スタートアップの資金調達を中心とした現状についてまとめます。
日本のスタートアップ市場
- 資金調達: 2023年の日本のスタートアップ資金調達額は7,536億円で、前年比で22%減少しました。これは、世界的な資金調達難が日本にも遅れて影響を及ぼしたためです。特にレイターステージのスタートアップの資金調達が不振で、1社あたりの調達額・評価額ともに下向き傾向にあります。
- エグジット: 2023年のIPO件数は前年を下回り、M&A件数も減少しました。特に注目されたのは、宇宙系スタートアップ(ispace、QPS研究所)のIPOです。
- VC:日本のVCファンド募集状況は全体として明確なダウントレンドは見られませんが、初号ファンドの募集進捗が遅れています。2023年のファンド募集活動は低調で、新興ファンドマネージャーのファンドレイズが不調です。EXIT環境の悪化や上場株価低迷が影響しています。
スタートアップ資金調達額の前年比減の理由
1. 世界的な資金調達難
2022年から顕在化した世界的なスタートアップ資金調達難が、日本にも約1年遅れて影響を及ぼしました。特にレイターステージのスタートアップの資金調達が不振であり、1社あたりの調達額や評価額が下向き傾向にあります。
2. 金融市場の不安定性
高金利政策やインフレの影響により、投資家のリスク回避傾向が強まりました。これにより、スタートアップへの投資が減少し、資金調達が難しくなりました。
3. エグジット環境の悪化
IPOやM&Aの件数が減少し、EXIT環境が悪化しました。これにより、ベンチャーキャピタル(VC)からの分配が減少し、VCファンドの募集活動にも逆風が吹いています。
4. 投資家の選別強化
投資家がより慎重かつ選別的になり、資金を投入するスタートアップの質を重視するようになりました。これにより、資金調達が成功するスタートアップの数が減少しました。
5. 特定セクターへの集中
生成AIなど特定のセクターへの投資が活発である一方で、他のセクターへの投資が減少しました。これにより、市場全体の資金調達額の増加を牽引するテーマが不足している状況です。
日本のスタートアップにおける1社あたりの資金調達額とバリュエーションの動向
スタートアップの資金調達時の企業評価額(バリュエーション)は、ステージ別に大きな変動が見られます。特にレイターステージの企業評価額が大幅に下落しています。
- ステージ別のバリュエーション:レイターステージ: 2021年以降、特にレイターステージの企業評価額が大幅に下落しています。これは、上場株式市場におけるグロース株の株価評価の低迷が影響していると考えられます。
- 上場株式市場の影響: 代表的なSaaS企業30社の平均PSR(株価売上高倍率)は、2021年ピーク時に20倍を上回っていたが、現在では6倍近辺にまで低下し、横ばい推移が続いています。
- 特にシリーズDの評価額下落幅が大きいことが報告されています。
スタートアップM&Aの現状と課題
現状
- 日本では、スタートアップのエグジット手段としてIPO(新規株式公開)が主流であり、M&Aの割合は低いです。
- 大企業が自社の成長戦略の中にM&Aを組み込むことは、オープンイノベーションによる中長期的な価値向上につながります。
課題
- 自前主義の傾向が強く、M&Aが積極的に活用されていない。
- M&A時のバリュエーションについて、買収企業とスタートアップの目線が合わない。
- のれんの減損リスクや投資家からのネガティブな評価を懸念する。
スタートアップM&Aバリュエーションの考え方
目線相違の発生要因
- バリュエーションの目線相違は、情報の非対称性に起因することが多いです。特に事業計画に対する認識の相違が原因です。
- スタートアップの「非財務情報」や「シナジー効果」に関する情報を適切に把握し、認識をすり合わせることが重要です。
解決策
- アーンアウト条項(一定の目標達成と連動させて追加で代金を支払う)や株式対価M&A(買収対価として株式を用いる)を検討することが有効です。
スタートアップ育成5か年計画
目標
- 投資額の拡大: 2027年度までにスタートアップへの投資額を10兆円規模に拡大
- ユニコーン企業の創出: ユニコーン企業を100社創出
- スタートアップの創出: スタートアップを10万社創出
3つの柱
1. 人材・ネットワークの構築
- 海外派遣事業やスタートアップビザの認定スキームの拡大
- スタートアップキャンパス構想(例: MITとの連携による技術革新促進)
2. 資金供給の強化と出口戦略の多様化
- 官民ファンドの活用: ディープテック領域などでの官民ファンドの役割強化
- 株式投資型クラウドファンディング(CF): 募集上限の引き上げ(1億円から5億円)や投資家保護策の見直し
- 特定投資家私募制度: 証券会社の参入促進や特定投資家の定義の見直し
- セカンダリー市場の整備: PTS(私設取引システム)での未上場株式取引の認可基準緩和
3. オープンイノベーションの推進
- 大手企業とスタートアップの協業を促進するプログラム(例: Tokyo Innovation Base)
その他の支援策
融資・補助金
- 日本政策金融公庫の創業支援制度: スタートアップ向けの融資を拡充
- 補助金・助成金: 低利率の融資や税制措置、直接補助金の給付
税制優遇
- エンジェル税制: スタートアップへの投資に対する税制優遇措置
- ストックオプション税制: 自社株購入権の税優遇措置の拡充
公共調達
- 公共調達の拡大: スタートアップとの契約比率を現状の0.8%から3%に拡大
今後の見込み
1. 政府の支援策
岸田政府が発表した「スタートアップ育成5か年計画」が本格的に動き出しており、これがスタートアップ投資の追い風となる可能性があります。
2. コミュニティ形成と支援体制の強化
地方のスタートアップエコシステムの発展には、コミュニティの形成や内外をつなぐ翻訳者の存在が重要とされています。.
3. ユニコーン創出の取り組み
東京コンソーシアムなどがユニコーン級企業の創出を目指し、スタートアップの成長を強力に後押ししています。
4. 海外市場との連携
日本のスタートアップが海外市場に進出するための支援や、海外ベンチャーキャピタルとの連携が強化される見込みです。
5.投資家の慎重な姿勢
2024年第1四半期も、地政学的リスクや経済不安が続くため、投資家は慎重な姿勢を維持し、デューデリジェンスに時間をかけると予想されます。