で設定するなどで為替変動のリスクを回避する

上記のように、越境EC特有の構造を理解し、対策をうつことで、購入者にとって納得のいく価格で商品を供給でき、かつ、商品を販売するたびに自社が損をするというような状況も回避できます。

よくある失敗2:現地市場の「解像度」が低いマーケティングの実行

次にマーケティングの失敗を説明します。越境ECの成功に欠かせないのが、自社が展開する「海外市場の理解」です 。海外市場の理解とは、その現地で利用される競合となるECの存在、決済手段、商習慣、利用されるSNSなどその現地を様々な側面から理解することです。失敗する企業の多くは、マーケティング戦略を「英語対応」などの言語対応、そして全世界共通の「Google広告」などの広告対応だけで済ませてしまいます。しかし、各国で利用されるSNSや検索エンジン、そして商習慣は大きく異なり、日本の常識は通用しません。

また、商品の競争優位性を「勘」で判断し、「人口が多いから」「なんとなく人気がありそうだから」といった「勘」や「勢い」で市場を選定してしまうことも、失敗の典型例です 。越境ECは難易度が高いため、ゼロからニーズを創出するのではなく、「顧客ニーズがすでに顕在化しているか」を事前に見極めることが重要です。

【よくある失敗例】

  • 各地で利用されているSNSやツール、購入者が商品に辿り着くまでのカスタマージャーニーを理解しないまま、日本でよく利用されるLINEのマーケティング戦略を転用し、現地のローカルツール(例えば、Naver(韓国)Dǒuyīn(中国)の理解が浅いままにマーケティングを実施してしまう
  • 現地の競合ECを調査しきれないままに越境ECを開始してしまい、購入者がそれぞれのECをどのように使い分け、各カテゴリの商品において、何を求めているかわからないままに越境ECを開始してしまう
  • 市場ポテンシャルは大きいが、自社商品が現地競合品に対して価格や機能面で優位性がなく、越境ECでわざわざ購入する「付加価値」がないため、売上が立たない

【事前準備時における対策】

>各地で利用されているSNSやツール、購入者が商品に辿り着くまでのカスタマージャーニーを理解しないまま、日本でよく利用されるLINEのマーケティング戦略を転用し、現地のローカルツール(例えば、Naver(韓国)やDǒuyīn(中国)の理解が浅いままにマーケティングを実施してしまう

  • ローカルツールのリストアップとカスタマージャーニーの再構築:現地の消費者が「何を求めているか」「どのツールを使っているか」を深く理解することが重要。現地の情報収集源から購入、そしてリピートに至るまでのプロセスを再設計。例えば、韓国の場合だと「Naverで検索 → Naverブログのレビューを読む → KakaoTalkで友人に相談 → ECサイトで購入 → SNSにレビュー投稿」といった現地特有の購買行動に基づいたコンテンツと導線を準備できるように、顧客理解を深める

各国でどのようなツールが利用されているかはこちらにまとめておりますので、ご覧ください。

>現地の競合ECを調査しきれないままに越境ECを開始してしまい、購入者がそれぞれのECをどのように使い分け、各カテゴリの商品において、何を求めているかわからないままに越境ECを開始してしまう

  • ユーザーインタビュー等により現地競合ECの利用実態と「役割」と「使い分け」の把握:自社と同じカテゴリの商品を扱っている現地の主要ECをリストアップし、商品のラインナップ、価格帯、割引頻度、配送スピード(リードタイム)、返品ポリシーを徹底的に調査。そして、消費者が大手モールと専門ECサイトをどのように使い分けているかを分析する。その上で、競合ECのレビューやQ&Aを分析し、「現地消費者が既存の商品に不満に思っている点」「越境ECだからこそ求めている付加価値」を抽出し、自社の競合優位性を見つける

>市場ポテンシャルは大きいが、自社商品が現地競合品に対して価格や機能面で優位性がなく、越境ECでわざわざ購入する「付加価値」がないため、売上が立たない

この点については、別の記事で市場展開時にどのような点を考慮して市場を選定すべきかをまとめています。ぜひそちらの記事で詳細をご覧ください。

展開国選定の決定方法

  • どの国から展開すべきか、市場を選定するために重要になる6つのポイント
  • 海外市場で自社商品のニーズがどの程度顕在化しているかを知る方法
  • 自社商品の競争優位性をどのように構築するか

マーケティングにおいては、まず最初のステップとしては、上記3点を確実に抑えておきましょう。

よくある失敗3:各国の法規制・税制リスクへの無防備さ

越境EC事業者が最も見落としがちで、かつ最大の致命的なリスクとなりうるのが、各国の法規制です 。失敗する企業は、「日本の法律は海外でも通用するだろう」という誤った認識のもと、無知のまま事業を進め、巨額の罰金や事業停止のリスクに直面します。

【よくある失敗例】

  • 欧州連合(EU)向けECサイトでGDPR(一般データ保護規則)、アメリカ向けECサイトでCCPA(カリフォルニア個人情報保護規制)を遵守せず顧客データを収集し、高額な制裁金(最大で売上高の4%)を科される
  • 韓国など、日本よりも消費者保護が手厚い国では、商品に欠陥がなくても一定期間内(例:7日以内)であれば無条件で返品・返金を受け付けるクーリングオフ制度が存在が、これを知らずに拒否し、大量のクレームにつながる。あるいは、大量の返品が発生する
  • 輸出しようとした化粧品やサプリメントに、対象国で「医薬品」と見なされる成分や、「使用禁止」と定められている成分が含まれており、通関で差し止められる
  • 子供用のおもちゃ、電化製品、医療機器などの商品において、CEマーク(EU)やKCマーク(韓国)など、現地の安全基準を満たすことを示す必須の認証マークを付与しておらず、罰則の対象となる

【事前準備時における対策】

  • 専門家への継続的な相談:進出予定国または地域の法律に精通した国際弁護士、税理士(会計士)、および通関士を事業開始前に確保し、顧問契約を結ぶなどして、継続的に相談できる体制を構築。越境ECの法規制は広範かつ頻繁に改正されるため、継続的に相談できる体制を構築しておくことが重要
  • 法的要件をクリアするための越境ECサイト・ポリシーの明確化:ECサイト上に掲示する「プライバシーポリシー」「利用規約」「返品・返金ポリシー」を、ターゲット国の法律に準拠した内容で作成し、現地語で正確に表示。AI翻訳に頼らず、ネイティブチェックを入れることが必須。また、GDPRなどの個人情報保護法に対応するための個人情報取扱対応ポリシーとマニュアルを作成し、越境ECに実装する
  • 商品の適合性確認とコンプライアンス体制の組み込み:化粧品・食品・サプリメントなどの規制対象商品については、ターゲット国で使用・輸入が禁止されている成分や規制されている表示方法のリスト(NGリスト)を作成し、商品開発・選定部門と共有する。特定の認証マーク(例:CEマーク、KCマーク)が義務付けられている商品について、輸出前に認証を取得し、商品本体やパッケージに正しく表示するプロセスを確立する。上記を越境EC開始前にダブルチェックできるようなコンプライアンスチェック体制を構築する

よくある失敗の中で、直接的に自社に影響を及ぼすのがこの法規制への対応です。この点が越境ECにおいて最も難しく、だからこそここを突破できた企業は優位性を持つことができます。自社だけでは対応しきれないことが多いため、外部専門家を活用しながら、丁寧に進めていきましょう。

よくある失敗4:越境事業に耐えられない不十分な組織体制

越境ECは、多岐にわたる専門知識(マーケティング、物流、法務、CSなど)を必要とします。そのため、必要な専門人材も多岐に渡ります。越境ECを運営する適切な組織体制や人材がいなければ、事業は停滞します。失敗する企業は、国内の兼任担当者だけで事業を立ち上げようとし、言語対応やトラブル対応の質が低下したり、上述のような様々な失敗に対応しきれなくなることが多々あります。

自社で全ての体制を取り揃える難易度は非常に高いですが、外部パートナーの力も活かしながら、万全の体制を作っていきましょう。

【よくある失敗例】

  • 国内ECの担当者が越境ECを兼任し、業務過多になる。特に、新しい国の商習慣調査、法務チェック、多言語対応などの専門業務が後回しになり、プロジェクト全体が停滞する
  • ECサイトの翻訳やカスタマーサポート(CS)をAI翻訳や日本語の話せる外国籍社員一人の属人的なスキルに頼りすぎる。現地語のニュアンスや文化的な背景を理解した対応ができず、顧客の不信感を招く
  • 越境ECの全てをコンサルタントや代理店に丸投げし、自社内にノウハウやデータが蓄積されない。パートナーとの契約終了後やトラブル発生時に、事業継続が困難になる
  • マーケティング部門(市場ニーズ)と物流部門(コスト・リードタイム)や法務部門(規制)が連携せず、それぞれが最適化されていない。例えば、売れても赤字になる価格設定や、プロモーション中に法規制に抵触する表現を使ってしまう

【事前準備時における対策】

  • 越境ECを国内事業から独立させ、専任チームを設置。チーム内に「マーケティング」「物流・CS」「法務・財務」の責任者(オーナー)を明確に配置し、兼任による業務遅延を防ぐ
  • 現地語でのコミュニケーション能力だけでなく、現地の商習慣や文化を深く理解できる人材(ネイティブまたは高度な専門知識を持つ人材)を、社員または外部パートナーとして確保・育成する
  • マーケティング、物流、法務、財務の各部門が参加する部門横断的な定例会議を設置。これにより、「プロモーションで売れすぎたが物流が対応できない」「関税コストを無視した価格設定になっている」などの部門間のミスマッチを早期に発見・解消する
  • 外部パートナー(代理店、コンサル)も積極的に活用しつつ、「自社に残すべきノウハウ」(顧客データ、成功・失敗事例、運用マニュアル)を明確に定義し、契約書に明記。契約終了時の引継ぎプロセスも事前に確立する

まとめ

越境ECの成功は「勘」ではなく「データ」と「体系的な準備」で戦う時代です 。今回挙げた4つ「収支・物流の複雑性」「市場解像度の低さ」「法規制リスク」「組織体制の不備」は、すべて国内EC事業者が「国境を越えること」で直面する特有の課題です。

越境ECは「モデルの理解」「市場の理解」「法規制の理解」「物流の理解」「組織の構築」といった多面的な事業であり、いきなり個別のノウハウに飛びつくのではなく、まずは事業全体を俯瞰し、検討すべき論点を網羅的に把握することが成功への第一歩となります。

まずは、多面的に論点を整理し、自社に足りていないものを洗い出すところから開始し、万全の状態で世界に展開できるようにしていきましょう。

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