盛り上がりを見せるアクティビズムの直近の動きについてまとめます
株式市場におけるアクティビズム(株主アクティビズム)とは、株主が投資先企業の経営に積極的に関与し、企業価値の向上や株主利益の確保を目指して行動することを指します。
アクティビズムの定義
一般的な定義
アクティビズムは、株主が保有する株式を通じて企業の経営に影響を与えるために積極的に行動することを指します。これには、経営陣との対話、株主提案、議決権行使、公開キャンペーン、訴訟などの手段が含まれます。
目的
アクティビズムの主な目的は、企業価値の向上と株主利益の最大化です。具体的には、経営効率の改善、ガバナンスの強化、資本効率の向上、事業ポートフォリオの見直し、株主還元策の強化などが挙げられます。
株主アクティビズムの一般化
活動の活発化
- アクティビスト投資家の活動が活発化しており、株主提案数は過去最高を年々更新しています。株主提案に至らずとも、アクティビスト投資家からの面談依頼や書簡送付が増加しており、多くの企業でアクティビスト投資家とのエンゲージメントが経営課題となっています。
一般機関投資家の参入
- 一般機関投資家も投資先企業とのエンゲージメントを積極的に実施しており、一部は株主提案に至る事例も見られます。これにより、株主アクティビズムが一般化しています。
M&Aアクティビズムの拡大
介入の増加
- 特にアクティビスト投資家によるM&Aアクティビズムが資本市場で話題となっています。従来型の経営陣同士が合意したM&A取引に対し、TOB価格や経営統合比率に不満を持ち、これらの是正を狙って介入するケースが増えています。また、自らをスポンサーとする非上場化や事業ポートフォリオの見直しの提案など、投資先企業に対するM&Aアクションを起因させる行動も増加しています。
企業の対応
- 上場企業としては、平時から企業価値向上に向けて能動的に取り組むことで、株主アクティビズムのターゲット企業となるリスクを低減させることが重要です。特に、アクティビスト投資家によるM&Aアクティビズムへの対応についても、平時からの企業価値向上への取り組みに加え、一般株主の利益を意識したM&A取引への対応が求められています。
経済産業省の「企業買収における行動指針」
説明責任の厳格化
- 経済産業省の「企業買収における行動指針」の策定・公表以降、M&Aにおける上場企業側の説明責任は厳格化されています。これにより、同意なき買収提案が増加し、アクティビスト投資家によるM&Aアクティビズムも活発化すると考えられます。
企業の戦略
- 上場企業は平時から企業価値向上に向けた取り組みを実行し、有事においては、平時からの企業価値向上に向けた取り組みの実績を武器に、一般株主からの経営陣に対する支持を集めることが求められます。
要求内容の例
株主還元策の要求
- 増配や自社株買い:アクティビスト投資家は、企業に対して配当の増額や自社株買いを要求することがあります。これにより、株主価値の向上を図ります。
経営改善策の提案
- 経営陣の交代:例えば、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントは、学研ホールディングスに対して社長解任の株主提案を行いました。
- 取締役の選任:ストラテジックキャピタルは、ダイドーリミテッドの株主総会で取締役の選任に反対し、新たに6人の取締役の選任を求めました。
事業ポートフォリオの見直し
- 非効率な事業の売却:アクティビスト投資家は、企業に対して非効率な事業や遊休資産の売却を提案することがあります。これにより、企業の資源をより効率的に活用することを目指します。
M&A関連の提案
- 非上場化の提案:アクティビスト投資家は、自らをスポンサーにした非上場化の提案を行うことがあります。例えば、村上グループは自社グループで企業の経営権を取得し、事業を他社に売却するスキームを活用しています。
- 業界再編の提案:他社との経営統合や事業売却を提案することもあります。これにより、業界全体の効率化や競争力の向上を図ります。
ESG関連の提案
- 気候変動対策:欧州系一般機関投資家は、大手電力会社や自動車メーカーに対して気候変動問題に関連した株主提案を行っています。
これらの要求は、企業の経営改善や株主価値の向上を目的としており、アクティビスト投資家は積極的に企業に対して働きかけを行っています。
エンゲージメントの手法
議決権行使
株主総会において戦略的に議決権を行使し、企業行動に影響を与える手法です。議案に対して賛否を表明するだけでなく、企業にプレッシャーを与えたり、変化を促したりすることが含まれます。
対話(エンゲージメント)
企業の運営方針を確認し、企業価値を高める提案や議論を積極的に行うことを指します。特にESG投資においては、企業がサステナビリティに対してどのような方針で行動しているかを監視し、改善を促す対話が重要です。
エスカレーションの事例
エンゲージメントが進まない場合、投資家はエスカレーション(段階的な圧力強化)を行うことがあります。具体的な手法としては、以下のようなものがあります:
- 書簡送付:経営トップや取締役会に対して書簡を送付し、改善を求める。
- 面談依頼:経営トップや社外取締役との面談を通じて直接対話を行う。
- 議決権行使:取締役選任議案への反対や株主提案議案への賛成を通じて圧力をかける。
- 公開キャンペーン:メディアを通じて企業に対する意見を公表し、広く株主の支持を集める。
M&Aアクティビズムの概要
定義
M&Aアクティビズムとは、企業のM&A活動に介入するアクティビスト投資家の行動を指します。これには、TOB(株式公開買付け)価格や経営統合比率の見直しを求める介入や、自らM&Aを仕掛ける行動が含まれます。
M&Aアクティビズムの類型
1. 経営陣同士が合意したM&A取引に対する介入
- 取引条件の見直し:TOB価格や株式交換比率の見直しを狙う介入です。例えば、TOB価格が低すぎると判断した場合に、価格の引き上げを求めることがあります。
2. 自らM&Aを仕掛ける
- 非上場化:アクティビスト投資家がスポンサーとなる非上場化:アクティビスト投資家が自らをスポンサーとしてTOBを実施し、企業を非上場化する提案を行います。プライベートエクイティファンドの紹介による非上場化:アクティビスト投資家がプライベートエクイティファンドを紹介し、非上場化を提案するケースです。
- 業界再編:他社との経営統合を提案し、業界全体の再編を促進する行動です。
- 事業売却:特定の事業の売却を提案し、企業の事業ポートフォリオの見直しを促します。
- 上場子会社の再編:上場子会社の売却や完全子会社化を提案し、親子上場の解消を目指す行動です。
- 保有株式の第三者への売却:アクティビスト投資家が保有する株式を第三者の事業会社などに売却し、業界再編の契機とする行動です。
具体的な事例
- 日本市場に参入するアクティビスト投資家数は大きく増加しており、株主提案数も増加しています。2014年以前は株主提案を受ける上場企業数は30社~40社でしたが、2023年には112社に達しています。
1. エフィッシモ・キャピタル・マネジメント
- 東芝:エフィッシモは東芝の大株主であり、2020年7月の定時株主総会で運営の適正性について独立調査を求める株主提案を提出し、2021年3月の臨時株主総会で可決されました。この事例は日本のコーポレートガバナンスにおいて画期的な出来事とされています。
2. ストラテジック・キャピタル
- 極東開発工業:2023年6月の株主総会に向けて、配当の引き上げを求める株主提案を提出しました。
- 文化シヤッター:同様に、配当の引き上げを求める株主提案を行いました。
3. オアシス・マネジメント
- フジテック:オアシスはフジテックに対して臨時株主総会の招集を請求し、取締役の解任を求める株主提案を行いました。
- 京成電鉄:オアシスは京成電鉄に対して保有するオリエンタルランド株の一部売却を要求しました。
4. バリューアクト・キャピタル・マネジメント
- オリンパス:バリューアクトはオリンパスに対して企業改革プラン「Transform Olympus」を提案し、株価を3倍に上昇させました。
- セブン&アイ・ホールディングス:セブン&アイに対してコンビニ事業の分離を提案しました。
5. 村上グループ
- 学研ホールディングス:村上グループは学研ホールディングスに対して社長解任の株主提案を行いました。
- 建設業D社:村上グループはMBOによる非上場化を提案し、会社側は村上グループの保有株式を自己株TOBで取得しました。
6. パリサー・キャピタル
- 京成電鉄:パリサーは京成電鉄に対して保有するオリエンタルランド株の一部売却を要求し、企業価値向上を図る提案を行いました。
7. 3Dインベストメント・パートナーズ
- 東芝:3Dインベストメントは東芝の取締役会と執行部に対し、中期経営計画の策定および発表、買収提案の公募、取締役会の構成に関する株主との協議を提案しました。
8. エリオット・マネジメント
- 大日本印刷:エリオット・マネジメントは大日本印刷の株式を大量保有し、資本効率の改善を求める株主提案を行いました。
9. サード・ポイント
- ソニー:サード・ポイントは2010年代にソニーの株式を大量保有し、エンターテインメント事業や半導体事業の分離・独立を要求しました。この要求はソニーの経営に大きな影響を与えました。
10. シルチェスター・インターナショナル・インベスターズ
- 大林組:シルチェスターは大林組に対して特別配当の実施を求める株主提案を行いました。シルチェスターは多くの日本企業に投資しており、京都銀行や電通グループなども対象としています。
11. CVCキャピタル・パートナーズ
- 東芝:CVCは2021年に東芝に対して買収案を出しました。この提案は東芝の経営に大きな影響を与え、企業統治の改善を促しました。
これらの事例は、アクティビスト投資家が企業に対して具体的な経営改善や株主還元策を提案し、企業価値の向上を目指していることを示しています。