なぜこの記事についてまとめるのか
スタートアップ企業や中小企業の資金調達は、その成長を左右する重要な要素です。 担保や保証に依存した従来の融資慣行は、革新的なアイデアやビジネスモデルを持つ企業にとって、大きなハードルとなっていました。
本稿で解説する「事業性融資の推進等に関する法律案」は、企業の将来性に着目した新たな資金調達手段を提供し、こうした課題を解決する可能性を秘めています。 特に、成長の原動力となる事業そのものを担保とする「企業価値担保権」の創設は、画期的な制度と言えるでしょう。
概要
本法律案は、日本経済の活性化を促進する上で極めて重要な一歩と言えるでしょう。 特に、スタートアップ企業や中小企業にとって、事業そのものを担保にできる「企業価値担保権」の創設は、資金調達のハードルを大幅に下げ、成長を加速させる可能性があります。
この制度が有効に機能するためには、企業価値の適切な評価や担保権実行時の手続きなど、実務的な課題をクリアしていく必要があります。 また、金融機関側も、従来の融資慣行から脱却し、企業の事業性に着目した審査能力を高めることが求められます。
同法の目的
2024年3月15日に国会に提出された「事業性融資の推進等に関する法律案」(以下、新法)は、不動産などの有形資産を担保とせず、無形資産を含む事業全体を担保とする新たな担保形態「企業価値担保権」を創設することを主な目的としています。
従来の融資慣行は、不動産担保や経営者保証への依存度が高く、スタートアップ企業等の資金調達を阻害する要因となっていました。 新法は、こうした課題を解決し、企業の事業性を重視した融資を促進するための法整備です。
記事によると事業性融資推進法案が21日、衆院本会議で可決され、6月の会期末までの成立を目指し、成立から2年以内に施行するとのことです。
企業価値を担保に融資可能に、新法が衆議院通過 - 日本経済新聞金融庁は企業がもつ技術力やキャッシュフローの創出力といった事業価値を金融機関が担保として融資できるようにする。事業の価値自www.nikkei.com
新法は、事業全体を対象とした担保権を創設することで、不動産を目的とする担保権や個人保証に依存した融資慣行を是正し、資金調達の円滑化を図ることを目的としています。
企業価値担保権
企業価値担保権は、新法で創設される新しい担保権です。 その概要は以下の通りです。
- 担保目的財産: 将来キャッシュフローを含む「総財産」
- 担保権者: 企業価値担保権信託会社(新法で新設される信託業の免許を受けた企業)
- 設定方法: 借り手と担保権者の間で企業価値担保権信託契約を締結
担保目的財産
企業価値担保権の担保目的財産は、将来キャッシュフローを含む「総財産」です。土地や建物などの有形資産に加えて、ノウハウ・知的財産権等の無形資産も担保の対象となるため、スタートアップ企業などにとっても融資を受けやすくなります。
担保権設定・当事者
企業価値担保権の当事者は、借り手(債務者・設定者)、貸し手(被担保債権者)、担保権者(企業価値担保権信託会社)の三者です。
借り手は株式会社または持分会社に限られます。 貸し手については、特段の制限は設けられていません。 担保権者は、新法で新設された「企業価値担保権信託会社」のみとなります。
借り手に対する制限
借り手は、企業価値担保権の設定後も、目的となった財産の利用および処分が可能です。 ただし、以下の行為には担保権者の同意が必要です。
- 重要な財産の処分
- 事業の全部または重要な一部の譲渡
- 正当な理由なく商品または役務を、その供給に要する費用を著しく下回る対価での供給
個人保証等の制限
企業価値担保権が担保する債務について、経営者等の個人保証や経営者等の生活に欠くことができない財産による担保が付されている場合、権利行使が制限されます。
実行手続
借り手が期限までに弁済を行わない場合、担保権者は企業価値担保権を実行することができます。 実行は第1順位担保権者が裁判所に申し立てを行い、裁判所が選任した管財人が事業の経営権や財産の処分権を得て、事業の継続価値を維持しながら換価を行います。
推進機関の創設
新法では、企業価値担保権の利用促進・支援を行う機関として、認定事業性融資推進支援機関と事業性融資推進本部が創設されます。
認定事業性融資推進支援機関
認定事業性融資推進支援機関は、借り手となる事業者や貸し手となる金融機関に対して、企業価値担保権の利用に関する指導や助言を行います。
事業性融資推進本部
事業性融資推進本部は、金融庁に設置される特別の機関で、事業性融資の推進に関する政策の企画・立案や関係する行政機関との事務をつかさどります。
今後
新法は、国会で成立すれば、公布の日から2年6カ月を超えない時期に施行されます。 無形資産にも注目した企業価値担保権は、スタートアップ企業などに対する新たな資金供給手段として期待されています。
しかし、貸し手は企業価値の見極めが求められるなど、課題も残されています。 企業価値担保権が積極的に活用され、有効な資金調達手段となることが期待されます。
まとめ
新法は、企業の事業性に着目した融資を促進し、スタートアップ企業や中小企業の資金調達を円滑化することを目的としています。 特に、企業価値担保権の創設は、革新的なビジネスモデルを持つ企業にとって大きなチャンスとなるでしょう。 一方で、企業価値の評価や担保権実行時の手続きなど、実務的な課題を解決していく必要があります。 新法の施行により、日本経済の活性化に貢献することが期待されます。