M&Aを積極的に活用して成長を狙うことを打ち出す企業が増えてきました。今後のグロース企業や上場を目指す企業にとっても参考になるのではないでしょうか。その一つの事例企業である「TWOSTONE&Sons」社についてまとめます。
株式会社TWOSTONE&Sonsの概要
会社概要
株式会社TWOSTONE&Sons(旧社名:株式会社Branding Engineer)は、2013年10月2日に設立され、東京都渋谷区に本社を構えています。代表取締役CEOは河端保志氏、COOは高原克弥氏です。資本金は144,953千円で、従業員数は368名(2023年8月31日時点)です。2020年7月7日に東京証券取引所マザーズ(現:グロース市場)に株式を上場しました。
対象市場・競合状況
TWOSTONE&Sonsは、ITエンジニアのマッチングサービスやデジタルマーケティングを中心に事業を展開しています。主な市場は日本国内で、ITエンジニアの需要が高まる中、フリーランスエンジニアのマッチングサービスやITコンサルティングサービスを提供しています。競合には、他のIT人材派遣会社やデジタルマーケティング企業が含まれます。
事業概要
TWOSTONE&Sonsは、以下の2つの主要セグメントで事業を展開しています:
- エンジニアプラットフォームサービス:主に「Midworks」事業を通じて、ITエンジニアと企業をマッチングするサービスを提供しています。また、プログラミング教育や転職支援サービスも行っています。
- マーケティングプラットフォームサービス:自社メディアの運営やWEBマーケティングコンサルティングサービスを提供しています。
経営戦略
1. 事業成長プラットフォームの構築
TWOSTONE&Sonsは、企業と人材の価値向上を目指した「事業成長プラットフォーム」を構築しています。これにより、エンジニアリングやマーケティング領域に留まらず、企業の成長に不可欠な全ての領域での成長を支援しています。
2. 積極的な採用投資
TWOSTONE&Sonsは、幹部人材や営業人材の積極的な採用を継続しています。特に、コンサルタントや上流案件を開拓するための人材を中心に採用を強化し、グループ全体の営業力と組織力の底上げを図っています。
3. 中長期的な成長投資
TWOSTONE&Sonsは、中長期的な成長を見据えた積極的な成長投資を継続しています。特に、エンジニアの稼働数増加や売上・利益単価の向上を目指し、戦略策定から開発現場までの一気通貫型支援体制の構築を進めています。
4. 戦略的なM&A
同社は、戦略的なM&Aを積極的に実行しています。M&Aを通じて、既存事業の成長に加え、非連続的な成長を目指しています。特に、エンジニアプラットフォームサービスの周辺領域を中心に、ノウハウの活用、事業領域の拡大、リソースの拡大を実現するためのM&Aを行っています。
5. ガバナンス強化
ホールディングス化に伴い、グループ全体のガバナンスを強化しています。これにより、迅速な経営判断と機動的な管理体制の構築を目指しています。また、M&Aによって増加するグループ会社に対して、オンボーディング速度を高めるための管理体制を整備しています。
クロスSWOT分析
Strengths(強み)
- エンジニアプラットフォームの強力な基盤:主力サービスである「Midworks」は、フリーランスエンジニアと企業のマッチングサービスとして高い評価を得ており、登録者数も急増しています
- 積極的なM&A戦略:戦略的なM&Aを通じて事業領域を拡大し、非連続的な成長を実現しています。最近ではMapleSystems社の買収を行い、グループ全体のエンジニア採用力を強化しました
- ホールディングス体制によるガバナンス強化:2023年6月にホールディングス体制に移行し、経営の機動性や柔軟性を向上させました。これにより、迅速な経営判断が可能となり、グループ全体のガバナンスを強化しています
- 多様な事業展開:エンジニアプラットフォームサービスに加え、マーケティングプラットフォームサービスも展開しており、幅広い事業領域での成長を目指しています
Weaknesses(弱み)
- 利益率の低下:積極的な成長投資の結果、販管費が大幅に増加し、営業利益が前年比91.3%減少しました
- 競争の激化:ITエンジニアのマッチング市場は競争が激しく、他の強力な競合企業が存在します。市場シェアの維持・拡大が課題です
- 依存度の高い事業構造:売上の大部分がエンジニアプラットフォームサービスに依存しており、事業の多角化が進んでいない点がリスクとなります
Opportunities(機会)
- ITエンジニア需要の増加:経済産業省の調査によると、2030年には最大79万人のITエンジニア不足が予測されており、エンジニアプラットフォームサービスの需要が高まる見込みです
- DX推進による市場拡大:企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に伴い、ITエンジニアの需要が増加しており、これに対応するサービスの提供が成長機会となります
- 海外市場への進出:海外機関投資家向けに新株式を発行し、資金調達を行うことで、海外市場への進出やグローバルな成長が期待されます
Threats(脅威)
- 経済環境の変動:経済環境の変動や景気後退が、企業のIT投資に影響を与える可能性があります。これにより、エンジニアプラットフォームサービスの需要が減少するリスクがあります
- 法規制の変化:インボイス制度などの法規制の変化が、利益面に影響を与える可能性があります。これに対する対応策が求められます
- 競争の激化:同業他社との競争が激化する中で、差別化戦略や競争優位性の維持が課題となります
クロスSWOT分析
- Strengths × Opportunities:強力なエンジニアプラットフォームを活用し、ITエンジニア需要の増加に対応することで、さらなる市場シェアの拡大が期待できます。
- Strengths × Threats:ホールディングス体制によるガバナンス強化を活かし、経済環境の変動や法規制の変化に迅速に対応することで、リスクを最小限に抑えることができます。
- Weaknesses × Opportunities:利益率の低下を克服するために、ITエンジニア需要の増加に対応する新たな収益源を開拓し、事業の多角化を図ることが重要です。
- Weaknesses × Threats:競争の激化に対して、差別化戦略を強化し、競争優位性を維持するための取り組みが必要です。また、利益率の改善に向けたコスト管理も重要です。
M&A戦略の概要
TWOSTONE&Sonsは、既存事業の成長に加え、戦略的なM&Aを通じて非連続的な成長を目指しています。M&Aを通じて、エンジニアリングリソースの拡大、事業領域の拡大、ノウハウの相互活用を図り、グループ全体の成長を加速させることを狙っています。
目的
- 成長の加速: 既存事業の成長に加え、M&Aを通じて非連続的な成長を実現し、企業価値の最大化を目指す。
- リソースの拡大: エンジニアリソースの拡大を図り、グループ全体のエンジニア採用力を強化する。
- 事業領域の拡大: 新たな技術領域や市場への進出を図り、事業の多角化を推進する。
- シナジー効果の創出: 買収先企業とのシナジー効果を最大化し、営業効率や経営効率の向上を図る。
M&A事例
1. MapleSystems社の買収
- 買収時期: 2024年2月
- 概要: MapleSystems社はエンジニア採用に強みを持つ企業であり、TWOSTONE&Sonsはこの企業を買収することで、グループ全体のエンジニア採用力を強化しました。
- シナジー効果: MapleSystems社のエンジニア採用力と知見をグループ全体に取り込むことで、正社員エンジニアの採用基盤を構築し、フリーランスエンジニアと組み合わせたチーム提案の機会を増加させることが期待されています。また、MapleSystems社の売上・利益の連結は2024年8月期第3四半期から開始される予定です。
2. 株式会社UPTORYの買収
- 買収時期: 2023年4月
- 概要: UPTORYはマーケティングプラットフォームサービスを提供する企業であり、TWOSTONE&Sonsはこの企業を買収することで、マーケティング領域の強化を図りました。
- シナジー効果: マーケティングプラットフォームサービスの強化により、グループ全体のマーケティング力を向上させ、顧客への提供価値を高めることが期待されています。
3. 株式会社Yellowstone Consultingの買収
- 買収時期: 2023年3月
- 概要: 戦略コンサルティングサービスを提供するYellowstone Consultingを買収し、グループのコンサルティング能力を強化しました。
- シナジー効果: 戦略コンサルティングのノウハウをグループ全体に展開し、上流工程からの一気通貫型支援体制を構築することで、売上・利益の単価向上を狙っています。
4. 株式会社ジンアースの買収
- 買収時期: 2023年3月
- 概要: ジンアースはITコンサルティングおよび受託開発サービスを提供する企業であり、TWOSTONE&Sonsはこの企業を買収することで、ITコンサルティングおよび受託開発領域の強化を図りました。
- シナジー効果: ITコンサルティングおよび受託開発のノウハウをグループ全体に展開し、顧客への提供価値を高めることが期待されています。
M&Aのターゲット企業
- 得意分野に限定: エンジニアリングリソースの拡大や事業領域の拡大を狙い、TWOSTONE&Sonsの集客力とマッチング力を活用できる企業をターゲットとする。
- のれん負けしない企業: 適切なEBITDA目標を設定し、のれん償却後に利益が赤字とならない企業を選定する。
- 確度の高いPMI: エンジニア単価の適正判断やクライアントとの親和性を考慮し、確度の高いPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)を実施する。
M&Aの進捗
- 検討数の増加: 戦略的なM&Aを実行できるチーム体制を確立し、前年同期比で案件検討数が33.6%増加。
- PMIの推進: TSR社とTSRソリューションズ社の合併を推進し、営業効率や管理工数の削減を図る。
今後の狙い
- 戦略的M&Aの加速: 海外募集による新株式発行で調達した資金を活用し、より大規模な企業の買収やM&Aの実行数を増加させる。
- 一気通貫型支援体制の構築: 上流工程から実動部分までの一気通貫型支援体制を構築し、売上・利益の単価向上を目指す。
- 新たな技術領域への進出: AIエンジニアやセキュリティエンジニアなど、最先端技術領域への拡大を図る。
- HD化により、幹部人材や営業人材、コンサルタントの積極的な採用を進め、組織体制を強化します。これにより、上流工程から実動部分までの一気通貫型支援体制を構築し、売上・利益の単価向上を狙います。また、若手人材の採用や育成を強化し、将来のリーダーを育成することで、組織の持続的な成長を支えます。
- また、グループ間の連携を強化し、子会社間のシナジー効果を最大化します。具体的には、子会社間の組織再編を通じて営業効率や管理工数を削減し、売上・利益の増加を図ります。また、エンジニアやクライアント企業のクロスセルを活発化させることで、グループ全体の成長を促進します。
海外公募増資の概要と目的
TWOSTONE&Sonsは海外公募増資を通じて、財務基盤の強化と成長戦略の実行を目指しています。
概要
株式会社TWOSTONE&Sonsは、2024年8月期第2四半期において、海外機関投資家向けに総額19.8億円の資金調達を実施しました。この増資により、同社の株式の希薄化率は約2.9%となります。
目的
- 財務体質の強化:増資により得た資金を活用して、財務体質を強化し、持続的な成長を支える基盤を構築します
- 成長投資の加速:コンサルタントの採用投資を強化し、戦略策定から開発現場までの一気通貫型支援体制を構築します。また、1社あたりの参画エンジニア数を増加させる営業体制の構築を目指します
- 戦略的M&Aの実行:戦略的なM&Aを加速させるための待機資金として活用し、既存事業の成長に加え、非連続的な成長を実現するためのM&Aを推進します
- 組織体制の強化:中長期にわたる持続的な成長を可能にするための組織体制を強化し、大手企業へのアプローチを強化できる営業体制を構築します