SHIFTはグループ全体の戦略に関する豊富な開示に加えて、内外に対して「M&Aとは」「PMIとは」、「それらをどう戦略的に活用するか」をメッセージングしつつエグゼキューションの精度を高めているのが印象的です。今回はSHIFTの開示資料から読み取れる内容をまとめます。

SHIFTの概要

会社概要

  • 設立: 2005年9月
  • 代表取締役社長: 丹下 大
  • 事業内容: ソフトウェアの品質保証、テスト事業
  • 上場市場: 東京証券取引所プライム市場
  • 従業員数: 13,069人(連結)、7,166人(単体)

対象市場・競合状況

  • 対象市場: 国内IT市場のうち約3分の1を占めるソフトウェアテスト市場(約5.5兆円)
  • 競合状況: ソフトウェアテスト業務のアウトソース率は1%と低く、エンタープライズ領域での競合はほとんど存在しない。SHIFTはこのブルーオーシャン市場で独走状態

事業概要

  • 主力事業: ソフトウェアの品質保証およびテスト事業
  • サービス内容: マニュアルテスト、オートメーションテスト、セキュリティーテスト、品質保証コンサルティングなど
  • グループ会社: 株式会社SHIFT PLUS、株式会社SHIFT SECURITY、Airitech株式会社など、多数の子会社を持ち、各種ITサービスを提供

経営戦略

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成長戦略「SHIFT3000」

SHIFTは、2028~2030年までに売上高3,000億円を達成することを目標とした中期成長戦略「SHIFT3000」を掲げています。この戦略は、以下の主要な取り組みを含んでいます。

1. 顧客提案体制の強化

  • 大規模提案チームの設立: 大規模案件の受注を目指し、特別部隊「戦略イニシアティブ」を設立。これにより、100億円以上の案件や50~100億円の案件をターゲットにしています。
  • EVAC(伴走型戦略コンサル): 経営層へのリーチを拡大し、企業価値向上のためのコンサルティングを提供。これにより、大型提案の芽を育てる。

2. 採用戦略

  • プロフェッショナル層とハイスキル層の採用: 年平均2,500人の採用を目指し、特にプロフェッショナル層とハイスキル層の採用に注力。これにより、成長を支える人材基盤を強化。
  • キャプテン制度: 現場でのオポチュニティ発掘を促進し、稼働率改善に貢献。1,092人のキャプテンのうち約70%がオポチュニティを発掘。

3. 新規サービス創出とAI活用

  • AI活用: AIを活用した新規サービスの創出や社内サービスの外販を進める。これにより、将来投資を着実に進め、成長を加速。
  • 新規サービスの創出: 生成AIを活用したドキュメントリバースサービスや、情シスの課題解決を目指したSaaS「ワスレナイ」など、多様な新規サービスを展開。

財務概要

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FY2024 2Q業績

  • 売上高: 523億500万円(前年同期比29.6%増)
  • 営業利益: 46億8500万円(前年同期比7.8%減)
  • EBITDA: 58億8900万円(前年同期比1.0%増)

売上高の成長

  • 成長率: 前年同期比で約130%の売上高成長を実現。
  • 顧客単価の拡大: ロイヤルカスタマーの単価が順調に拡大し、単体の新規顧客の獲得においても大きな成果を上げている。

販管費の状況

  • 人件費の増加: プロフェッショナル層とハイスキル層の採用に注力した結果、人件費が大幅に増加しています。
  • 広告宣伝費の増加: 広告宣伝活動の強化により、広告宣伝費が前年同期比で大幅に増加しています。
  • 支払報酬の増加: M&A関連の支払報酬が増加しています。
  • のれん償却費の増加: M&Aに伴うのれん償却費が増加しています。

販管費比率: FY2024 2Qの販管費比率は21.6%で、前年同期の19.3%から2.4ポイント増加しています。成長戦略「SHIFT3000」を推進するために、積極的な投資を行っており、その結果として販管費が増加していますが、長期的には効率化を図り、販管費比率の改善を目指しています

利益率の改善

  • 売上総利益率: 1Q比で着実に改善しているが、本格的な復調は閑散期を終えた4Q以降となる見込み。
  • 稼働率の改善: エンジニア単価も回復が始まり、稼働率の改善によりソフトウェアテスト関連サービスの収益性が改善傾向にある。

連結貸借対照表の状況

資産は特に固定資産の増加が顕著です。負債も大幅に増加しており、特に短期借入金と長期借入金の増加が目立ちます。自己資本比率は減少していますが、依然として高い水準を維持しています。

  • 総資産: 622億4100万円(前年同期比39.9%増)
    • 現金及び預金: 193億5100万円(前年同期比16.9%増)
    • 有形固定資産: 65億5000万円(前年同期比233.9%増)
    • のれん: 127億8900万円(前年同期比42.2%増)
  • 総負債: 298億9600万円(前年同期比98.0%増)
    • 短期借入金: 59億7000万円(前年同期比141.7%増)
    • 1年内返済予定の長期借入金: 20億7400万円(前年同期比94.6%増)
    • 長期借入金: 54億2700万円(前年同期比296.9%増)
  • 自己資本: 317億6300万円(前年同期比14.2%増)
    • 自己資本比率: 51.0%(前年同期比11.5ポイント減)

M&A戦略の概要

概要

SHIFTは、売上高1,000億円達成を目指し、積極的にM&Aを推進しています。これまでに31件のM&Aを実施し、2023年には上場企業で最多の10件のM&A案件をリリースしました。SHIFTのM&A戦略は、企業価値の向上とグループ全体の成長を目的としています。

特徴

1. PMIの型化

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  • 最初の100日間のプログラム: SHIFTは、M&A後の最初の100日間で「SHIFT WAY」を学ぶプログラムを実施しています。この期間中に、新たに参画した企業はSHIFTのビジョンやミッション、業務プロセスを学び、共通の基盤を築きます。
  • 定期的な経営合宿: SHIFTは、グループ全体のビジョンの共有を目的として、定期的に全グループ会社の社長や経営メンバーが参加する経営合宿を開催しています。この合宿では、各グループ会社同士のビジョンの共有やシナジー効果の創出に向けた関係構築が行われます。
  • PMI推進専属チーム: SHIFT社内にはPMI推進専属チームが設置されており、このチームが統合プロセスをリードします。これにより、各グループ会社がSHIFTの強みを最大限に活用できるようサポートしています。

2. 遠心力経営

SHIFTは、グループ会社の自主性を尊重する「遠心力経営」を採用しています。参画後も社名や経営陣、人事制度は変更せず、各グループ会社が独自の経営手法を維持しながら、共通化可能な部門(人材採用、営業、経理業務など)はSHIFT本体に集約しています。

3. 資金調達と投資基準

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SHIFTは、エクイティと銀行借入をバランスよく活用して買収資金を調達しています。具体的には、FY2019にはエクイティで52億円、FY2020には銀行借入で40億円を調達しました。また、M&Aの対象企業は、SHIFTグループの成長戦略にフィットし、一定の収益性を持つ企業に絞り込んでいます。

  • 低バリュエーションのM&A
    • EBITDA倍率: 5倍程度の企業を対象とする
    • のれん償却後の営業利益: 買収時に発生するのれんを償却した後でも営業利益が黒字であること
  • SHIFT既存サービスとの高い親和性
    • プライム商流の活用: エンド顧客と直接取引することで高い単価と粗利率を確保
    • 採用力の活用: 年間2,000人の採用力を活用し、エンジニアの量と質を確保
  • ガバナンスとリスク管理
    • 最大のリスク許容度: SHIFTの取締役会で決定。投資委員会の設置: 投資の推進と管理を行い、リスクをチェック。

4. 価格競争を避ける設計

SHIFTは、価格競争に陥らないようにするため、M&Aの設計に工夫を凝らしています。具体的には、ジョイン後のインセンティブに徹底的にこだわり、価格以外の要素で勝負することを重視しています。

5. シナジー効果の重視

SHIFTは、M&Aを通じてシナジー効果を最大化することを重視しています。資本提携や業務提携では得られない営業体制や採用力の強化を目指し、M&Aを選択しています。

6. IR戦術と透明性

SHIFTは、M&AプロセスにおいてIR(投資家向け広報)チームを早期から関与させ、透明性の高い情報開示を行っています。これにより、投資家との信頼関係を築き、企業価値の向上を図っています。

7. 成長戦略の多様化

SHIFTは、国内外のM&Aを推進するために専門チームを設置し、クロスボーダー案件にも対応しています。また、IPOを目指す企業に対してもM&Aを選択肢として提供し、スタートアップの成長を支援しています。SHIFTのM&A戦略は、迅速な統合プロセス、グループ会社の自主性尊重、資金調達の多様化、シナジー効果の最大化、透明性の高い情報開示、そして多様な成長戦略を特徴としています。これにより、SHIFTは持続的な成長と企業価値の向上を実現しています。

全体として感想

  • M&Aを自社の成長戦略に組み込み、成功率を上げるために型化し、科学的に検証を行っています。
  • 成長戦略に組み込むことで、社内外のM&Aに対する意識が高まり、ソーシングやPMIにも効果があります。
  • 型化によりエグゼキューションの効率化を実現し、年間数百件のソーシングから検討を行っています。
  • KPIの設定や分析を通じて、経営判断が客観的になり、M&Aの戦略活用筋としての信頼性が増していると言えます。

引用

  • https://www.shiftinc.jp/ma/outline/
  • https://www.shiftinc.jp/ma/faq/
  • https://www.shiftinc.jp/ir/management/midterm/
  • https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS95685/00391018/f382/447b/a28b/bd0c8b687c10/140120240411569096.pdf
  • https://www.gckk.co.jp/event/gcs008-report07-02/
  • https://www.cdn.shiftinc.jp/uploads/2022/04/01145759/994dc46a929cdf8ee1f4370b582a1229.pdf