中小M&Aが日本経済において一層重要な役割を担うに伴い、中小M&A事業者が隆盛している一方で、課題も見えてきています。今回は中小M&Aガイドラインの改訂の方向性が中小企業庁から示される中で、その背景および骨子についてまとめます。
中小M&Aガイドライン改訂の背景について
「中小M&Aガイドライン」の改訂は、日本経済の活性化を目指し、中小企業のM&Aを促進する目的で検討されています。
その背景には、新しい資本主義実現会議における議論や自民党 新しい資本主義実行本部 経済構造改革委員会の提言がありました。
これらの会議や提言では、M&Aが従業員一人当たりの売上高を伸ばし、経済成長に貢献する可能性が強調されました。特に、中小企業のM&Aを促進することで、事業承継問題の解決や生産性向上につながることが期待されています。
一方で、中小企業のM&Aには、仲介手数料の不透明性やM&A後の統合プロセス(PMI)の難しさなど、様々な課題が存在します。ガイドラインの改訂は、これらの課題を解決し、中小企業が安心してM&Aに取り組める環境を整備することを目指しています。 具体的には、
- M&A仲介事業者による手数料体系の開示
- M&Aに関する中小企業への支援強化
- 事業再構築における経営者保証の見直し
などが検討されています。
中小M&Aガイドライン改訂の方向性について
本資料は、中小企業庁が「中小M&Aガイドライン」の改訂について検討した内容をまとめたものです。
M&Aは成長戦略として有効な手段だが、中小企業にとっては、仲介手数料の不透明性やM&A後の統合プロセス(PMI)の難しさなど、様々な課題がある。本資料では、これらの課題を解決し、中小企業が安心してM&Aに取り組めるよう、今後ガイドラインの改訂を検討しています。
具体的には、仲介手数料の透明化、広告・営業に関する規制強化、M&A後の紛争リスクへの対応などが検討されている。また、経営者保証や不適切なM&A事業者の排除についても言及されており、M&Aに関わる様々なリスクを軽減するための施策が盛り込まれています。
ガイドラインの改訂は、中小企業のM&Aを促進し、ひいては日本経済の活性化に貢献することが期待されます。
改訂の方向性案
1. 手数料と業務内容の整合性
- 中小企業がM&A支援機関を選ぶ際、手数料に見合う業務内容か判断するための考慮要素を提示
- M&Aプロセスごとのサービス内容と難易度
- サービスの質(専門性、経験、ネットワークなど)
- 手数料の算定基準(報酬基準額、最低手数料など)と考慮要素に基づいた丁寧な説明を仲介・FAに要求
- 手数料交渉への誠実な対応を仲介・FAに要求
2. 広告・営業の禁止事項
- 相手方の意思表示を無視した広告・営業の禁止
- 名称などを隠しての広告・営業の禁止
- 即時の判断を迫る広告・営業の禁止
- 虚偽や誤認を与える広告・営業の禁止(譲受・譲渡意向、譲渡額、企業情報など)
3. 利益相反行為の具体化
- 譲受側からの追加手数料取得とそれに伴う便宜供与の禁止
- リピーターへの優遇とそれに伴う便宜供与の禁止
- 正規の手数料以外に差額報酬を要求する行為の禁止
- 情報伝達の不履行、虚偽の情報伝達の禁止
- 一方当事者にのみ有利/不利な情報の秘匿の禁止
4. 最終契約・クロージング後のリスク事項
- 最終契約後に紛争につながるリスクがある事項を中小企業に明示
- 決済、最終契約からクロージングまでの期間、経営者保証、表明保証の範囲、DD
- 仲介・FAには、リスク事項に応じた調整・説明対応を要求
- リスクの認識に関わらず対応が必要な事項
- リスク認識後、最終契約締結前の対応が推奨される事項
5. 経営者保証の扱い
- 譲渡側に対するガイダンス
- 金融機関等への事前相談、専門家への相談を推奨
- 譲受側に対する留意事項
- 事前相談を拒否せず、秘密保持の対象から除外し、誠実に対応
- 仲介・FA、M&Aプラットフォーマーに対する留意事項
- 譲渡側に事前相談の選択肢を説明、秘密保持の対象から相談先を除外
- 金融機関等に対する留意事項
- 秘密保持の徹底
6. 不適切な事業者の排除
- 仲介・FA、M&Aプラットフォーマーに譲受側候補の信用調査を要求
- 過去のクレームを踏まえ、慎重なマッチング支援を要求
- 業界内での不適切な事業者の情報共有の仕組み構築を検討
7. 今後の論点
- ガイドラインの対象範囲の変更(後継者不在+成長型、譲受側)
- 専任条項・テール条項の検討
- 企業概要書への記載内容の提示
- 利益相反防止のための社内体制の検討
まとめ
「中小M&Aガイドライン」は、日本経済が直面する少子高齢化やコロナ禍の影響による中小企業の事業承継問題を背景に、M&Aを円滑に進めるためのものです。
今回の改訂は、M&Aに関する情報開示の強化や仲介者の役割明確化など、透明性を高めることで、中小企業が安心してM&Aに臨める環境を整備し、事業承継の選択肢を広げることが期待されます。
しかし、ガイドラインの改訂だけでは問題は解決しません。M&Aに関する情報提供や相談体制の強化、M&A後の企業統合支援など、包括的な施策が求められます。
今回の改訂は、中小企業の事業承継問題解決に向けた重要な一歩ですが、真に効果的な施策とするためには、官民一体となった取り組みが不可欠です。中小企業のM&Aが活性化し、日本経済の持続的な成長に貢献することを期待します。