要旨
今回は、資本コストや企業価値向上を意識した経営において重要な考え方となるであろう、外部資本の導入・活用を、サッポロホールディングスの不動産事業に対する取り扱いをもとに考えていきます。
自社の在り方や戦略に基づいて、何に集中すべきかを考えていくと、集中しないものも考えることになります。
その中で、ノンコアとされた事業をどう扱うべきか、様々な選択肢が考えらますが、外部資本を活用していくということ考えることも重要です。
なお、「ベストオーナー」という考え方に関しては、下記をご覧ください。
3DインベストメントによるサッポロHDへの株主宛の書簡公表
投資ファンドである3Dインベストメントパートナーズが、サッポロホールディングスの企業価値が低い原因とその解決策についてまとめた資料を2023年4月に公表しました。
サッポロHDの企業価値創造のために| 3Dインベストメント・パートナーズサッポロHDの企業価値創造のために| 3Dインベストメント・パートナーズは、サッポロHDの抱えている問題点を指摘するプレゼwww.compoundsapporo.com
2023年12月には、3Dインベストメントの持分比率は約16%となり筆頭株主になったと報道されています、
サッポロHD、ファンドの3Dが筆頭株主に - 日本経済新聞サッポロホールディングスは5日、シンガポールの投資ファンド、3Dインベストメント・パートナーズが筆頭株主となったと発表したwww.nikkei.com
3Dインベストメントパートナーズは、サッポロはビール業界において長年低収益に苦しんでおり、その原因は不動産事業にあると分析しています。サッポロは不動産事業からの安定収入に依存し、本来注力すべき酒類・食品飲料事業への投資を怠ってきたと指摘しています。
本資料は、サッポロが不動産事業をコア事業と位置付けた新中期経営計画の問題点、そして取締役会の監督機能の欠如を指摘し、サッポロの企業価値向上のためには、これらの問題に早急に対処する必要があると結論付けています。
不動産事業に対する評価のまとめ
3Dインベストメントパートナーズは、サッポロホールディングスが不動産事業をコア事業と位置付け、成長戦略に据えていることを問題視しています。その理由として、サッポロには不動産事業における経験や競争優位性が乏しいことを挙げています。
さらに、不動産市場は金利上昇局面にあり、不動産投資のリスクが高まっていることから、経験の乏しいサッポロが不動産事業に投資を集中することは、企業価値の毀損に繋がる可能性があると懸念しています。
また、3Dインベストメントパートナーズは、サッポロが過去に行った不動産投資は工場跡地の再開発が中心であり、純投資の経験は少ないと指摘しています。
新中期経営計画では、不動産投資の強化を掲げていますが、具体的な戦略やリスク管理体制が不明確であり、投資の失敗による損失発生の可能性を危惧しています。
これらのことから、3Dインベストメントパートナーズは、サッポロが不動産事業に注力するよりも、外部資本を活用し、コア事業である酒類・食品飲料事業に経営資源を集中させるべきだと考えていると推察できます。具体的には、不動産事業の売却やスピンオフ、あるいは不動産投資信託(REIT)への組み入れなどが考えられます。
これにより、サッポロは不動産事業から資金を調達し、コア事業の強化や成長戦略に投資することができます。
また、専門的な不動産事業者に運営を委託することで、より効率的な運用が可能になり、収益性の向上も期待できます。
書簡全体のサマリ
サッポロホールディングスの株価は2006年以降、競合他社と比較して大幅に下落しており、企業価値向上ができていません。その最大の原因は、世界的に見ても低い酒類事業と食品飲料事業の収益性にあります。
そして、低い収益性は不動産賃貸収入によって放置され、悪化し続けていると考えられます。
2022年11月に発表された新中期経営計画でも、不動産事業をコア事業と位置付け、投資を強化する方針を示していますが、これはさらなる収益性の悪化を招く可能性があります。
また、取締役会も専門知識や経験が不足しており、十分な監督機能を果たせていないと指摘されています。
サッポロの経営上の問題点
サッポロの株価は2006年以降、競合他社と比較して大幅にアンダーパフォームしています。2006年以降の株価リターンはマイナス3%と、世界の大手ビール会社の中で唯一マイナス成長となっています。
また、2008年にスティール・パートナーズから提示されたTOB価格もいまだに超えられていない状況です。
サッポロの低いリターンは、低い資本効率に起因しています。ROE(自己資本利益率)は世界の大手ビール会社の中で最低水準、ROA(総資産利益率)も最低となっています。
低い資本効率は、低い利益率と低い総資産回転率によって引き起こされています。低い利益率は、酒類事業と食品飲料事業の収益性が低いことが原因です。
サッポロの酒類事業の営業利益率は、世界の大手ビール会社の中で最低であり、食品飲料事業の営業利益率も世界的に見て非常に低い水準です。
新中期経営計画の問題点
2022年11月に発表された新中期経営計画には、主に3つの問題点があります。
1つ目は、不動産事業をコア事業と定義したことです。
これは、不動産事業からの安定収入に依存する経営姿勢を助長し、本来注力すべき酒類事業と食品飲料事業の収益性向上を妨げる可能性があります。
実際、新中期経営計画で示された利益率目標は、競合他社の半分程度に留まっています。
2つ目は、経験や競争優位性のない不動産への投資を強化する方針を打ち出したことです。サッポロは過去にも投資強化した分野で多額の損失を計上しており、今回も同様の事態を引き起こす可能性があります。
3つ目は、計画達成に向けた具体的なマイルストーンやアクションプランが示されていないことです。サッポロは過去15年間、経営計画を達成できておらず、新中期経営計画の実現可能性にも疑問が残ります。
取締役会の問題点
取締役会にも4つの問題点があります。
1つ目は、サッポロの経営課題を解決するために必要な専門知識や経験が不足していることです。
2つ目は、新任社外取締役として不動産の専門家を選任したことです。これは、取締役会がコア事業の低収益性という課題に対する意識が低いことを示しています。
3つ目は、新任社外取締役がメインバンク出身であり、株式持ち合い関係にある企業の代表取締役であることです。これは、少数株主の利益と相反する可能性があり、独立性に疑問が残ります。
4つ目は、3Dインベストメントパートナーズとの対話において、社外取締役の執行に対する監督機能の欠如が明らかになったことです。
サッポロHD側の不動産事業に対する方針
上記を踏まえ(てなのかは分かりませんが)、サッポロHDが2023年度通期決算説明において、下記のように不動産事業に外部資本を導入することに言及しました。
方向性と位置付け
- 中長期的な方向性: 将来的には、特に海外を中心に、不動産に対する外部戦略パートナーからの資本導入を含め、保有形態を多様化していく考えである。
- 酒類事業とのシナジー: 不動産は、酒類事業のブランド接点・顧客接点を提供する場と位置づけ、この取り組みをさらに強化していく。
具体的な内容
- コア物件の価値向上とまちづくりの推進: 恵比寿と札幌エリアの保有物件の価値向上を図り、まちづくりを推進する。
- 恵比寿エリアの取り組み: ガーデンプレイスのリニューアル後のリーシング強化、YEBISU BREWERY TOKYO の開業による情報発信の強化。
- 札幌エリアの取り組み: ホテルリニューアルオープン、サッポロファクトリー駐車場跡地のオフィス開発。
- 資産回転型ビジネスへの投資抑制: 金利動向や不動産・建築市況を鑑み、資産回転型の投資ビジネス(VA流動化・エクイティ投資)については投資抑制を図る。
今後の経営方針
サッポロホールディングスは、今後の経営方針として、酒類事業への集中を掲げています。
- 強みを生かした酒類事業の成長: ビール事業で培ってきた強み(品質、ブランド力、商品開発力・生産技術力、顧客接点・ブランド体験の場)を生かし、国内外でビール市場の創造に取り組む
- 事業ポートフォリオの変革: 酒類事業を中核とし、食品飲料事業や不動産事業とのシナジーを追求。将来的には、グループの総力を酒類事業の成長に集中させる
- 海外事業の拡大: M&Aや専門組織の設置などを通じて、海外事業を国内と同規模に成長させる
- 新たな市場の創造: RTDやノンアルコール領域で、外部パートナーとの共創も視野に入れ、新たな市場を創造する
- 組織運営の再構築: 酒類事業を中核とした事業グループ体制への移行や、事業持株会社化も視野に入れ、グループ組織体制・ガバナンス体制を再構築する
財務戦略
財務戦略においては、2026年ROE8%以上、海外売上収益およびEBITDA10%/年の成長を目標に掲げています。
- 資本効率の向上: ROICを指標とした事業管理、財務運営を徹底し、ROICツリーを用いた事業モニタリングや事業継続判断基準の厳格化を実施
- 財務の安定性向上: 外部資本を活用し、負債を縮小するとともに、酒類事業への成長投資を機動的に行える体制を構築
- 政策保有株式の削減: 政策保有株式の削減を前倒しで進め、2024年中に資本比率20%未満、2026年には10%未満とする
- 株主還元: 利益成長を伴い、株主還元をさらに充実させる
これらの経営方針と財務戦略を通じて、サッポロホールディングスは、中長期的な企業価値の向上を目指しています。