先日、ライドシェア事業を推進するスタートアップであるnewmoから面白い採用募集がされていました。

お仕事の内容
■メルカリの元日本事業責任者の青柳が2024年1月に創業。ライドシェア事業を国内で展開すべく事業化していく当社にて、M&Aスペシャリストとしてタクシー会社のM&Aを中心に実行していただきます。

【詳細】2024年4月より解禁になるライドシェア事業を推進すべく、全国にあるタクシー会社のM&Aを実行いただきます。M&A先の選定から実際の交渉までを中心にお任せします。この事業を通じて地域交通の発展、ひいては観光資源を最大限活用できる日本を実現する地方創生にもつながる事業の鍵となり事業を推進いただきます。 ※事業参入エリア:大阪、愛知、神奈川、北海道、沖縄、京都、長野など全国展開予定

必要な経験・能力等
《VCから注目を集め国内のライドシェア領域を推進するスタートアップ》 【必須】■M&Aの実務ご経験をお持ちの方(バリューアップよりソーシングにお強みのある方) ※事業の鍵となるミッションを推進

賃金形態
【備考】月給¥670,000~ 基本給¥495,722~ 固定残業代¥174,278~を含む/月

https://www.r-agent.com/kensaku/kyujin/20240119-072-01-015.html

<予定年収>
800万円~1,200万円
<月給>
670,000円~1,000,000円(一律手当を含む)

https://doda.jp/DodaFront/View/JobSearchDetail/j_jid__3010676739

【必須】
・M&Aの実務ご経験をお持ちの方
【コンピテンシー】
・持続的改革を実行するための精神(Grit)
・自走力
・誠実さ
・チームへの信頼、貢献
・熱意
・ステイクホルダーへのリスペクト
・高い目標意識
・リスクと安全のバランスを取る力

https://www.r-agent.com/kensaku/kyujin/20240119-072-01-015.html

「M&Aスペシャリスト」として、同社のM&Aに関する推進を行う役割のようです。

本記事では、newmoの各種リリースから読み取れる戦略と同募集要項から考えれる示唆について、まとめようと思います。

newmoの概況

newmoは、ドイツ証券からグリーCFO(最高財務責任者)へ転身し米国事業を統括、またメルカリグループではメルペイCEO、メルカリ国内事業統括などを歴任した青柳直樹氏が、CEOとなり設立した企業です。

newmoは2024年1月設立直後のシードラウンドとしては異例の規模となる約15億円の資金調達を2024年2月に実施し、直近7月にはシリーズAラウンド1stクローズとして約100億円の資金調達を実施しています。

また資金調達に加えて、2024年3月には岸和田交通グループ(大阪府岸和田市)のタクシー会社、岸交に資本参画し、同6月には大阪の老舗タクシー会社「未来都」の経営権を取得し、「newmoグループ」として合計タクシー車両数646台に到達、大阪5位の規模まで達しています。

newmoの戦略

このように見ると、newmoはライドシェアの解禁を見据えた事業の推進を行う一方で、既存のタクシー会社への資本参加を通じて、着実に事業成長を行っていると考えられます。

このような戦略は、いわゆる「ロールアップ」M&Aを実施しているものと考えられます。

成長戦略としての活用がより一般化していく「ロールアップ型 M&A」とは

近年、M&Aは企業成長の戦略として欠かせないものとなっています。中でも「ロールアップM&A」は、同業種の中小企業を次々と買収・統合することで、短期間で規模を…

同社ではライドシェアを見据えた事業、サービスやアプリの開発の一方で、ロールアップを通じたローカルシェア獲得及びタクシー事業の経営実践とノウハウ獲得も行いながら、事業を多面的に展開している様子が伺えます。

newmoの経営陣を見ると、代表CEOの青柳氏はもちろん、CFO, CBO, COOの方々を筆頭に、M&Aに明るい方が多いチームとなっています。

これらを見ると、事業戦略の中で、経営チームとしても一定の勘所があるM&Aを通じた成長も、戦略オプションとして活用していく方針であることが伺えます。

newmo「M&Aスペシャリスト」の求人内容から考えられる示唆


上記の通り、各人材紹介企業から要項が出ていますが、下記のようにまとめられると考えられます。

  • ソーシングも含めたM&Aの実務ができる
  • 事業と密接に関わるため、チームとして活躍ができる
  • 事業の推進もする姿勢を持っている

つまり、「M&Aアドバイザーのような専門家的経験」と「事業開発としての事業実務推進の両方があると望ましいとも解釈できると思います。

日本においては、片方のスペシャリストは多くいると思いますが、両方を経験している人はなかなかまだ多くないのではないのでしょうか。

事業会社とは異なりますが、いわゆるPEファンドでは、両方の知識や経験が必要になる、あるいは経験を得るようなケースはあるかと思われます。

そう考えると、規模は通常の国内スタートアップでは異例であるとはいえ、スタートアップからこのような求人が出てくることの意義は深いと思っています。

つまりM&Aは、いわゆる大企業、または中小〜中堅企業の事業承継やDX化の文脈で語られることが多いですが、そのようなケイパビリティとキャパシティがあれば、事業のサイズやフェーズに関わらず、実践することができる戦略であると考えます。

上記の求人を見ても、国内企業やスタートアップにおける担当者の賃金目線として照らすと、CxOや役職者採用は除くと比較的高い水準と考えられるのではないでしょうか。

直近では、CFOの採用や経営企画担当を通じてM&A戦略を強化するケースも多いですが、既にM&Aに造詣の深い経営チームであることを鑑みると、このような「M&Aスペシャリスト」を切り出す程度に、newmoのやろうとしていることの範囲、量、数が多いのではないかと予想されます。

また「M&Aスペシャリスト」側の視点では、必ずしも経営チームでなくとも、そのような機会が切り出されてコミットできることは、「コト」に向かうことが楽しいと考える人にとっては非常にチャレンジングで面白い機会ではないでしょうか。
※ この記事は上記採用募集と、一切の関係はありません

別の視点では、切り出されるほどこの仕事自体が深く広がりがあり、考えること・やることの量が多い(汗)、とも言えると思います。

なお、このような職種を「Corporate Development」として扱う企業も多いです。Corporate Developmentについては、下記記事をご参照ください。

日本企業においてますます重要性を増す「Corporate Development」

日本では企業価値やROE、PBR等の向上や事業承継問題が叫ばれる中で、M&Aを含む戦略的アクションの重要性が一層増しています。その中で、体系立ってこれらの活動を推進…

Corporate Development人材の採用募集要項

下記の記事で「Corporate Development」の意義についてまとめましたが、今回は情報を集めた限りで各社がどのような役割を「Corporate Development」に期待しているかをま…

「Corporate Development」担当を社内に置くことの重要性の高まり

日本企業は、成熟市場、デジタル化の遅れ、資本効率性への圧力、事業承継問題、不確実性の高まりといった課題に直面しています。Corp Dev部門は、M&A、提携、投資を通…

newmoに限らずロールアップ型M&Aを実践する大企業、上場企業及びスタートアップも増えています。金余り、人材難及び時代に合わせた戦略変更に課題の多い日本企業においては、一つの有効な戦略であるように思います。

そのように考えると、newmoのような求人が各企業でより増えていくことが、資本市場の活性化や事業承継が叫ばれる日本においては、非常に意義のあることだと考えています。

つまり、国際的な競争力を更に高める必要がある日本において、次のようなサイクルを作ることができると考えています。

  • ファイナンスや事業及び経営視点を持って物事を推進できる人材が増える
  • そのような人材のチャレンジの機会が増える、あるいは大きくなる
  • より大きな資本を活用しながら、経営と事業を推進する企業が更に大きくなる

以上、newmoの「M&Aスペシャリスト」採用から、当該採用がどのような意義をもつかを考えてみました。皆さまどのように思われたでしょうか。