上場企業において「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」などが求められ、アクティビストを含む株主からの圧力が強まっています。資本効率の向上に向けて、ポートフォリオ整理や資本の最適配分が一層求められています。

ここでは、経済産業省が2020年に策定・公表した「事業再編実務指針」を改めて概観し、その意義と理解すべきことをまとめます。

このガイドラインは、大企業がグローバル競争で勝ち抜くための事業再編の進め方を示したものです。まずは、この「事業再編実務指針」の重要ポイントを、初心者にもわかりやすく解説します。

その上で、「ベストオーナー」とは何かについて説明します。

1. 経営陣は何をすべきか?

① 経営者の役割

  • 経営者の使命は、企業の持続的成長のために経営資源を最適配分することです。
  • そのためには、事業ポートフォリオを常に最適化し、シナジー(相乗効果)を生み出すことが重要です。
  • 事業ポートフォリオの最適化とは、自社にとって本当に必要な事業は何か、どの事業に注力すべきかを常に考え、見直すことです。
  • シナジーとは、複数の事業を組み合わせることで、それぞれの事業単体よりも大きな成果を生み出すことです。
  • 従業員の利益を守るためにも、成長が見込めない事業は早期に整理する決断も必要です。
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https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/pdf/20200731003-4.pdf

② 事業ポートフォリオマネジメントの進め方

  • 事業ポートフォリオマネジメントとは、自社の事業全体を管理し、最適化するための活動です。
  • 経営者がリーダーシップを発揮し、責任部署を決めて体制を整えることが重要です。事業部門横断的な「ファンクショナルマネジャー」の設置が有効です。
  • CFO(最高財務責任者)が財務の視点から、CSO(最高戦略責任者)が戦略の視点から、連携して事業ポートフォリオを検討することが望ましいです。
  • 事業評価の仕組みを作り、資本収益性や成長性などを定量的に評価することが大切です。

③ 経営目標や業績評価指標の設定

  • 売上高や利益の絶対額だけでなく、資本収益性(ROIC、ROE)や成長性を重視した目標設定が重要です。
  • 経営陣の報酬に株式報酬を取り入れることで、企業価値向上へのインセンティブを高めることができます。

2. 取締役会・社外取締役は何をすべきか?

① 取締役会の役割

  • 取締役会は、事業ポートフォリオに関する基本方針を決定し、経営陣の監督を行います。
  • 少なくとも年1回は基本方針を見直し、中長期的な企業価値向上の視点から検討することが重要です。
  • 事業ポートフォリオマネジメントの実施体制や情報開示についても確認が必要です。

② 社外取締役の役割

  • 社外取締役は、独立した立場から事業ポートフォリオに関する検討に積極的に関与し、経営陣をサポートします。
  • 必要に応じて、事業の切出し(売却や分社化)を後押しすることも重要です。
  • 投資家との対話を通じて、外部の視点を取締役会に伝えることも期待されます。

③ 取締役会構成と実効性評価

  • 取締役会は、多様なメンバーで構成し、高度な人材を確保することが重要です。
  • 事業部門の視点ではなく、全社的な視点で議論できるメンバーで構成することが望ましいです。
  • CEOの選任や経営陣の報酬設計を通じて、事業ポートフォリオの最適化を促すことも大切です。
  • 取締役会がその役割を適切に果たしているか、実効性を評価し、改善していくことも必要です。

3. 投資家との対話や情報開示の重要性

① 投資家との対話

  • 投資家との対話を充実させることで、企業は投資家の視点を理解し、信頼関係を築くことができます。
  • 企業理念や経営戦略、事業ポートフォリオに関する基本方針などを具体的に説明することが重要です。
  • 投資家は、中長期的な成長戦略を理解し、企業を後押しすることが期待されます。

② 情報開示

  • 有価証券報告書などを通じて、事業ポートフォリオに関する情報を積極的に開示することが重要です。
  • 企業理念、ビジネスモデル、経営戦略、事業ポートフォリオマネジメントの仕組みなどを具体的に説明しましょう。
  • 事業セグメントごとの情報も開示し、投資家が分析しやすい環境を整えることが大切です。
  • 株主からの提案や意見には、取締役会で真摯に検討し、対応することが求められます。

4. 事業再編を実行する際のポイント

① 経営陣の姿勢

  • 経営者は、事業の切出しが最善の選択であるという確信と覚悟を持つことが重要です。
  • 売却先の選定や譲渡条件の交渉を慎重に行い、関係者全員にとってメリットがあるように努めましょう。
  • 従業員や取引先など、様々なステークホルダーに対して丁寧に説明し、理解と協力を得ることが不可欠です。

② 切出し手法の選択

  • 事業の切出しには、様々な手法があります。
  • スピンオフ(分社化)やエクイティ・カーブアウト(子会社上場)など、自社にとって最適な手法を選びましょう。
  • 少数株主との利益相反に注意し、ガバナンス体制を整備することも大切です。

ベストオーナーとは

「事業再編実務指針」では、ベストオーナーとは、ある事業の企業価値を中長期的に最大化できる経営主体を指します。

具体的には、以下のような要素を持つ企業がベストオーナーであると考えられます。

  • 事業の成長に必要な経営資源(資金、人材、技術など)を持っている
  • 事業の成長戦略を理解し、実行できる能力がある
  • 事業とのシナジー(相乗効果)を生み出し、事業価値を高められる
  • 事業の特性や市場環境に精通している

例えば、ある事業が新しい技術開発を必要としている場合、その技術開発に必要な資金や人材を持つ企業がベストオーナーである可能性が高いです。 また、その事業が特定の市場で高いシェアを持つ場合、その市場に精通している企業がベストオーナーであると考えられます。

ベストオーナーが事業を運営することで、以下のようなメリットを享受することが出来ます。

  1. 中長期的な企業価値の向上:
    ベストオーナーは、事業の中長期的な企業価値を最大化することが期待される経営主体です。これは、単に短期的な利益を追求するのではなく、持続可能な成長を目指すことを意味します。
  2. 経営資源の最適な活用:
    ベストオーナーは、事業とその従業員を最も輝かせることができる経営資源を提供できる主体です。これには、必要な投資や人材の育成、適切な経営環境の整備が含まれます。
  3. 資本コストを上回る収益力:
    ベストオーナーは、当該事業が資本コストを上回る収益力を持つことを確保できる主体です。これは、事業が持続的に利益を生み出し、成長するための基盤を提供することを意味します。
  4. 競争優位性の確保:
    ベストオーナーは、事業が競争優位性を持ち続けるための戦略的な支援を行うことが求められます。これには、事業のポートフォリオを適切に管理し、必要に応じて事業の売却や買収を行うことが含まれます。
  5. 従業員の利益確保:
    ベストオーナーの下で事業が運営されることにより、従業員はより良い報酬や職場環境、教育研修の機会を享受できるとされています。これにより、従業員のモチベーションや生産性が向上し、事業全体のパフォーマンスが向上することが期待されます

自社がベストオーナーでない事業を抱えている場合、その事業は自社の下では成長戦略の実現が難しい可能性があります。 たとえその事業が黒字であっても、長期的な視点で企業価値を最大化するためには、早期に事業を切り出し、ベストオーナーに譲渡することが重要です。 これにより、自社はより強みを持つ事業に経営資源を集中させ、持続的な成長を目指すことができます。

ベストオーナーは、必ずしも自社であるとは限りません。他社、投資ファンド、あるいはMBO(経営陣による買収)なども、ベストオーナーになり得ます。重要なのは、誰がこの事業を最も成長させられるかという視点で、客観的に判断することです。